第334回(3月16日)切れ目ない安保法制⑪ ODA大綱と防衛装備庁
 安倍内閣は2月1 0日、 政府開発援助(ODA)の理念や原則を定めたODA大綱を見直し、 新たな海外援助の基本方針を示す「開発協力大綱」を閣議決定した。 これをもとに外局の「防衛装備庁」を設置するとともに、 文官優位の部隊運用(作戦)を制服組主体に改め 「運用一体化」 を目指す防衛省設置法改正案を6日に決定し、 今国会に提出した。 新ODA大綱はこれまでの大綱で事実上禁じてきた他国軍への支援を災害救助など非軍事の目的に限って可能にする内容。 また、 初めて「国益」という名目で日本の安全保障や経済的利益に繋がる支援を重視、 日米欧 先進国が揃って国益とODAを強く結び付けようとしている。 日本は1955年に途上国支援を開始。92年にODA大綱を策定、2003年に改定されたが、「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」と規定。 民生分野であっても、他国軍にはODAを使わない原則を守ってきた。 だが、安倍政権は13年の国家安全保障戦略で「積極的平和主義」に基づくODAの戦略的活用を明記。 「集団的自衛権行使の限定容認」、 新 「防衛装備移転三原則」 と並び、 新ODA大綱を 「3本の矢」 と位置づけて改定作業を進めてきた。 新大綱はODA予算が先細りになる中、 政府の裁量で「選択と集中」を進める狙いがある。 経済が発展してODAの対象国でなくなった 「卒業国」 への支援制限も撤廃した。

戦略的開発協力に6項目を推進
 「日本と援助される側が(双方に利益を生む)ウインウインの関係を作り上げる協力のあり方を目指さねばならない。 より戦略的な開発協力を推進する」と岸田文雄外相は語った。 大綱の骨子は ①わが国の平和と安全の維持・繁栄の実現といった国益の確保に貢献 ②非軍事目的の協力で軍が関係する場合も個別具体的に検討 ③法の支配の確立、 民主化の促進・定着など普遍的価値の共有 ④開発が進んで所得が一定水準にある国にもニーズに応じて協力を行う ⑤民間部門や地方自治体などとの連携強化 ⑥女性・社会的弱者など多様な主体の参画―― などだ。 他国軍への支援を 「民主目的、 災害救助など非軍事目的」と限定し、 支援の可否は「個別具体的に検討する」 とする一方、 「国益」 という言葉を使って国内企業との連携強化や 「ODA卒業国」 となった中進国への積極的な支援も盛り込んだ。 新ODAの 「開発協力大綱」 は東南アシアで存在感を高める中国に対抗する狙いが大きい。 日本も戦後暫らくは海外からの資金援助に頼っていたが、 55年から援助する側に回った。 東南アへのODAは 「戦後賠償」 の意味合いを持ち、 中国へのODAも国交回復後の79年度から始まり、 長年最大の支援先だった。 その援助資金が中国の軍事力増強や中国からのアフリカ支援に迂回されるとの懸念も生じていた。 冷戦後、 日本のODAは紛争を経た国・地域への復興支援が多く、 対象国はアフリカ、中南米にも拡大、 一時は世界一の支援国になった。

日本抜き中国は紐付き援助拡大
 しかし、 長期デフレなど経済環境が大きく変わりODA予算は97年度の約1兆1700億円をピークに15年連続で減少、 13年度は約5600億円と半分以下だ。 対中ODAは中国の経済発展や日中関係の悪化などから2008年度以降は大幅減額した。 逆に中国は世界第2の経済大国へ躍進、 他国への支援は12年までの3年間で約1兆7200億円。 単純に1年にならすと支援額は日本を追い抜いた。しかも、 アフリカや東南アに進出し資源開発、 交通インフラなどに支援、 中国企業が受注する「ひも付き援助」を拡大している。 昨年10月には新興国BRICS仲間のブラジル、 ロシアとともに途上国へのインフラ整備に融資する銀行の設立を決めた。日本の新ODA大綱はこうした中国の台頭を意識して、 従来の 「貧困削減」 に 「法の支配」 「民主化の促進・定着」を加え、中国が支援に力を入れる東南ア諸国連合(ASEAN)を念頭に他国軍への間接的支援を可能にするよう改めた。 実際、政府はODAを使ってベトナムに巡視船に転用できる中古船の供与を表明。 軍に直接送れないため2月、 1隻の漁船をベトナム海上警察のドックに送った。 軍事政権時代に中国ベッタリだったミャンマーは11年3月以降、 民主化に踏み出したため、 日本は集中的な援助を投入してきた。

