第313回(5月1日)南極海の調査捕鯨中止 北西太平洋は半減し継続
 オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は3月末、南極海での日本の調査捕鯨に中止の判決を下し、日本はこれを受け入れた。北西太平洋での調査捕鯨の出港も迫っていたが、米国を含む反捕鯨国の反発を招かないよう、オバマ米大統領来日の間は出港を見合わせ、26日に小型捕鯨船4隻がミンク鯨の沿岸調査捕鯨に向けて宮城県・鮎川港を出港した。日本は「法の支配」の重要性を唱え、韓国には島根県竹島の領有問題でICJ付託を呼びかけている手前、ICJの判決受託は止むを得ないと考えている。だが国際司法の場で政府は国際世論の喚起など十分な外交努力を重ねてきたのか。頭から尻尾まで全て頂く鯨食は日本古来の食文化だ。この伝統が危機に瀕するのは看過できない。衆参両院の農水委は4月16日、調査捕鯨の継続を求める決議を全会一致で可決。自民党の捕鯨議連(会長・鈴木俊一元環境相)は北西太平洋での調査捕鯨を認めるよう政府に申し入れた。政府は18日、同海域での調査捕鯨を半減させて継続、南極海は来年度に再開を目指すことを決めた。私は同議連の事務局長として調査捕鯨の継続、水産資源の維持・管理の立法措置を検討している。

実態は鯨肉売る商業捕鯨と豪提訴
 「捕鯨は残酷だというが、近隣国には犬を食べる国がある。(提訴した)豪州ではカンガルーを食べ、臓物はドッグフードにして売っている」――鈴木会長は15日、東京の憲政記念館で開かれた超党派捕鯨議連の会合でICJ判決に抗議。他野党の代表も「国際捕鯨取締条約」からの脱退を唱えるなど、会合は決起集会の様相を呈し、乾杯の代わりに「ホエール(鯨)!」を3唱して開会した。南極海での日本の調査捕鯨の合法性が争われた裁判は、豪州が2010年に「調査捕鯨の実態は鯨肉を売って利益を得る商業捕鯨だ」と提訴したのに対し、日本は国際捕鯨取締条約が認める「科学的研究であり、鯨の分布や増減など実態を調査する必要がある」と反論していた。ICJ判決は、日本がクロミンク鯨の年間捕獲枠を第1期の最大440頭から第2期への移行期に850頭前後へと倍増しながら100頭ぐらいしか捕っておらず、研究目的は満たされていないし、鯨を殺さずに調査する方法も検討していないと指摘,①科学的研究のための捕鯨を認める国際捕鯨取締条約(8条1項)に違反する②南極海での日本の調査捕鯨は商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)に違反する③日本政府は今後、現在の計画に基づく南極海での調査捕鯨の許可を出してはならない――が骨子。

竹島・尖閣絡みICJ判決受ける
 日本の捕獲頭数が減ったのは、反捕鯨団体「シー・シェパード」の違法な妨害が原因だが、反捕鯨国出身の裁判官が多いことが判決に影響したといえる。日本の裁判官は雅子皇太子妃殿下の実父・小和田恒元外務次官だが、判決は裁判長らの原案に対し裁判官16人中12人が賛成した。裁判は1審制で上訴できず日本は竹島や沖縄県尖閣諸島などの領土問題で中韓両国にICJ付託を呼びかけているため、国際法を遵守する立場からICJ判決を受け入れ、現行の調査中止を決定した。判決では「捕獲決定過程が不透明」などを条約違反に挙げたうえ、「日本が(調査捕鯨の)あらゆる許可証を出す際には、判決を考慮することが期待される」と微妙な表現をしているため、外務省は「北西太平洋で調査を行ったらまた提訴されて負ける」と危惧し、すっかり弱腰だ。4月22日に宮城県石巻市を出港する予定だった北西太平洋の調査捕鯨は、捕鯨反対の世論が根強い米国のオバマ大統領が翌日に来日し滞在する期間は出港を見合わせた。こうした政府の慎重な姿勢が、かえって反捕鯨国に乗ずる隙を与え、北西太平洋調査捕鯨の中止を求める圧力が強まることも予想される。

