第310回(3月16)鹿・猪被害は年2百億円 鳥獣保護法見直しへ
 鹿、猪など野生鳥獣が全国的にはびこり、生態系や農林水産業に深刻な被害をもたらしている。政府は10年後までに、生息する鹿325万頭を160万頭に、猪88万頭を50万頭に半減させる目標を立て、都道府県、市町村の捕獲活動を強化する方針だ。昨年末にまとめた強化策では、捕獲に必要な従業者の育成・確保に向けて、①鳥獣保護法見直しによる捕獲専門事業者の認定・育成(環境省)②鳥獣被害防止特措法に基づく鳥獣被害対策実施隊を1000箇所に増加し、射撃場を整備(農水省)③被害防除や生息環境管理などの施策を併せて推進――などを挙げている。鳥獣による農作物の被害は年間200億円に達する。原因は①今年2月の大雪は別として、近年の少雪現象で鳥獣の生息域が拡大②狩猟者の減少、高齢化による捕獲量の低下③耕作放棄地の増加による過疎化や東日本大災害の被災者が避難した跡の農地を猪などが荒らす――などによる。特にニホンジカが樹皮や地表に生える植物を過度に食べることで樹木が枯死し森林が衰退、生態系が単純化するなど全国30国立公園のうち20公園が被害を受けている。我が長崎県も例外でない。自民党は5日の環境部会と鳥獣捕獲緊急対策議連の合同会議で「鳥獣保護と狩猟の適正化法」改正案を了承、政府は11日に閣議決定し国会に提出した。私は衆院農水委の理事として成立に努力している。

ニホン鹿の樹皮剥ぎで森林衰退
 中央環境審議会の1月答申は、鳥獣による生態系、農林水産業、生活環境の被害が拡大・深刻化し、①剣山国定公園ではニホンジカの樹皮剥ぎによる森林衰退で、わずか数年間に風景が激変②南アルプス国立公園の塩見岳は高山帯のお花畑が消失③集落に出没した猪、猿など鳥獣による住民の怪我や列車・自動車事故など生活環境被害が増加④森林が持つ水源涵養や国土保全機能は著しく低下⑤2005年度に187億円だった農作物被害が11年度は226億円に急増、鹿83億円、猪62億円、カラス22億円、猿16億円の順⑥11年度の森林被害面積は9万4千ヘクタールに達した――などを指摘した。そこで「夜間に銃を使って鹿の捕獲を可能にする捕獲事業の規制緩和」「鹿など捕獲の事業者認定制度を創設」「捕獲許可手続きを簡素化」「現行20歳以上の猟・網猟の免許取得年齢を引き下げ」「国が鹿などの個体数調査や、都道府県の取り組みを評価するなど指導力発揮」――を提言している。

鳥獣捕獲事業者の認定制度創設
 同審議会はこれをもとに、鳥獣の個体数増加、生息地拡大に伴う希少高山植物の食害など自然生態系への影響と農林水産業への被害深刻化に対処し、鳥獣保護法(鳥獣の保護と狩猟の適正化法)改正案をまとめた。改正内容は①現行の鳥獣保護法の名称を「鳥獣の保護と管理並びに狩猟の適正化法」(仮称)に改める②「管理」とはその数を適正水準に減少させ、その生息地を適正な範囲に縮小させる措置を規定する③従来の特定鳥獣保護管理計画を、著しく減少している鳥獣の第1種、著しく増加または生息地が拡大している第2種の計画に再整理する③第2種特定鳥獣のうち、減少または生息地を縮小させることが特に必要なものは都道府県または国が捕獲事業を行うことが出来ることにする④鳥獣の捕獲を行う事業者の認定制度の創設、危険の予防措置がとられる場合の銃猟規制緩和などを行う――などを骨子としている。環境省はこれをもとに鳥獣保護法改正案を今国会に提出した。

野生鳥獣の保護管理捕獲最優先
 鳥獣捕獲では、自然環境保護による人間との共存や、生物の多様性保存が目的の特定非営利活動法人「若葉」が2008年2月に設立された。野生鳥獣の保護管理捕獲が最優先であると判断し、特定の地域やしがらみに捕われず、効率的な手法で捕獲しながら保護管理の専門事業者(日本版ホワイトバッファロー)を目指した人材教育を行ってきた。W・バッファローは米国に設立された生態系保全と野生動物保護管理を専門とするNPO法人。「若葉」は富士宮市鳥獣被害防止対策協議会の「ニホンジカとの共存に向けた生息環境等整備モデル事業」に参加し、安全・確実・効率のよい鹿の誘引狙撃法の開発に貢献している。同協議会はヘイキューブという乾燥牧草を10センチ角のブロック状に固めた餌を使い、給餌によって定期的に鹿が日中出没するよう学習させ、同市内の国有林野内で昨年1月上旬から今年2月中旬にかけ「ニホンジカの誘引捕獲」を12回実施、遭遇した348群れのうち191群れ、約200頭を射撃し捕獲した。全頭捕獲率は38%で一般狩猟の約50倍になる計算だ。

罠作動を携帯電話メールで通報
 警備保障会社のALSOKも罠が作動したことを携帯電話のメールで知らせる「鳥獣わな監視装置」を開発し、鳥獣被害対策に貢献している。猪などの鳥獣が箱罠に掛かると扉についた麻紐が引っ張られて監視カメラの電源スイッチが入り、撮影した鳥獣の画像をメールで知らせるもの。①罠見回りに掛かる労力の低減②誤った捕獲や事故の早期発見③檻や罠の稼働率向上④早期に“止め刺し”をするため、食肉としての価値向上――などに役立つという。監視装置はカメラなしで1式9万5千円、カメラありが19万8千円と割高だが、赤外線LED搭載で夜間も撮影でき、2年経過後は年2万円で利用更新ができるそうだ。地球温暖化の影響で、厳しい冬場に餓死していた野生動物が生き延び、欧州のアルプス山岳地帯ではカモシカの一種シャモアやアカシカが爆発的に増えている。欧州ではこうした捕獲獣を秋口にジビエ(狩猟動物料理)として出すレストランが多い。日本でも古来、野生鳥獣肉を食べる食文化がある。猪が増えた千葉県、ニホンジカの食害が深刻化した東京・奥多摩、エゾジカ被害が多い北海道などから捕獲肉を取り寄せ、銀座や世田谷区で“すね肉カレー”“赤ワイン煮込み”などを売り出す店が最近増えてきた。福井県など地方にも広がっている。東京・日野市では、「鹿、猪をおいしく食べて農業被害や森林破壊を防ごう」――と食肉業者やシェフがNPO法人を立ち上げ肉の試食会などを行っている。良い傾向だ。