国連改革睨み卒業国にODA支援
 ミャンマーは 「非軍事目的」 のODAに適うため、 現役軍人を別の官庁に一旦異動させて日本に留学させたりしているが、 政府はそうした留学支援やカンボジアへの地雷撤去機材の提供なども検討している。 首相が1月の中東訪問中カイロで 「ISILと闘う周辺各国に2億ドルの支援」 を約束したのもODAの活用である。 中国は 「海のシルクロード」 構想を立て、 “真珠の首飾り” と称して、シルクロードの要所となる拠点港を東シナ海、 インド洋の周辺国に建設しようとしている。 首相が集団的自衛権を巡る議論の際に、 海上交通路(シーレーン)の重要性を強調したのは、 中国の動きを意識して、 日本と中東を結ぶ交通路の要であるインドネシアや富裕国だが廃棄物処理に悩むオマーン、 アラブ首長国連邦(UAE) など中東湾岸諸国へのODA支援拡大を想定したものだ。 トリニダード・トバコ、バルバトスなどカリブ諸国の4カ国は 「ODA 卒業国」 だが、 首相は昨年7月、 「カリブ共同体」(14カ国・1地域)との首脳会合で、 ODA支援の復活を伝え、 省エネの技術協力や防災対策、 水資源の保護などの援助を検討している。 国連安保理事会の常任理事国入りを目指す日本は今年、 非常任理事国に立候補するが、 より多くの支持国を増やすため、 ブラジルやカリブ諸国、 アフリカなどへのODA支援を拡大、 今後の国連改革での支持を得たいとしている。

防衛装備品調達・共同開発一元化
 新大綱は途上国の貧困対策を最優先してきたこれまでの方針に代わり、 ODA を日本企業による投資の環境整備に使い、 途上国の経済成長を促すことで日本経済の利益に繋げる 「国益」 重視の姿勢を鮮明にし、 外交政策の戦略性も強調した。 その意味で首相が掲げる 「積極的平和主義」 の外交方針が色濃く示されたもので、 昨年4月、 武器輸出3原則に代わる防衛装備移転3原則を打ち出し、 豪州と潜水艦などの共同技術開発にも乗り出している。 防衛省がまとめた防衛生産・技術基盤戦略では、 防衛企業の海外展開を後押しする財政支援、 武器や装備品に転用できる技術開発に取り組む研究機関への資金援助を打ち出した。 10月にも発足する外局の 「防衛装備庁」 は ①防衛装備品の調達 ②研究開発 ③プロジェクト管理 ④他国との共同開発交渉 ⑤防衛産業に貢献 ⑥人材育成―― など、 これまで陸海空3自衛隊が個別に購入してきた護衛艦や戦闘機など防衛装備品は研究開発から購入まで一元化を図ることで、 コスト削減のメリットが見込まれている。また現在研究と調達の2部門に分かれている組織が統合することで研究開発から量産、維持・廃棄まで総合的に判断できるようになる。 武器輸出司令塔の同庁は1800人 (内自衛官は400人) 規模で、 調達を担う予算は陸海空合わせ約2兆円となる見込み。 これは省全体 (約5兆円)の約4割を占める。

他国軍提供の物資が軍事転用の虞
 13日に東京で開かれた日仏外務・防衛閣僚協議(2プラス2)では、 音波探知機(ソナー)、 無人潜水艇、 ロボット、 サイバー防衛 の少なくとも4分野で共同研究・開発を進めるための日仏防衛装備品協定に署名した。 読売は新ODA大綱について、 2月11日の社説で 「戦略的ODAで国益を追求せよ」 と支援した。 しかし、 朝日は 「日本が送った巡視船が紛争に使われたり、 支援によって整備した空港や道路を軍が利用したりするケース」 などを挙げ、 「他国軍に提供した物資・技術が軍事に転用される可能性は残る」 と転用に歯止めが掛からない点を指摘した。 多くのマスメディアも 「他国軍がODAで浮いた予算を他に回す」 、「本来の目的である貧しい国の経済成長がなおざりにされる」 、「ODAの非軍事・平和主義の理念が骨抜きにされかねない」 、「日本が海外の紛争を助長することになりかねない」 と論評。 防衛装備庁についても、 「防衛装備品を巡って過去に防衛幹部による代金水増し請求事件や官製談合事件が起きたが、 腐敗防止は大丈夫か」 ――などと懸念している。 政府は重要度が高いと判断した武器の輸出を、 国家安全保障会議 (日本版NSC) で審査・承認するが、 確かに、 議事内容の公表は義務付けていない。 このため 、国会ではこれらの問題点を巡って、 大きな論議を呼ぶことになりそうだ。 「文官統制の見直し」 は次回に掲載する。 (以下次号)