第329回(1月元旦) 切れ目ない安保法制⑥ 統一地方戦後に国会提出へ
 アジアの安保環境の変化に対処
 政府は4月12,26両日の統一地方選後に安全保障法制の一括法案を通常国会に提出し、同法制に基づく新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)を「今年前半」に公表する。自衛隊と米軍の役割分担を示すガイドラインの内容は、昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権行使の限定容認と表裏一体で、個々の安保法制関連法案を反映させる必要がある。だが、総選挙中、野党が「地球の裏側にまで日本が行って米国と一緒に戦争に参加する」という誤ったイメージを拡散したため、公明党支持母体の創価学会婦人部内では安保法制整備に慎重論が多い。このため、地方選への影響を考慮し法案提出を遅らせ、同時に日米が合意した「昨年末にガイドライン公表」も先送りした。閣議決定の内容は前号までのHPで詳しく述べたが、「急迫、不正の事態」に対処する止むを得ない措置で「必要最小限に留めるべき」との表現までは、田中、安倍両内閣も一致している。その先について述べよう。

必要最小限実力行使は憲法許容
 田中内閣は「武力行使は外国の武力攻撃による我が国に対する急迫・不正の侵害への対処に限られ、他国への武力攻撃を阻止する集団的自衛権の行使は憲法上許されない」と規定し「集団的自衛権は保有するが行使できない」との憲法解釈が40年続いてきた。 これに対し、安倍政権は「限定行使は容認できる」論を閣議決定したわけだ。つまり、「我が国への武力行使のみならず、密接な関係にある他国への武力攻撃で、我が国の存立が脅かされ、国民の生命・権利が根底から覆される“明白な危険”がある場合、他に適当な手段がないとき、必要最小限度の実力行使は憲法上許容される」という限定容認を打ち出したもので、中国の海洋進出、北朝鮮の核実験・弾道ミサイル発射など北東アジアの急激な安全保障環境の変化に対処し従来の解釈を変更、抑止力を高め日米安保条約を進化させようとしたわけだ。元々、米国は緊迫化する国際情勢下で、日本の協力に多大な期待を寄せて来た。

安倍1次政権で集団自衛権4類型
 日本は1990年の湾岸戦争時に自衛隊を派遣できず、戦費として130 億ドルを拠出したが、「Too little、late」(少な過ぎる、遅すぎる)と米国から非難され、2001年9月11日の米中枢同時テロの際、アーミテージ国務副長官が柳井俊二駐米大使に発したとされる「Show the flag」(存在感を示せ)は 流行語にもなったが、小泉政権は海自の艦船をインド洋に出して、他国艦船への補給活動に参加した。 2003年のイラク戦争になると、今度はローレス国防副次官が日本の外交官に対し「Boots on the ground」(地上部隊を)と発言し圧力をかけた。こうした経緯もあって、小泉内閣の官房副長官を務めた首相は第1次安倍内閣で、「米国の若者が日本のために血を流すのに、日本人が血を流さないで 同盟関係は持つのか」と公言。柳井氏を座長に「安全保障の法的基盤懇談会(安保法制懇)」を設置、集団的自衛権の4類型をまとめた。しかし、後継の福田康夫内閣が棚上げしたため第2次安倍内閣で復活。その答申を待って7月に集団的自衛権限定容認の閣議決定にこぎつけた。

田中内閣見解より閣議決定が重い
 閉会中審査の7月14日、質問のトップバッターに立った高村正彦自民党副総裁が「今度の閣議決定ほど慎重に決定した(のは他に)記憶がない」と水を向けたのに対し、首相は「閣議決定は政府が意思決定する方法の中で、最も重い決め方だ。1972年の政府見解は閣議決定していない」と述べ、田中内閣の政府見解より今回の閣議決定が重いことを強調、“行使の歯止め”については具体的な基準となる新3要件に示すなど、国民の理解を広めるための丁寧な説明に終始した。新3要件は自衛措置として武力行使が認められる条件を示した従来の3要件に、集団的自衛権行使を限定容認する考えを盛り込んだもので、①我が国と密接な関係にある他国への武力攻撃で我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない③必要最小限度の実力を行使する――の全てを満たす必要があるとしている。

70年に亙る平和国家に歪みない
 首相は答弁でも、「我が国が取り得る措置には自ずから限界があり、他国と同様の集団的自衛権の行使は、憲法を改正しない限り許容されない。海外派兵は湾岸戦争、イラク戦争のような戦闘への参加はこれからもない」と専守防衛を明確にしたが、シーレーン(海上交通路)の機雷除去は、国連の枠組みで行う集団安全保障措置に移行した場合に、受動的、限定的な行為として対処する姿勢を示した。原油の8割がホルムズ海峡を通過する点から、「国民生活に死活的影響を与える」として重視したもの。国会では一貫してこの答弁を続けた。首相は総選挙の街頭演説でも、新見解について「日本の70年に亙る平和国家の歩みに歪みはない。地域や世界の平和を守る責任を果たすためにも有意義だ」と力説した。通常国会でもこの視点に立って野党の追及を退けるものとみられる。日米ガイドラインの最終報告は、安保法制の整備と一体的な内容で、新年早々も原案がまとめられる見通しだ。 (以下次号)