第309回(3月1日)首長の権限強化、教委制度改革案 首相の意欲実る
 いじめ、学級崩壊、学力低下など教育の課題は先の都知事選でも争点となったが、政府自民党は教育委員会(教委)の制度を改革する「地方教育行政法改正案」を今国会に提出する方針である。2月19日の自民党文部科学部会で了解を得た上、翌20日に公明党と実務者協議で大筋了承を得た。改革案は地方教育行政の最終責任者は教委のままとするが、教育行政への首長の権限を大幅に強化する内容。教育長と教育委員長を統合するほか、地方自治体の首長や教育委員らがメンバーの「総合教育施策会議」(仮称)を新たに作り、首長は同会議で話し合いながら教育方針を作る仕組みとした。首長の権限強化については公明党が「首長が選挙で交代するたびに教育方針が変わり、混乱が生じる」と懸念を表明、与党内の調整が遅れていた。だが、教育の最高責任者としての教委の機能を維持する修正案がまとまったため、法案提出の展望が開け、自公両党間で最終協議に入っている。下村博文・文科相は高校の「達成度テスト・基礎レベル(仮称)」や小中学校の道徳を「特別の教科」とすることを中教審に諮問している。私は文部科学行政担当の党政調副会長として、教委制度改革法案の成立と学力向上、受験制度改善など文教諸施策の調整に努力している。

若者の可能性を伸ばす教育再生
 「若者たちには無限の『可能性』が眠っている。それを引き出す鍵は教育の再生だ。いじめで悩む子どもたちを守るのは大人の責任。教育現場で的確に対応できるよう、責任の所在が曖昧な教育委員会制度を抜本的に改革する」――首相は1月24日の施政方針演説でこう述べた。教育熱心な首相は、同演説の中で①教育委員会制度の抜本的改革②公共の精神や豊かな人間性を培うため道徳を特別教科に位置づけ、教員養成準備を進める③全ての子供に必要な学力を保障する公教育の重要性から、段階的に幼児教育を無償化④20年(の東京五輪)を目標に中学校で英語を使った授業をする――など「若者を伸ばす教育再生」を掲げた。「戦後レジーム(体制)からの脱却」を唱える首相は、マッカーサー元帥施政(GHQ)の置き土産であるお仕着せ憲法と6・3・3制の義務教育の改革に意欲的で、第1次安倍内閣で実現できなかった教委制度改革、道徳の教科化、学制改革を進める考えだ。同日に滋賀県で開かれた日教組の教研集会(教育研究全国集会)でも東日本大震災被災地の教員から、学級運営の困難さや、いじめなどの事例が相次いで報告され、手を焼いているようだ。

いじめ自殺などの責任明確化
 首相の施政方針演説は2011年に起きた滋賀県大津市のいじめ自殺事件で機動的な対応が取れなかったことに留意し述べたもの。政府は「教委を責任者とした現行制度では、いじめなどの緊急事態に対応できない」とし昨年4月、政府の教育再生実行会議の提言を踏まえ、中教審にも諮り、「地方教育行政の責任者は首長」とした教育改革案(A案)を下村文科相が中心になって昨年末にまとめた。首相も「誰が子どもたちの教育に最終責任を持っているのか。責任の所在を念頭に置きながら議論してもらいたい」と同案を支持している。2月17日の衆院予算委では、日本維新の会の委員が、「2012年度は自殺児童が約196人、いじめ被害の児童が約500人も出た」と指摘し、政府の対応策を質した。これに対し、首相は「責任が明確でない教育の現状を変えたい。政治的中立性、安定性を考えて行う」と教育委員会制度改革に強い意欲を示した。だが、教育制度改革に対し、公明党の山口那津男代表は「これ(A案)では政治的中立性が保たれない」と難色を示していた。

