第325回(11月1日)切れ目ない安保法制②安保環境急変の防衛白書
 17年ぶりに日米防衛協力の指針(ガイドライン)を改定するのは、中国が国防費を約10倍に急増させ、尖閣諸島周辺を含む東アジアで防空識別圏を突如設定、「力による現状変更」で海洋進出を図るなど、安全保障環境は急変させたことを理由に挙げた。そこで、今回は政府が8月5日に発表した今年の防衛白書を検証して見よう。白書は①我が国を取り巻く安保環境②わが国の安保・防衛政策③わが国の防衛取り組み――の3部構成で、露・中・北朝鮮など緊迫する東アジア情勢を分析し対応策を挙げた。まず「概説」では,力を背景に海と空で現状変更を試みる中国、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮などにより、様々な課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化し、これが今後グレーゾーン事態や地域紛争の増加に繋がる可能性があるとして、両国への警戒感を例年以上に強く打ち出した。特に中国は昨年11月、東シナ海の上空に一方的に防衛識別圏を設定、日本や国際社会の反発をよそに、戦闘機による自衛隊機への異常接近を繰り返すなど、識別圏の既成事実化を図り、尖閣諸島周辺での領海侵入や南シナ海でのベトナムとの対立など挑発的な海洋進出を続けており、防衛首脳は「日本だけでなく国際社会が懸念を有している」と批判している。

中国は第1・2列島戦で軍活拡大
 中国は軍事面で、周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力「A2AD」の強化に取り組み、14年度の国防予算は約8082億元(1元は約16・5円で約1・3兆円)となった。昨年度に比べ約12・2%の伸び、名目上の伸びは過去26年間で約40倍、10数年間で約10倍に増えている。A2ADは接近阻止・領域拒否の略で、中国軍がミサイルや戦闘機、宇宙空間などで有事の際に米軍の接近を阻止する軍事戦略。具隊的には①伊豆諸島から小笠原諸島、グアムに至る「第2列島線」で米軍の進出を食い止める(接近阻止)②九州南部から南西諸島、フィリピンに至る「第1列島線」の中国側に米軍を侵入させない(領域拒否)――だが、勝手に伊豆7島や沖縄県など日本の領土を2つの列島線に取り込んだ点が問題。白書はこうした中国の軍事活動拡大を「高圧的・非常に危険」と批判、これが平時と有事の間のグレーゾーン事態に発展する虞れを指摘した。防衛以外でも中国の漁船が小笠原諸島領海に侵入、希少な「宝石珊瑚」を密猟しているのを海保庁の航空機が監視し横浜海上保安部が5、16両日、中国2漁船の船長2人を逮捕した。水深100㍍の海底で採れる赤・白・ピンクの宝石珊瑚は1キロ600万円の高値で富裕層に売れるため、高知県室戸沖を含め、密漁漁船が9月から1日に30~50隻も周辺海域に集まり、23日の巡視船パトロールでは113隻を周辺海域で確認、領海に入った4隻を退去させた。

北は発射台搭載型IRBM開発中
 一方、北朝鮮の脅威も年々加速。金正恩国防委第1委員長は「国防力強化は国事の中の国事であり、強力な銃の上に祖国の尊厳も、人民の幸福も、平和もある」と述べ、今年3,6、7月にスカッド、ノドンと推定される短・中距離弾道ミサイルを相次いで日本海に発射。移 動可能な発射台つき車両(TEL)を使って場所を変えながら発射しており、白書は「兆候を事前には把握することは困難」と指摘している。特にノドンは西岸から東に向け朝鮮半島を横断する形で発射されており、弾道ミサイルの性能に自信を深めている。TEL搭載型の大陸間弾道ミサイル(IRBM)の「KN08」や新型弾道ミサイル「ムスダン」も開発中だ。射程は日本に加えグアムも入る可能性がある。仮に弾道ミサイルの長距離化を進展させ、核兵器の小型化、弾道化を実現した場合は、「米国に対する戦略的抑止力を確保した」との認識を一方的に持つ可能性があり、そのような過信・誤認をすれば軍事的挑発行為の増加・重大化に繋がる危険性がある、と白書は分析している。

露艦隊は北方領土周辺で大規模演習
 ロシアはどうか。3月のクリミア「編入」でプーチン大統領は、国民の圧倒的な支持を受け、ソチ五輪の成功も支持率を大幅に引き上げる結果となった。国際的地位の確保と米国との核戦力とのバランスを取る必要性に加え、通常戦力の劣勢を補う意味で核戦力部隊の即応戦力の維持に努めていると考えられる、と白書は見ている。我が国周辺では13年8、9月に太平洋艦隊が沿海地方、サハリン、カムチャッカ半島東方海域で、約1万5千人、艦艇約50隻、航空機30機が参加する大規模演習を行った。この中で海軍歩兵が冷戦終結後初めて千島列島で上陸訓練を行った。このため、白書第3部「我が国防衛の取り組み」第1章の[周辺海空域の安全保障]では、自衛隊と海保が連携し警戒監視活動を強化、13年度の空自機によるスクランブルは24年ぶりに8百回を超え810回だが、中国機に対する回数はロシアを上回った。次の[島嶼部攻撃への対応]では本格的な「水陸機動団」を新設する。

自衛隊は佐世保に水陸機動団新設
 水陸機動団は、陸上自衛隊が尖閣諸島など南西諸島の防衛を強化するため18年度末までに新設する3000人規模の離島防衛専門部隊だ。米海兵隊がモデルで我が選挙区の陸自西部方面普通科連隊(長崎県佐世保市)を中核に上陸部隊や水陸両用車の運用部隊などで構成され、隊員輸送は輸送機「MVオスプレイ」が担う。政府はまた、13年12月に安保の司令塔となる国家安全保障会議(NSA)を創設、「国家安全保障戦略」を閣議決定した。国家安全保障の基本方針として始めて策定された文書であり、平和国家としての歩みを堅持し、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、国際社会の平和と安定、繁栄の確保に積極的に寄与する、と謳っている。防衛大学校にはタイなどから多数の留学生が集まり、帰国後は各国軍で枢要な地位を占め、「防大ネットワーク」を形成しているなども紹介、分かりやすく読ませる工夫もしている。政府は同じく昨年末に閣議決定した新防衛大綱に示された体制に移行するため、「中期防衛力整備計画」も同時に策定した。これは海上優勢、航空優勢の確実な維持に向けた防衛力整備を優先し機動展開能力の整備も重視したものだ。 (以下次号)