第316回(6月16日)農水産改革の課題(1)JA全中の機能廃止で攻防
 政府は成長戦略の柱に農業の6次産業化を掲げたが、地域農業を活性化し全国農業の競争力を底上げするため、農業協同組合の改革と企業の農業生産法人への出資制限緩和を推進する方針だ。政府の規制改革会議が5月14日にまとめた農業改革の原案は①全国農協組中央会(JA全中)が集める負担金と経営指導権の廃止②全国農協組連合会(JA全農)の株式会社化③農業委員の公選制を廃止し首長の任命制にする④農地の権利移動を原則届出制に改める⑤大規模な農地を経営する専業農家らの考え方を農協運営に反映しやすくする――が骨子。政府の動きに反対するJA全中は1足先に4月3日、大規模農家や食品会社に農協運営参加を促す自己改革案を発表した。政府の農業改革原案には各地のJAも「不見識な組織解体論」と反発しており、自民党は9、10日、農水関係の会合を開き、JA全中の新組織への移行を柱に、地域農協の「意思の集約」などで一定の指導権を維持する妥協的な対案をまとめた。政府は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が早期に妥結すれば、海外から安い農産物が輸入されるため、国内農業の競争力強化が必要と見て、改革会議では13日に農協を含む全体の規制改革案をまとめた。来年の通常国会に農協法改正案など関連法案を提出する。農業は従事者が減少し平均年齢65歳超という高齢化で転換期。私は党政調副会長、衆院農林水産委の筆頭理事として、農業生産性をどう向上させるか、鋭意取り組んでいる。

JAは負担金廃止し一般社団法人へ
 農業従事者は1970年に1562万人を数えたが、2010年には454万人となり、7割以上も減った。JA全中を頂点に1960年に全国約1万2000あったピラミッド型組織の農協数は、経営基盤強化の広域合併で2012年度末には約700まで減っている。JA全中(万歳章・会長)は各農協組織の経営指導や情報提供、監査を手掛けるグループの筆頭組織で、「農業生産力の増進と農業者の経済的、社会的地位の向上」を目的とする農協法に基づき、各農協や金融事業を担う農林中央金庫などから運営費として「賦課金」と呼ばれる負担金を集めている。2014年度の事業計画では77億8700万円の予定だが、経営指導では地域の事情よりも全国一律の姿勢にこだわり、地域農協の成功事例の普及に消極的との指摘も多く出された。そこで、政府は規制改革会議などで農協組織への聞き取り調査を進めた結果、JA全中が地域農協のやる気を削いでいると判断、地域農協の振興・活性化のための運営費を集める制度の廃止を決めた。農協法改正後のJA全中は、経団連や全国銀行協会などと同じ一般社団法人となり、各農協などが会員費を払うかどうかを自由に判断できるようになる。

大規模農家を理事に登用するJA案
 農協改革では地域特性がある特産品を開発し農産物販売などを手掛ける全国組織の JA全農を株式会社化し、経営を強化する案も浮上している。このように農協改革案はJA全中のピラミッド型組織体制を崩し、地域農協が独自の経営に取り組めるようにする。しかし、農協数は約700に減ったとはいえ、職員数は約21万6000人で、半数が金融部門の「信用・共済」に属し、農業に直接関連する「販売・営農指導」は15%程度。従って政府は肥大化した金融・保険事業の分離案も検討したが、万歳会長が「信用・共済分野の力を活用する」と金融事業の継続を強調していることもあり、「利益の出ている事業を分離すれば、地域農協が経営的に行き詰まる恐れがある」として見送った。一方、JA全中がまとめた自己改革案は、大規模農家や食品会社に農協運営への参加を促して農業の生産性を高めたり、農産物の加工や販売を強化することが柱。現在の農協運営に対しては「数の多い兼業農家の都合が優先されて専業農家の意見が反映されにくい」との批判があるため、大規模農家を各農協の理事に積極的に登用する。JA全中幹部は「経済界と連携して農産物輸出に積極的に取り組み、農家の所得を増やしたい」と述べ、農産物加工のノウハウを持つ食品メーカーなどを農協の「準組合員」とすることも決め、「次世代の農政運動」を確立する構えだ。

首相は3点セットで改革を断行
 「3点の改革をセットで断行していく決意に変わりはない。利益が生産者にしっかり入っていくことを、我々もしっかり考えていきたい」――2018年度までに減反廃止を打ち出した安倍首相は5月28日の衆院予算委集中審議で、JA(全中・全農)、農業委員会、農業生産法人の3見直しを断行する決意を表明した。政府の規制改革会議(議長=岡素之・住友商事相談役)が打ち出した農業改革案では、TPP交渉で農業基盤の強化が叫ばれたため、農業生産法人へ出資する企業の改革案が含まれている。それは①現在「25%以下」に制限している出資比率を「50%未満」まで大幅に緩和し企業の新規参入を促す②企業が持つ加工・流通・販売・輸出などのノウハウを取り込み農業の経営基盤を強化する――などが狙いで、農地法改正案を今秋の臨時国会にも提出する予定だ。農業生産法人は農地を所有して農業経営を行うことが認められた法人で、2009年の農地法改正で一般の株式会社も参入できるようになった。株式会社や、農業協同組合法に基づく農事組合法人などがあり、13年時点で国内に1万3561法人がある。生産品目はコメや果物、野菜など幅広い。役員の半数以上を農家が占めるなどの条件を満たせば設立できるため、民間企業が出資して経営に参画するケースが多く、牛丼チェーンの吉野家や醤油大手のキッコーマンが出資している。

農地大規模化や新品種の研究開発
 現在の農地法は食品関連など一部を除いて、企業は農業生産法人に25%までしか出資できないため、生産する作物を自由に選ぶことが出来なかった。政府はこの出資制限が、企業の新規参入を妨げる要因と考え、企業の農業参入を促すことで、農地の大規模化や新たな品種の研究開発、輸出拡大を進めようと規制改革会議に諮問していた。今回の改革案では、50%未満まで出資することによって、企業にとっては農業生産による収益から得る配当が増えるメリットがある。また、経営方針などを拒否できる「3分の1」超の出資を認められることで、生産法人の経営方針や人事に深く関与できるようになる。同時に農業生産法人に対する農家の出資比率も「3分の1以上」とすることを義務付け、農家の意見も生かす方針だ。これまで政府が出資比率を制限してきたのは、農家側に「企業が農業から撤退したり、農地を別の用途に転用するのではないか」との懸念があったからだ。政府は出資制限の緩和とともに、企業が長期間にわたって農業経営を続ける仕組みを検討している。
 次回は私が11日の衆院農水委で質疑した諫早開門問題を取り上げる。  (以下次号)