「総合教育施策会議」を新設
 首長が交代するたびに教育方針がぐらつくようでは、確かに教育行政は混乱する。下村文科相が2月13日、自民党の渡海紀三朗元文科相と遠藤利明教育再生実行本部長にA案の修正案を示し、同17日の文部科学部会小委(渡海小委員長)で了承を得た。教委改革の修正案は「教育長と教育委員長を統合し、教委を地方教育行政の最高責任者とし、首長の権限を強化する」のが主内容。だが、新設の「総合教育施策会議」については①首長を補佐し、チェックする役割を果たす②首長や議長、教育長、教育委員、有識者らで構成し、首長がトップを務める③会議で議論する内容は教育計画や学校の設置・廃止、教職員の定数や給与水準、人事の方針④予算を伴う政策は教委から首長に移す――など細かく規定し、以前の自民党案になかった首長による教育委員の罷免権も盛り込んだ。一方、教育現場でもっとも政治問題化しやすい教科書の採択や教材の選定は、現在と同様に教委が担うことにした。修正案ではさらに教育長が委員長を兼務して「新教育長」となり、「教委の代表者として事務局を指揮監督する」と明記された。教委は現在、非常勤の委員長と、事務局を統括する常勤の教育長が別々に存在しているため、責任の所在が曖昧だと指摘されていたからだ。首長は、議会の同意を得て新教育長や教育委員を任命するほか、いじめ自殺事件などを念頭に緊急時には教委に対し適切な対応を取るよう求めることができるようにした。

教育行政の政治的中立性を維持
 修正案は公明党が求める地方教育行政の「政治的中立性」を維持しつつ、地方自治体の首長が指導力を発揮できる仕組みにしたのが最大の特徴。独自の改革案を持つ日本維新の会は政府案支持を鮮明にしているため、公明党にプレッシャーをかける意味においても、政府自民党は維新の会にさらなる協力を呼びかけた。政府は修正案を与党の作業部会(ワーキングチーム)にかけたが、公明党の主張も取り込んだ折衷案であるため、同党からの異論は出なかった。今後の課題は①首長による教育委員の罷免はどのような場合に認められるか②首長が総合教育施策会議で議長や教育長らと協議して決める権限をどこまで認めるか③教育委員の任期は何年とするか④施策会議の設置を自治体に義務付けるかどうか――などが与党内協議の焦点になりそうだ。このほか、政府は国際競争力を高めるため、実質的な意思決定機関である教授会の役割を教育研究分野に限定し、大学改革などは学長の主導で進められるよう、学校教育法・国立大学法人法の改革案を今国会に提出する方針だ。

少子高齢化で経営不振、学力低下
 教育行政は予算が潤沢な東京都がけん引役となり、歴代知事が改革に取り組んできたが、競争力の低下など様々な功罪が生まれている。まず1967 年の東龍太郎知事当時、小尾乕雄教育長が詰込み教育を廃止し、学力が平均化するよう都立高校入試に「学校群制度」を導入して学校間格差を無くしたため、日比谷、戸山、西、小石川高校など東大受験の名門都立校が没落。代わって開成、麻布、灘高校など名門私立校が台頭した。美濃部亮吉知事は均質な教育を念頭に学校群制度を維持、同制度は鈴木俊一知事の1982年まで続いた。この間、GHQが残した戦後民主教育に悪乗りした日教組が君が代斉唱、日の丸掲揚に反対するなど教育を混乱させた。おまけに、少子高齢化で過疎地の小学校は廃校が進み、一頃乱造された“駅前大学”も経営不振に陥り閉校が続出、国際的に見ても大学生の学力低下が目立ってきた。このため、石原慎太郎知事は逆に14あった都立高の学区を撤廃し競争主義に転換。猪瀬直樹知事が都立の4・4・4制の小中高一貫校を提案した。学校制度と形は違うが、舛添要一新知事も20年の東京五輪に備え小中学生から高齢者まで英語を話せる無料の「英会話教室」を各区に開いて都が補助する案を提言している。

学習指導要領、入試制度も改正
 教育の国際化が進む中では知識偏重でなく問題の解決力を磨くことも必要だとし、政府の教育再生実行会議は昨年10月、大学入試の改革案を提言。3~5歳の幼児教育に掛かる保護者負担を軽減・撤廃する「生活保護世帯の無償化」案なども検討している。政府は沖縄県の尖閣諸島と島根県の竹島を中・高校の学習指導要領解説書に「わが国固有の領土」と明記したが、首相が主張するように正しい歴史教育、道徳の復活、英語力の強化などで若者がグローバルな舞台で活躍できる「可能性」に満ちた人材を育成することが極めて重要だ。私も党政調副会長として文科行政を担当する立場から政審の審議を通じ、ゆとり教育の見直しで学力低下に歯止めが掛かったとされる教育をさらに底上げしたいと考えている。