IWCは88カ国中反捕鯨50カ国
 そこで政府は、反捕鯨国の再提訴を避けるため、北西太平洋の調査捕鯨は①沿岸調査でミンク鯨の捕獲頭数を120頭から100頭程度に減らす②沖合調査でミンク鯨とマッコウ鯨の捕獲を中止する③沖合調査でニタリ鯨の捕獲を50頭から20頭程度に、イワシ鯨を100頭から90頭程度に減らす――方針を決めた。南極海は今年度、「鯨を捕獲せず目視による調査」とし、来年度以降は両海域の調査について新たな計画を策定。来年5月の国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会に提出し実施することを決めた。林芳正農水相は「ICJ判決が示す基準を考慮して計画を作った。商業捕鯨再開の基本方針は堅持する」と記者団に語り、反捕鯨国の理解を求めていく姿勢を示した。IWCは「鯨資源の保存と捕鯨産業の秩序ある発展を図る(持続的利用=国際捕鯨取締条約前文)」目的で1948年11月に設立された。日本の加盟は1951年4月で、現在88カ国が加盟している。このうち反捕鯨国は米国、豪州・ニュージーランドの大洋州2、インドなどアジア3.ケニアなどアフリカ2、英国・オランダなど欧州28、チリ・ブラジルなど中南米14の50カ国で、利用支持国を上回っている。

反捕鯨シー・シェパードが海賊行為
管理対象の鯨は大きい順に、シロナガス、ホッキョク、ナガス、セミ、マッコウ、ザトウ、ニタリ、イワシ、クロミンク、キタトックリ、ミナミトックリ、コク、コセミの13種。IWCは1982年、鯨類に関する化学的知見の不足を理由に商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を決定。資源状況、餌を採る生態などを科学的に把握するため南極海と北西太平洋で調査捕鯨を実施、日本は1987年から南極海、94年から北西太平洋で日進丸と第1~3勇新丸が調査を開始した。調査捕鯨に対し、米豪両国などで資金を集める反捕鯨団体「シー・シェパード」(SS)は、調査船と給油するタンカーの間に割り込み体当たりしたり、調査船に発光弾を投げ込んだり、調査船のプロペラや舵を狙ってワイヤー装着のロープを投げ入れるなど、海賊さながらの妨害行為を行ってきた。このため、ミンク鯨の捕獲頭数は、平成20年の679頭を筆頭に、21~24年間は506,170,266,103頭と減り続けている。

学校給食や自衛隊販売で経費調達
政府は内閣官房の総合海洋政策本部が関係省庁と連携し、水産庁監視船の派遣、海上保安官の調査船同乗、ポール・ワトソンSS代表の身柄拘束を求める国際手配などを実施してきたが、妨害行為はエスカレートするばかり。捕鯨船団は昨年末に調査を断念し4月5日、早めに帰港したが、船員のうち3人が辞職を申し出るなど調査捕鯨の基盤が揺らぎ出している。南極海捕鯨基地の山口県下関市や北西太平洋捕鯨基地の宮城県石巻市など漁船員の不安は深刻だ。従来、調査捕鯨は鯨肉の販売収入を調査経費に充てて実施してきたが、半捕鯨団体の「海賊行為」による妨害で捕獲頭数の減少と鯨肉の販売不振もあり、安定的な調査捕鯨に支障を来たしている。このため、日本鯨類研究所は昨年秋、改革計画を策定、①調査船の省エネ・省コスト化②組織のスリム化③鯨肉の熟成パック製品の生産など高付加価値化④学校給食や自衛隊向け販売など新規販路の開拓――など収支構造の抜本的な改善に取り組み、政府もこれを支援してきた。

4道県の沿岸小型捕鯨は零細漁業
一方、小型捕鯨としては、もりづつ(捕鯨砲)を使う沿岸捕鯨があり、農水相の許可を受けて和歌山県太地、千葉県和田、宮城県鮎川、北海道網走で7業者(5隻)が操業。オキゴンドウ20、ツチクジラ66、マゴンドウ72頭が漁獲枠とされている。これは、米アラスカ州のイヌイットなど伝統的に捕鯨を続けてきた先住民に特別の捕獲枠を認めているのに習った。だが、沿岸捕鯨は微々たるもの。日本は商業捕鯨のモラトリアム以降、禁止されたミンク鯨の捕獲を主張し続けているが、認められていない。鯨の親戚・イルカの漁業も知事の許可で、突き棒漁業が北海道、青森、岩手、宮城、千葉、和歌山、沖縄など、追い込み網漁業は和歌山県太地町で、イシイルカ、バンドウイルカなど8種が実施されている。