第322回(9月13日)農水業改革の課題(7)JAは自主改革目指す
クロマグロ・ウナギも陸上養殖
 長崎県の平戸漁協は捕りたてのイカを水槽に入れて築地に搬送、江戸っ子に新鮮なイカそうめんを提供してきたが、エンジンや照明用の燃油費が高騰して採算が合わず、出漁の間隔を空ける間引き操業をしている。 一方の養殖はどうか。独立行政法人・総合研究センター(横浜市)は5月23日、長崎市の西海区水産研究所の陸上水槽でクロマグロの産卵に成功したと発表。トラフグやウナギの陸上養殖も当たり前になってきた。2002年にクロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大は、豊田通商と共同事業に取り組んでいる。豊田通商は長崎県五島列島で人工の稚魚を「ヨコワ」(幼魚)まで育て、養殖業者に出荷する事業を10年から始めたが、近畿大と組んで受精卵を人工孵化させる施設を五島市に作り、共同生産に乗り出すと発表した。 三菱商事グループの東洋冷蔵は、同じく五島列島や和歌山県など3カ所に養殖場を持ち、昨年、人口養殖マグロの初出荷にこぎ着けた。 今年度は約300万トンと13年度の10倍に生産を増やす。長崎市の第3セクター「長崎鷹島水産センター」は、今年から東洋冷蔵の養殖マグロが産んだ卵の人工孵化を始め、育てた稚魚は東洋冷蔵が養殖する。 総合商社・双日は08年に養殖子会社「双日ツナファーム鷹島」を設立、500グラム程度のヨコワを大きく育てる養殖事業に参入した。 いずれも地元と大学、企業が一体化した事業だ。 12年に国内で供給されたクロマグロ約3万㌧の内、 養殖物は1万㌧と3割を占め、品質・価格ともに安定供給に貢献している。福岡市で1~4日まで開いた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)小委員会は最終日、韓国の抵抗を押し切り、日本が提案した「2015年以降の未成魚の漁獲量を02~04年の平均より半分に減らす」ことで正式に合意した。

無形文化遺産登録を機に新機軸
  水耕栽培や1T技術導入による農産品の高品質化、 農地大規模化は喫緊の課題。安陪首相の 昭恵夫人は東京・世田谷区の貸農園で無農薬の枝豆を育て夜は自ら経営する神田の居酒屋(UZU)で提供して好評という。 「アッキー」が愛称の昭恵夫人は昨年10月に料理本「日本のおいしいものを届けたい」も刊行、 和食のブランド化で内助の功を果たす。 日仏両国は農政ワーキンググループ会議を6月10日に立ち上げた。 「フランスの美食術」が2010年、「和食 日本人の伝統的な食文化」が昨年、ユネスコの無形文化遺産に登録された。 登録を契機に身近な食を文化として見直す機運が高まったが、フランスでは今までなかった料理や食べ歩きを特集するテレビ番組が登場したり、インターネットでの呼びかけに応じ白い服をまとって特定の場所に集まり、知らない人同士がテーブルを囲んで会話を楽しむ「ホワイト・ディナー」が流行り、 この夏、パリ市内だけで1万人以上が参加したという。 また、パリ、ディジョン、リヨン、トウールの4都市をつないで「美食の街」作りを進め、フランスの食全てが体験できるショウウインドのような場所にする考えもあるようだ。日仏両国は伝統食文化、農産品の高付加価値化で共通点があり、食料・農業分野での連携強化に乗り出している。 また、観光立国を目指す日本政府は漫画・ゲーム・アニメ・音楽などの「ポップカルチャー」を紹介し、 和食のレストランも整備した「ジャパン・ハウス」を世界の主要都市に建設するが、最初の候補地はロンドンが有力視されている。

