第330回(1月16日)切れ目ない安保体制⑦ サイバー攻撃の脅威
 生命・財産を脅かすのは核・ミサイル、化学兵器ばかりではない。サイバー攻撃も大きな脅威だ。北朝鮮は通常兵力の老朽化を補うため、コストの低いサイバー攻撃に力を入れ、朝鮮労働党と国防委傘下の7部隊のサイバー人材を5900人に倍増、対外工作機関・偵察総局「121局」がハッキング能力を高めているという。日本の電気・ガス・水道などインフラ施設にサイバー攻撃を仕掛けられたら国民生活は瞬時に麻痺する。その北朝鮮で昨年12月23日、インターネット網が9時間半、接続不能状態に陥り、その後も回線が乱れた。原因は①米国の「適切な措置」②ハッカー集団の攻撃③中国が米国に協力し通信網を遮断④北朝鮮が自衛のため遮断――など諸説ある。だが米メディアによると、米映画会社がサイバー攻撃にさらされたことに対し、米政府機関が「国際法に基づいたサイバー反撃」に踏み切った可能性がある。イスラム過激派のテロ組織「イスラム国」も勢力圏のイラク北部モスルで携帯電話の回線を遮断したり、イスラム教徒らがハッカー攻撃に出ている。世界は武力よりも安上がりで、影響力の大きい通信回線の攻防に移りつつある。政府は9日、菅義偉官房長官が本部長の「サイバーセキュリティ戦略本部」(100人以上)を設置した。サイバー対策は国会召集後、私が委員長の衆院安全保障委員会でも当然、論議されよう。

ソニーへのサイバー攻撃が発端
 サイバー攻撃の発端は、ソニー傘下のソニー・ピクチャーズエンタテインメントが北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディ映画「ザ・インタビュー」を制作したことにある。読売によると北朝鮮側は同映画について、「テロであり戦争行為だ」と、予告編が流れ始めた昨年6月以降、繰り返し批判。米政府にも「上映を黙認すれば、断固たる無慈悲な措置をする」と差し止めを求めてきたという。その後ソニー・エンタプライズには何者かによるサイバー攻撃が仕掛けられ、インターネット上で示された脅しには、米同時テロと関連付ける内容で上映映画館への攻撃を警告、さらにソニーの個人情報などが流失する騒ぎが起きた。安全上の懸念から大手映画館チェーンは上映延期を決め、ソニーも公開中止に追い込まれた。これには米ニューヨーク・タイムズが社説で、「悪意のある体制や犯罪者を一層大胆にさせる危険な前例になるだろう」と懸念を表明、ロサンゼルス・タイムズが権力者を批判する自由を守るべきだと強調。米人気テレビ司会者がツイッターで「テロリストの行動を正当化する臆病で非アメリカ的な行動だ」と非難し、論争が広がった。

米大統領が北朝鮮の関与と断定
 米連邦捜査局(FBI )は12月19日、ソニーのサイバー攻撃に使われたマルウエア(悪意あるプログラム)やIPアドレス(ネット上の住所)が、北朝鮮が過去に使用したものと類似・重複していることなどを理由に、北朝鮮が関与したと断定。 オバマ大統領は同日の記者会見で公開中止の決定を「誤りだった」と批判し、「相応の適切な措置を採る」との方針を示した。これに北朝鮮は「根拠のない誹謗」と否定、逆に事件の共同調査を提案、米側の批判を交わそうとした。北朝鮮による通信網は事実上、中国が運営するネットワークを通じて運用され、サイバー攻撃も北朝鮮から中国を経て行われたと見られることから、ケリー米国務長官は同21日、中国の王毅外相と電話会談し、 ソニーへのサイバー攻撃に北朝鮮が関与したと断定した根拠を説明、 今後の協力を要請したと見られる。王外相は「中国はあらゆる形式のサイバー攻撃、 サイバーテロ行為に反対する」と応じ、 「いかなる国家、 個人も他国の国内施設を利用し第3国にサイバー攻撃を発動することに反対」と答えた。

北朝鮮「最高尊厳を中傷」と反発
 北朝鮮のインターネット回線が9時間半不通になったのは、米中電話会談2日後の23日。不通の原因については上記のように①米国の「適切措置」②ハッカー集団③中国の協力④北朝鮮の自衛措置――の諸説が乱れ飛んだ。AP通信によると、同時に約250の独立系映画館が参加する団体が映画公開を支持する文書をソニー・ピクチャーズ社に送るなど、米国内で公開の世論が高まった。このためソニーは12月24日にはインターネット上での有料配信を始め、25日から「コメディ」映画を公開、330以上の独立系映画館で上映されることになった。ソニーは初日の興行収入が100万ドル(約1億2千万円)を上回ったと発表。北朝鮮は「我が方の最高尊厳を中傷する」と公開に反発しており、同国の国防委政策局は同21日付で「我々の超強硬対応戦は、オバマが宣言した『相応な措置』を超越し、ホワイトハウスやペンタゴン(米国防省)、米国本土全体を狙って果敢に展開される」と、核攻撃をも辞さない声明を発表した。だが、実際には「果敢に」仕掛けると、米国の大量報復を受けて金政権の存立が危ぶまれることから、単なる脅しの予告をしたと見られる。

サイバー報復措置の連鎖に陥る
 米国は、盟主の立場にある北大西洋条約機構(NATO)が「戦時国際法」でサイバー戦にも適用できると言う解釈をまとめた「タリン・マニアル」を公表したことから、米マスメディアはオバマ大統領が「均衡の取れた対応」に踏み切ったと見ている。事実、オバマ大統領は2日、北朝鮮によるソニーへのサイバー攻撃への報復措置として、北朝鮮政府と朝鮮労働党に経済制裁を科す大統領令に署名した。米財務省はこれを受け、北朝鮮の情報・工作機関である人民武力部偵察総局、武器取引などの朝鮮鉱業開発貿易会社と朝鮮檀君貿易会社の3団体、10個人を制裁対象に追加指定した。米企業に対するサイバー攻撃を理由とする米国の制裁発動は初めてのケースだ。経済制裁は北朝鮮に打撃を与えており、これに北朝鮮軍の強硬分子が暴発する虞が多分にある。北朝鮮の核実験実施も懸念されるが、米国の軍事インフラを標的に「サイバー戦争」を仕掛け、報復措置の連鎖に陥る危険があるだろう。これに対し、米国防総省は2016年末までに、情報通信ネットワークを通じてデータなどを破壊・略奪するサイバー攻撃に対処する米軍の部隊を約3倍の6200人規模に増強する。このように、サイバー攻撃は世界動乱の発火点にもなりかねず、要注意だ。      (以下次号)