第319回(8月1日)農水業改革の課題(4)減反廃止首相ら3トリオ
 前2回は私が6月11日の衆院農水委員会で質問した諫早湾干拓の開門問題を取り上げたが、福岡高裁は7月18日、長崎地裁の「開門した場合、1日49万円の制裁金支払いを国に命じる」との「間接強制」決定を支持し、国の執行抗告を棄却する決定を下した。国は直ちに最高裁の判断を仰ぐため、高裁に許可抗告を申し立てた。農水省は開門しても、しなくても制裁金49万円を支払うという 長崎、佐賀両地裁の間接強制の板ばさみになっており、林芳正 農水相は「非常に難しい状況。関係訴訟で主張を述べる」とした上で、私が農水委で指摘した通り、「関係者との話し合いを呼びかけ、接点を探る努力を続けたい」とコメントした。諫早問題は両地裁が相反する司法判断を下したことで混迷を深めているが、元はと言えば福岡高裁の開門判決に菅直人元首相が最高裁上告を断念したのが発端。農水省の行政責任も重い。諫早湾干拓は戦後の食糧難時代に秋田県の八郎潟干拓とともに脚光を浴びたが、高度成長期の飽食時代や貿易摩擦による減反政策などに翻弄され続けてきた。

高木氏が減反政策廃止の草分け
 「TPP交渉参加など国際化の波にさらされる一方、農業所得は20年前の6兆円から半減し、耕作放棄地は滋賀県の広さに匹敵する。何が間違っていたのか」――の書き出しで、高木勇樹・元農林水産次官は自戒を込めて、2月15日から読売の「時代の証言者」でほぼ1ヶ月にわたり農政の半世紀を顧みた。高木氏は減反政策廃止論者の草分けだ。減反政策が開始されて約半世紀経つが、本格的な減反政策の開始は71年。その後、8兆円もの奨励金がつぎ込まれながら現在、稲作農家の農業所得は平均62万円。その7割は補助金で賄われている。これまでの食糧管理法は、政府が買い取る「政府米」と、政府を通さず卸売業者に売る「自主流通米」は認めるが、減反に従わずに作ったコメは「ヤミ米」と呼ばれ、販売は違法とされた。第1次安倍政権は食管法などの矛盾を解消するため、08年度から生産調整(減反)廃止を実現する方針を打ち出した。しかし、JAなどは「農業を切り捨てるのか」、「コメが余って価格が下がれば、農家も農協も治まらない。それでは選挙に勝てない」と批判を強め、07年の参院選で農村票は民主党に流れ、安倍政権は惨敗して退陣した。

官・農・政のトライアングル
 後継の麻生内閣が08年9月に成立、農水相に就任の石破茂氏(現幹事長)は「5年後、10年後を見据えた政策を打ち出す」と減反廃止を唱え、農政に明るい与謝野馨経済財政担当相がこれを支援した。だが、ここでも自民党農林部会などの猛反対で不発に終わった。高木氏の“自戒”によるとこうだ。09年1月、経済財政諮問会議の5大臣に農水相を加えた6大臣による農政改革関係閣僚会合が発足、石破農水相が改革最大のテーマである減反見直し方針を表明した。タイトルは「農政抜本改革の断行」。中身も「今の米政策は経営発展の意欲を殺いでいる」とし「生産調整(減反)実施を要件とする補助金体系を来年度から抜本的に改める」だったが、「官邸主導の改革なんてダメだ」「生産現場の声を聞け」とJAや各党農水議員が凄まじく抵抗。結局、「水田農業の構造改革の遅れなどを踏まえ、米政策の在り方の検討を進める」との玉虫色の記述に終わった。その後の民主政権は逆に減反強化の方向に舵を切り、ここから農政は迷走する。高木氏は「この間違った守り方が農業を疲弊させてきた。農水省内は族議員に顔を向けた守旧派が改革派を席巻、農水省、農協、族議員のトライアングルの中で長年のルールを固守してきた」と率直に述懐する。
 (以下次号=本稿は6回シリーズで後2回)