国民がJAファンになる絶好機会
 首相は農業分野を含む「岩盤規制」の見直しに強い意欲を示すが、政府の規制改革会議は6月13日、JA全中の「役割、体制を再定義する」とし地域農協への指導権廃止など大幅な組織改革を目指す農業改革案を答申した。 JA全中への配慮から、「JAの自己改革を促す」との自民党案を受け入れ、 当初案にあった全中の「廃止」との表現は削った。JAのTPP反対集会は最近、全盛期と違って盛り上がりに欠けるとマスメディアに報じられているが、 8月8日のJA全中臨時総会で再任された万歳章会長はJA全中の組織見直し案を作る会長の諮問機関「総合審議会」の初会合で、「(自己改革案は)より多くの国民にJAファンになって頂くための絶好の機会。グループの存在を前向きかつ積極的にアピールしたい」 と抜本的改革に取り組む決意を表明した。 審議会は経済人や学者、マスコミ関係者で作る有識者会議を併設、11月に中間取りまとめを行い、来年2月ごろ答申する方針だが、審議会の正規メンバーは地域農協の組合長や県レベルの中央会幹部の「身内」で固めており、万歳氏は 「今の(全中の指導・監査)権限は必要だ。自ら改革する」 と宣言した。

農協改革は秋が最大のヤマ場
 国内コメ生産の3割以上を取り扱ってきた全国農協組連(JA全農)は8月20日、コメを全農から買い入れてスーパーなどに販売している卸会社に対し、 入札に近い制度の「個別申し込み取引」を1部で始めた。 JA全農が価格決定権を握り、割高とされたコメを市場の実勢価格に近づけようとする改革だ。 新制度では、全農が毎月1回、14年度産米の一部銘柄を指定し、複数の卸会社から価格や数量を入札のように提示してもらうが、対象銘柄はごく一部と見られる。 しかも、地域農協の自主的判断に委ねられているため、地域農協の協力がなければ成り立たない。 次期通常国会で農協法改正を目指す政府与党は自民党の「新農政における農協の役割検討プロジェクトチーム=PT」(森山裕座長)と「農業委員会・農業生産法人検討PT」(西川公也座長)が「農業・農村所得の倍増」を目指し討議を重ねている。 西川氏は党TPP対策委員長を1年半務め、日米交渉はもとより参加国の閣僚と水面下で折衝を続けた功績から、改造内閣で農水相に抜擢された。 初会見では 「重要5品目の聖域確保を求めた衆参農水委の決議を守り早期妥結を目指す」と述べ、農家の所得倍増には「攻めの農林水産業実行本部」を発足させる方針を示した。全中が検討中の改革案を受けて新体制移行を巡る論議は秋に最大のヤマ場を迎える。

農・政・官の新トライアングル再構築
 農水省は日豪経済連携協定(EPA)が来年発効するのに備え、来年度予算の概算要求で、牛乳の生産量を増やすための費用補助など、前年度予算よりも150億円以上多い2000億円超の関連予算を要求した。 牛乳の増産や和牛生産には、①メスの牛が多く生まれるよう産み分けを行う農家②和牛の受精卵を乳用牛に移殖する経費③自動で乳を搾る機械のリース費用や牛舎整備――などに補助金を支出する方針だ。 日本の畜産・酪農業は輸入飼料の高騰や高い設備更新費が原因で農家戸数が減っているが、日豪EPAで豪州産牛肉の関税が段階的に引き下げられたり、環太平洋経済連携協定(TPP)が年内に合意すれば、打撃が大きいと見て、畜産・酪農家を対象に30億円規模の新補助事業を支援するものだ。 一方、富士通、日立、東芝、パナソニック、NECなど電機大手は情報の処理能力を生かし、温度や水分量などの生育データを分析してコメや野菜の農家に提供するなど、 情報技術(IT) を活用して農業生産性を高める「植物工場」の取り組みを始めている。 私は今こそ時代に合った農・政・官の新トライアングルを再構築し、地方創生の柱として、守りの農業から攻めの農業に転換、世界に冠たる農業の6次産業化を達成すべきだと考えている。   (完)