第332回(2月17日) 切れ目ない安全保障⑨ 在外邦人救出が最大課題
恒久法制定で与党内対立
 14年度補正予算が成立したことで、自民、公明両党は今国会最大の懸案である安全保障法制の最終協議に入っている。 残虐非道な過激派組織「イスラム国」(ISIL)がジャーナリストの後藤健二さんら2邦人を拘束・殺害した事件で在外邦人の救出が大きな課題となった。与党協議では昨年7月1日に閣議決定した自衛隊の海外活動拡大など集団的自衛権行使の限定容認に加え、 米国が呼びかけた「イスラム国壊滅の有志連合」のテロ掃討にどこまで後方支援を拡大できるかなどが焦点だ。 政府与党は閣議決定の「切れ目ない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない」との文言を盾に、 すばやく派遣できる恒久法の制定を求めている。 これに対し公明党は自衛隊の後方支援には国連決議や国会承認が必要との立場で、 派遣先や活動内容に様々な事例が想定される以上、イラク特措法などと同様、状況に応じて政府や国会が内容を決める特別措置法で対応すべきだと主張している。

積極的平和主義の理念で国際平和
 「切れ目のない安全保障法制を構築することで国民の命と幸せを守りぬく」――首相は1月25日のNHK番組で今国会での安保法制成立に意欲を見せ、27日の衆院本会議でも「テロリストの脅しに屈すれば周辺国への人道支援は出来なくなる」と述べ、今後とも非軍事支援に限って人道支援を積極的に継続していく考えを示した。 1991年のペルシャ湾への掃海艇派遣、92年のカンボジアPKO(国連平和維持活動)派遣で始まった自衛隊の国際協力は活動範囲、分野の拡大を続け、南スーダンPKOには現在インフラ整備や医療支援の隊員350人、ソマリア沖・アデン湾の海賊対処活動には護衛艦やP3C哨戒機などの部隊約600人が従事している。 米国同時テロ後のインド洋での給油活動、イラク戦争後の人道復興支援など、最近活発な国際緊急援助活動を含めると24年間で36件を数える。 首相が言う「積極的平和主義」の理念に基づき国際社会の平和構築に貢献する姿勢を鮮明に示したものだ。 しかし、これまでは、インド洋やイラクなどに自衛隊を派遣するごとに特別措置法を成立させ活動目的や期間を限定したため、首相や自民党内では恒久法の制定論が高まっていた。

戦闘ない限り後方支援活動容認
 イラク特措法では、派遣期間を通じて戦闘が行われていないとする「非戦闘地域」を事前に設定したが、昨年7月の閣議決定では、「他国が『現に戦闘行為を行っている現場』ではない場所で実施する補給、輸送などの支援活動は、当該他国の『武力の行使と一体化』するものではないという認識を基本とし、(中略)必要な支援活動を実施できるよう法整備を進める」とした。 ややこしい文言だが、これは「今後は戦闘が行われていない限り、自衛隊の後方支援活動は認められる」と改めたもので、「戦闘がない限り」において政府は武器・弾薬の提供も可能だ、と説明している。昨年の与党協議では、集団的自衛権行使の限定容認の議論に集中し、後方支援については十分議論が出来なかった。 だが、首相は25日のNHK 番組で「後方支援は武力行使ではない。国連決議がある場合でも、そうでない有志連合の場合でも憲法上は可能だ」と述べた。 これに対し、公明党の山口那津男代表は同じ番組で、「国連安保理決議に基づく国際社会の対応に対する後方支援が基本だ」と語り、国連決議を前提に対応すべきだとの考えを崩していない。

駆け込み警護で武器使用拡大へ
 イスラム国の人質事件について首相は国会答弁やテレビ番組で、「海外で邦人が危害にあった時、現在自衛隊が持てる能力を十分に生かせない」と述べ、邦人保護や救出のための法整備が必要であると強調している。 閣議決定では「当該領域国の受け入れ同意がある場合、武器使用を伴う在外邦人の救出に対応できるようにする(中略)。 『国家又は国家に準ずる組織』が敵対するものとして登場しないことを確保した上で、 『武力の行使』を伴わない国際的な平和協力活動における『駆けつけ警護』に伴う武器使用及び『任務遂行のための武器使用』のほか、 邦人救出などの警察的な活動が出来るよう、 法整備を進める」と規定。後方支援とは別に、 在外邦人の救出やPKOで近くの邦人や他国部隊を助ける「駆け込み警護」などを可能にするため、 平時での武器使用の拡大を認めた。 現在は自衛隊員や一緒に行動する人が攻撃された場合にだけ武器使用が認められ、それ以外は海外での武力行使を禁じた憲法に反する恐れから認められなかったが、過激組織「イスラム国」が国に準ずる組織ではなく、 自衛隊が反撃しても憲法違反にならないとして武器使用拡大を認めた。

集団的自衛権は3要点に限定容認
 野党は参院予算委などで、安倍内閣の人質事件の対応を検証したが、 海外邦人の保護・救出のための法案整備については、 民主党が「いますぐの議論ではない」と牽制、社民党が「自衛隊を出すという発想は根本から間違っている。 (事件は)犯罪行為であって、 その領域国が警察権として対応すべき問題だ。 戦争と犯罪を混同したような話ではいけない」と批判した。 PKOではこれまで道路補修などが中心だった自衛隊の活動拡大をどこまで認めるかが問題点。 集団的自衛権の閣議決定は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、 わが国の存立が脅かされ、 国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、 これを排除し、 わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、 必要最小限の実力を行使することは自衛のための措置として、 憲法上許容される」とし新3要点に沿って限定要因を羅列。 その上、 「明白な危険」があれば「存立事態(仮称)と認定し、国外で武力を使う集団的自衛権を行使できるよう憲法解釈を変更した。

新宗教戦争でアラブの春は冬に暗転
 しかし、 ISILの幹部にはイラク戦争の故フセイン大統領や、 リビア国首脳の故カダフィ大佐の側近ら残党がいて復讐心に燃え、 戦闘資金供給者にも反米感情の強いアラブの部族長が多く、 貧困層の若者が隊員に応募し、 中国のウイグル族青年も参加していると見られる。 ISILはイラクのモスル、 シリアのラッカを制圧、 勝手に「イスラム国」の樹立を宣言し行政機関を設置しており、 自衛隊が邦人救出に着手しようとしても、 シリアなどの「領域国の同意」は得られそうもない。 石原慎太郎元都知事が1月末の産経紙のコラム末尾に「数世紀続いてきた白人の世界支配がようやく終わろうとしている今、 新しい宗教戦争が始まろうとしている」と作家の視点で喝破したように、 「アラブの春」は暗転し暗闇の「アラブの冬」に逆戻りした。 自民党の谷垣貞一幹事長も邦人救出について、 「明らかに領域国、その実効支配の及ぶ範囲の承認を必要としているはずだし、 また武器使用は当然ながら厳格な問題がある。 その枠内で何ができるかという議論が必要だと思う。 まだ議論が未成熟な分野であることも確かだ」と3日の記者会見で語り、 与党協議の難しさを指摘している。

自衛隊派遣に歯止めかける公明
 与党協議では、このように集団的自衛権の行使、自衛隊の海外活動拡大、武器使用基準の見直しを提起した閣議決定に沿って、自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法の改廃や国家安全基本法制定などをどう整備するかが焦点になる。 特に自衛隊が多国籍軍への後方支援を常に出来るようにする自民党の「恒久立法」に対し、公明党は同法制定に慎重姿勢を崩さず、自衛隊派遣に歯止めをかけようと対立しており、調整は時間が掛かりそうだ。 (以下次号)