第307回(2月1日)諫早開門問題(3)元首相の勘違いで血税投入
 私が衆院農水委で質問した2日後の12月20日、菅元首相は報道各社のインタビューに答え、農水省が当時上告を求めていたことを認めながらも、「漁業被害について調査しようと言う抑制的な判決で、妥当と考えて上告しなかった」と判断の妥当性を強調した。しかし、地元との調整が難航し、混迷のまま開門期限を迎えたことには言及を避けた。古川康佐賀県知事は同日、農水省に開門延期を抗議し、漁業者側弁護団は、開門するまで国に1日あたり約1億円の制裁金を支払わせる「間接強制」を24日に佐賀地裁に申し立てた。一方、中村法道長崎県知事は「開門するかしないかの二者択一しかない。話し合い解決は難しい」と3者協議に否定的な見解を示した。農水省が2011年に発表したアセスでは「開門すれば大量の海水が入れ替わり、塩害で農業用水として使えなくなったり、泥の巻き上げで漁に影響が出る」と指摘、対策費に最低82億円、最高1077億円が必要とした。農業、漁業双方の弁護団が訴訟を起こせば、さらに数百億円規模の制裁金を国民の血税で支払らわれる。独断的に上告を断念した菅元首相の責任は重大だ。私は下記の質疑応答で述べたように平成24年4月の衆院農水委で菅氏の参考人招致を要求している。責任を追及したい。

2月18日の衆院農水委で行った質疑応答の後半部分の要旨は次の通り。
北 村 今回の決定は、「開門によって地元に甚大な被害が発生する、事前対策も海水の淡水化施設はその実現性が低い、国が示す漁業被害防止対策はその効果があるとは認められない」と認定しているのが、長崎地裁の処分の判決だ。「開門しても漁場環境の改善の具体的な効果は低い、開門調査を公表する公益上の必要性も高くない」ということを認めた上での長崎地裁の決定だ。開門による甚大な被害と開門の公共性、公益性について比較検討しても前者の方が優越することで開門差しとめを認めたのであって、地元の主張が基本的に認められたと私は認識している。福岡高裁判決で認められなかった開門による地元への甚大な被害を認め、開門差しとめの判断を示しており、極めて重い司法判断が示されたという認識を持ちたい。大臣も、関係者の話、意見を十分聞きたいという姿勢で臨んでいることを高く評価したい。この間、決定書を吟味、分析されたと思うが、今後、仮処分の結果をどう評価していくのか。特に菅内閣の折に、農水大臣の意見を聞きながら、閣議にもかけることなく、首相が上告しないという決定に至った経過を見たとき、やはり、この重大な単に農林水産一部門の事柄でなく、「我が国がいかに民主主義制度、政治というものが実行されているか」ということについて、司法、行政、立法の立場が、取り組む我々の姿勢、基本的な考え方が問われる事柄ではないかと思う。今後、この仮処分等々の結果を、ぜひ内閣全体で取り組んで、しかるべき解決策を見出すべきではないかと考える。

高裁判決は国家が背負った責務
江藤 拓農水副大臣 長崎、佐賀両県の原弁団の方々とお会いし色々な厳しい御意見を頂いた。菅総理の御判断については、言いたいことは個人的にあるが、いやしくも一国の総理をこの場で悪く言うようなことは差し控えたい。しかし、ここで確認しなければならないことは、どのような経緯があったにしろ、福岡高裁の確定判決は国家が背負った責務であり、安倍内閣としてこれは引き継がなければならないと思う。また片一方では、長崎地裁の仮処分決定がなされ、これも法的有効性はもう既に発効している。我々はまだ異議申し立てもしていないが、これも十分に尊重しなければならない。593ページにわたる内容については詳細に分析・検討したが、内容を分析すれば福岡高裁の判決内容を全否定するかのような内容もこれは含まれているわけで、これは重く受けとめなければならない。
両原弁団との意見交換では、佐賀県側は、決して相反する義務を日本国政府は背負っていないということを主張し、長崎側は、環境アセスが終わった後、新しい環境のもとでなされた判決であるので、こちらの方が、優位性があると主張される。この中で非常に大臣も苦悩されているが、同じ日本人同士、三権分立である法の自立も尊重しつつ、何とか接点が見出せないか、今懸命の努力を続けているところだ。

北 村 今回の仮処分決定で、国は開門せよとの義務と開門してはならないとの義務をいずれかの時点で選択をせざるを得ないわけだから、私は内閣を挙げてと申し上げるわけだが、どちらを選択するか、この際の判断の基準などをどのように考えているのか。

江 藤副大臣 そういった基準は、現内閣として持ち合わせていない。高裁の開門すべき義務、地裁の開門してはならない義務、どちらが優先するということは、確定的な基準、考え方を持っていない。これは、この間テレビでも申し上げたが、日本国政府がこのような義務を負ったことはなく、法的義務として日本が背負ったことのない、未経験の世界を今経験しているわけだから、日本人の社会はアメリカに比べて訴訟社会という側面は、私は薄いと思っている。何とか同じ有明沿岸で暮らす人間同士、漁業者、農業者であれ、お互い同じテーブルに着いて話し合いができないかと、色々なチャンネルを使い努力している。

安倍内閣の総力を挙げ解決を
北 村 工事に着手しようと地元に農水省の現地の皆さんが何回も来て、私も2回、現場で立ち会ったが、これまでずっと一緒に仕事をしてきた農水省の熊本農政局の皆さん方と、入れる入れないで対峙していた。本当に地域の農業の振興のために国、県、農民、漁民が一体となってやってきた諫早湾干拓事業であったのに、ここへ来てどうしてこのような悲しいことになったのだろうか。何らかの解決策を強く念願している。12月17日付の西日本新聞報道によれば、菅元首相がインタビューに答え、福岡高裁判決は、干拓事業の影響で漁業被害が出たので、その調査のために開門するとの判断を示したもので、極めて妥当な判決だと思ったから、上告しないことを農林大臣にも了解をとって閣議で決めたと説明したということだ。寡聞にしてこれまで、閣議にかかり、かつ、農水大臣が当時了解をし、上告しないと決めたということを聞いていない。私は、先の委員会で、菅元首相の参考人招致を委員長に申し出、理事会預かりになっている。この新聞記事の事実関係を争う気持ちはないが、もともと、菅さんは諫早湾干拓に関し、いさかいが残っていることを一挙に解決する唯一の道であるとし、上告しない判断をした。これは彼の大きな勘違いで、当時、農水相にも了解をとって、閣議にかけて決めたという。これも重ね重ねの勘違いだと思う。内閣総理大臣が国の行政でいかに重い責任を負うかということにおいて、彼の上告しない措置によって、数百億円という国民の血税を投入しなければならないという悲惨な状況、またトラブルを生んだ。彼の期待に反していささかも収まっていない。裁判でやるか、政治的な解決かという状況で、ますます拡大をしているようにしか思えない。
 しかし、地域の利益のためにも、この諫早湾干拓事業の最終的な成果を本当に感謝しているわけだから、ぜひ収めていくように進めて頂きたいという希望を持って、農水大臣と皆さん方が安倍内閣の総力を挙げて解決に当たって頂くことを念願して質問を終える。
                               (完)