第321回(8月30日)農水業改革の課題(6)農産品の高付加価値化へ
「農地族」が省内で隠然たる勢力
 高木氏によると、自主流通米は政府米との比率が7対3に逆転するほど増えていた。当時の集荷は全農にほぼ独占され価格は硬直化し、消費者ニーズに無頓着だった。需給と品質で価格が決まる市場の仕組みに政治が介入する余地はなかった。90年代に入ると農政の矛盾が次々と噴出する。関税・貿易一般協定(ガット)のウルグアイ・ラウンドが本格化し、自由化の波が押し寄せる中で政策見直しが求められた。当時、農地制度問題を議論するのは農水省内でタブー。農地法の創設や運営に携わってきた人たちは「農地族」で省内に隠然たる力を持っていた。農地解放を誇りとし、「世界に冠たる農地法は守ることに意味がある。自分の目の黒いうちは一条たりともいじらせない」と口にする次官経験者も少なくなかった。「新規参入が進まないのは農家に魅力がないからだ」「規模拡大ができないのも他の制度が悪い。農地法は悪くない」――と議論はいつも平行線。規模拡大を進めて農家戸数を減らすより、小さな農家を沢山残した方が票田になる。小規模農家を対象にした共同集荷などの手数料で利益を上げる農協も同様で農協と農林議員は一致した。92年6月公表の新政策で農地法制度改革に触れることはできず、農地法改正で企業も農地を50年間借りられるようにしたのは2009年。その間、耕作放棄地は倍増し土地持ち非農家は総農家の2分の1の戸数に匹敵する137万戸に増えた。……以上は高木氏が読売に連載した1966年入省以来の農水省の半世紀史だが、本人にお断りしないで、勝手につまみ食いさせて頂いた。 

農水の指定席も票減らし落選
 農水省の生き字引・高木氏が次官を退官したのは2001年。それまで参院には事務官OB2人と 農業土木系の技官OB1人の3 指定席を持ち、80年選挙では大河原太一郎元次官が113万票を獲得したが、01年の参院選では福島啓史郎前食品流通局長が7分の1の16万6千票ですれすれ当選。04年参院選の候補は12万票しか取れず落選。07年は福島氏ではなく、JAは身内の全中OBを擁立し、農水省に見切りをつけた。規制か緩和され、食管制度に透明性が求められる時代になると、官庁が団体に出来ることが少なくなり、JAにすれば、カネや票を出す意味がなくなってくる。かくて農政のトライアングルは崩壊した。後継者の人手不足から、「耕して天に至る」の棚田は美しい景観が薄れ、「土地持ち非農家」や「耕作放棄地」が増大、「田園はまさに荒れなんとす」だ。おまけに地球温暖化の影響もあって、東北の被災地を含め全国的に野生のサル、鹿、猪、豚、その合いの子・イノブタなどが増え、畑・果樹園などを食い荒らし、農作物の被害額は約80億円に達している。そこで、前国会では狩猟の規制を緩和するための「改正鳥獣保護法」を成立させた。

激減クロマグロの漁獲量を半減
 水産関係でも旬の鰹の1本釣りが不漁続き。絶滅危惧種指定の日本ウナギ、クロマグロなども激減している。川魚しか食べなかった中国内陸部の需要が増え、中国漁船が巻き網の「虎網漁法」で鰹、マグロを一網打尽に捕り尽すからだ。水産庁は8月26日、太平洋クロマグロの枯渇を避けるため、来年から未成魚の日本の漁獲量を02~04年の平均から半減し、年4007トンに制限する方針を決め、漁業関係者に説明した。その内訳は漁船の巻き網漁は2000トン、定置網漁などの沿岸漁業は2007トンの計4007トン。9月1~4日に福岡市で開く「中西部太平洋まぐろ類委員会」(WCPFC)の小委員会で各国にも半減を求める。中国はまた欧州が輸出を禁じている欧州ウナギのシラス(稚魚)をフランスから闇ルートで輸入して養殖、昨年1年間に8080トン、今年1~5月に55・8トン(22万3千匹)を日本に大量輸出。お蔭で日本は今年、土曜丑の日にうなぎが高騰せずに済んだ。

中国が期間偽装・古い鶏肉を輸出
 中国では7月22日、日本マクドナルドとファミリーマートが、品質保持期限が切れた鶏肉を中国・上海の米食肉大手OSI系食品加工「上海福喜食品」から大量に輸入していたことが発覚。両社はチキンナゲットなど鶏肉の日本販売を中止した。上海福喜食品は日本に年6000トンの鶏肉を輸出していたが、土間に落ちた肉塊を拾って混ぜ入れたり、青く変色し臭みのある古い肉や、保証期間偽装(書き換え)の肉を混入するのが常態化。作業員は「期限切れでも死にはしない」と嘯いていたという。上海市公安局は翌日、責任者5人の身柄を拘束した。中国は2002年から日本への輸出を含め、全国各地でダイエット食品の健康被害、冷凍餃子から殺虫剤検出、粉ミルク・菓子パン用乾燥卵から有害メラミン検出、羊肉にキツネやネズミの肉混入、日本で3年半前に製造したマヨネーズの賞味期限を消去して販売、ピンク色の鮮色保持に一酸化炭素で燻したマグロ切り身を販売――など食品トラブルが続出。食品の不正工作や食品衛生に関する批判が国内外で高まってきた。衆院消費者問題特別委の理事として、私は重大な関心を持って食品市場を見守っている。

中国国有企業までが土地買い漁る
 中国の富裕層は日本の人口に匹敵する1億人以上いて貧富の格差が拡大しているが、富裕層は自国の非衛生な飲料水や食品を警戒、高額でも日本のコメ、肉、魚、果樹など生鮮食品を買い求め、幸か不幸か日本農産物の輸出が伸びている。農業6次産業化のチャンスだ。北海道の土地・山林も中国人に買われているが、狙いは自国の河川汚濁や水不足から清浄な日本の地下水を汲み上げて商売にしようとする、水利権漁りにあるようだ。さらに、中国国有企業の子会社「上海電力」は、斜陽化した首都圏のゴルフ場や関西の遊休地などを取得し中国製の安価な太陽光パネルを敷き詰め、日本9電力に再生電力を売ろうと進出している。これは中東情勢を反映、じりじりと原油が高騰、電気料金や諸物価を押し上げているため、日本への投資でヒト儲けしようと企むものだ。韓国人も長崎県対馬の自衛隊基地周辺土地や空き家を民宿用に買い上げ、観光の自国渡航者を3倍増させた。韓国議会は不法占拠している島根県竹島と同様、壱岐・対馬の領有権を主張する決議を行い、安全保障上の懸念材料になっている。原油高騰も漁業をも直撃している。
(以下次号=本稿は7回シリーズとし、次回で完了します)