第301回(11月1日)観光立国(1)文化遺産から長崎の教会群脱落
 安倍首相は東京五輪招致を追い風に消費増税を決断したが、来年度着工のリニアモーターカー・ルート決定、江戸城天守閣の再興、お台場カジノ実現など、五輪をテコとした様々な観光開発が話題を呼んでいる。残念ながら、2015年の世界文化遺産登録から「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は脱落したが、五輪開幕までには未だ7年ある。粘り強く申請して来年度は推薦を勝ち取りたい。カジノはギャンブル依存症を増やす懸念もあるが、モンテカルロ、米ラスベガス、シンガポール、ラオスなどで大成功、旧社会主義国家のブルガリアでも導入している。首相も衆院予算委でカジノに前向き姿勢を示した。佐世保のハウステンボスもカジノに名乗り上げている。私は自民党の政調副会長として新たに文部科学行政を担当した。文科審議会が選んだ教会群の世界遺産とカジノを実現し、九州新幹線の全線開通と相まって、世界から五輪の観光客を九州、長崎に勧誘したいと考えている。

文科審議会は長崎教会群を推す
 富士山が今年、世界遺産に決定して以降、世界からの観光客が急増。富士急行(堀内光一郎社長)は河口湖から5合目までの有料道路を富士登山鉄道に転用する計画を進めている。2015年の世界文化遺産登録を目指す日本の推薦は、文化庁の文科審議会が選んだ「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎・熊本両県)ではなく、内閣官房の有識者会議が推した「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」(九州5県と岩手・静岡・山口の計8県)に決まった。文化遺産への推薦候補決定は従来、文科審議会に委ねられてきた。同審議会は他に「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」(青森県など)と「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府)など3件も検討したが、「長崎教会群」の管理計画が最も整っているため、推薦の軍杯を挙げた。長崎教会群は国宝の「大浦天主堂」(長崎市)など13の文化財が集中していることから、長崎県と長崎市、地元財界が積極的な誘致活動を続けてきた。以上の事情から、私も政府に強く推薦を働きかけてきただけに、逃したのは極めて残念だ。

有識者会議が産業革命遺産推薦
産業革命遺産は八幡製鉄所(北九州市)など政府が稼働中の工場を含めて世界遺産に推薦する初めてのケース。文化財保護法では保全が難しい稼働中の資産を含むため、昨年の閣議決定に基づき設置された有識者会議が価値や保全策を審議していた。8月27日の同会議では、前任の国連教育科学文化機関(ユネスコ)事務局長の松浦晃一郎氏が「推薦対象の工場施設などを所有する企業に配慮し、規制の緩い保全策が取られている」と指摘。他の出席者も「推薦書案に書かれた遺産価値の説明が分かりにくい」と主張するなど推薦の先送りを求める意見が相次いだが、最終的には賛成多数で推薦候補に決定したと言う。これに先立つ同23日の文化審議会では、製鉄や造船など重工業に偏る産業遺産の範囲や名称に対し、「日本の産業革命は軽工業から発展しており、適切かどうか疑問だ」と指摘し、不十分な保全策や遺産価値の説明も再検討すべきだとの意見書を政府に提出していた。

長崎造船所、「軍艦島」も含む
韓国も、産業革命遺産施設の一部は植民地時代に強制徴用された朝鮮半島出身者が働かされた場所だとして、推薦に反対する意向を事前に日本側に伝えていた。こうした点にマスメディアは産業革命遺産に首相の地元・山口、麻生太郎副総理の福岡が含まれていることから、「お手盛りでひっくり返した」と批判した。だが、菅義偉官房長官は「教会群遺産と甲乙つけ難い」とした上で、産業革命遺産を選んだ理由に①日本がものづくり大国となる基礎を作った歴史を物語る②岩手県釜石市の資産を含み最優先課題である震災被災地復興にも大きく貢献する③稼働中の工業関連施設の登録は世界に例が無く文化遺産保全の新モデルを提示する――を挙げた。政府は推薦書をユネスコに提出、国際記念物遺跡会議(イコモス)が来年夏にも現地調査に入る。産業革命遺産は幕末から明治にかけて重工業の発展を示す20超の施設で構成しているが、長崎造船所(長崎市)、「軍艦島」で知られる長崎市の端島炭鉱も含まれている。端島は日本の炭鉱の歴史をよく反映したものだ。

二重基準と怒るが登録実現協力
中村法道長崎県知事は「(教会群の落選には)大変驚いた。教会群を先行してほしいと考え、関係市町村と取り組んできただけに残念。いわばダブルスタンダード(二重基準)だ。統一した視点で評価してもらえる態勢を作ってほしい。産業革命遺産の稼動資産については国から説明を受け、協議・調整するが、着実な登録実現を目指し全力で取り組む」と語り、当面は産業革命遺産に力を注ぐ姿勢を示した。文化遺産への各国の推薦枠は年1件と厳しいが、下村博文文科相は記者会見で、教会群に関し「来年度には確実に推薦できると考えている」と希望的観測を語った。しかし、軍艦島の保全管理計画は未策定で、護岸費と石炭生産施設の保全費は試算でも11億~144億円かかると見られ、三菱重工業長崎造船所の大型クレーンやドックなど稼動施設に対する三菱との協議も手付かずの状態。「規制の厳しい文化財保護法を適用すれば、生産活動に支障をきたす」、「多額の税金を使うと市民生活にしわ寄せが来る」と地元で不満の声が高まっている。田上富久長崎市長は「国、県と協議しながら検討を進めたい」と語り、県も「県・市と三菱重工、国の3者協議はこれから」と準備を急ぐ考えだが、東京五輪開催までに2遺産登録の同時進行は極めて難しい。       
                     (以下次号)