第299回(10月1日)シリア化学兵器の危機脱出 ロシアが国際管理案
 化学兵器使用問題でオバマ米大統領が短期・限定的軍事介入を決意したシリア問題は、ロシアが化学兵器の国際管理案を提案したことで一触即発の危機を脱した。介入すれば紛争が長期化し、テロ組織の報復が日本を含む世界に拡大、中東に依存する原油の高騰、イスラエルとアラブ諸国との対立再燃――など様々な不安が吹き荒れるところだった。英国議会は介入参加を承認せず、米国議会も「武力行使容認決議案」の採決で賛否が拮抗していた。そこへタイミングよくロシアのプーチン大統領が化学兵器の国際管理・廃棄案を国連安保理事会に提案、米国に「軍事介入の方針を撤回すべきだ」と要求した。プーチン氏は、かつて核戦争への発展かと予測されたキューバ危機の際、ケネディ米大統領とフルシチョフソ連書記長との応酬で危機を回避したのに習って、和平の役割をひとまず果たした。しかし元々化学兵器はロシアがシリアに供給、アサド政権は1千トンの化学兵器を各地に分散保有していると見られ、国際管理案には懐疑的な見方がある。こじれて米が軍事介入し、国際テロ組織が日本の原発周辺を狙い撃ちしたらどうなるか。尖閣諸島問題を含め安全保障と農水行政をライフワークにしてきた私は万全な対策を構築したいと努力している。

オバマ氏が限定的軍事介入決意
 強権体質のアサド政権は、核兵器を保有するとされる隣国イスラエルに対抗し1970年代から化学兵器による武装を本格化、化学兵器禁止条約に署名せず、最近まで保有すら認めていなかった。それが8月21日、首都ダマスカス近郊で化学兵器を使って、子供400人を含む1300人を死亡させ、1000人に重傷を負わせたという。仏情報当局は、オウム真理教が保有したサリン、マスタードガス、強力な神経毒物質など1千トン余をアサド政権が保有すると指摘。ヘーゲル米国務長官は9月4日の下院外交委員会公聴会で「化学兵器はロシアが供給している」と発言した。化学兵器使用を「人道上越えてはならない一線」とするオバマ大統領は「最も凶悪な兵器を使った者の責任を明確にする」と述べ、地上軍は使わず、軍事拠点に限定した洋上攻撃で短期的に軍事介入する決意を表明。米海軍はトマホーク巡航ミサイル90発搭載の駆逐艦4隻を地中海に派遣した。ロシアも対抗上、偵察艦など3隻がシリア沖の地中海東部に向かった。だが、オバマ氏自身は2008年の大統領選で、大義名分とされた大量破壊兵器を発見できず国連決議も伴わなかったブッシュ元政権を批判し、当選した経緯がある。そこで、国連決議に持ち込もうとロシアで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で活発な多数派工作と、米議会では承認取り付けに懸命になった。

ロの4段階工程表を米受け入れ
 米国が化学兵器の廃棄を求め、武力行使を容認する安保理決議を目指しているのに対し、ロシアは「違法な化学兵器を持っているのはアサド政権だけではない。反体制派は何度も使っている」(ブシコフ・ロ下院外交委員長)と、反体制派が使用した証拠物件を国連安保理に提出したという。国連安保理では当然、中国とともに米案には拒否権を発動して反対する構えだったが、ロシアが逆提案したのは化学兵器の国際管理・廃棄案。シリアは直ちに同案に協力する意向を表明した。フランスもシリアに対し、化学兵器を国際管理下に置くことを求める決議案を安保理事会に提出した。ケリー米国務長官とラブロフ・ロ外相は12日から3日間、ジュネーブで協議し、ロ側は化学兵器を国際的に管理、放棄するため①シリアが化学兵器禁止条約に加盟する②シリアが化学兵器の保管、製造場所を申告する③シリアが関連施設に国際査察団を受け入れる④化学兵器の廃棄方法を決定する――の4段階の工程表を提示。アサド政権に来年半ばまでに化学兵器を完全に廃棄させるため、1週間以内に全化学兵器を申告し11月までに全ての関連施設に国際査察団を受け入れるよう求めることで合意した。アサド大統領は12日、ロシア国営テレビに「化学兵器を引き渡し国際管理下に置く」と述べ化学兵器の開発・生産・貯蔵を禁止する条約の加盟手続きを行った。

不調の場合米は軍事介入を留保
 しかし、国際管理案には疑問符がついている。東京新聞によると、イラクの旧フセイン政権のように駆け引きを展開すれば、国連の査察さえ先延ばしされる恐れがあるし、反体制派「自由シリア軍」の報道官は「散在する全ての化学兵器貯蔵庫の情報を知るのは政権でもごく少数。査察官はどう確認するのか」と指摘し、激戦が続く中で安全な査察活動を行うことは困難で現実的でないと語ったと報じた。シリアはロシア、イラン、北朝鮮の友好国だが、国内40数箇所に分散している化学兵器を既に隣国イラクとレバノンに運んだとの情報がある。北朝鮮が6カ国協議で核開発中止を偽装したように、シリアが安保理決議を時間稼ぎに利用する構えは見え見え。シリアの反体制派は米ロ合意を拒否した。オバマ大統領は国連安保理の決議では化学兵器の申告と査察受け入れに強制力を持たせ、アサド政権が履行しない場合の制裁措置まで盛り込みたい考え。協議が不調の場合は「短期・限定的軍事介入」の構えを留保している。ロシアは制裁条項を加えることに反対していた。

玉虫色決着で履行までひと山か
  結局、国連安保理事会は27日夕、米ロ案に沿って化学兵器の廃棄計画を履行するよう法的に義務付けた決議案を全会一致で採択した。決議は国連憲章第7条に基づく措置を取ると明記しているが、シリアが決議を違反した場合の経済制裁や武力行使など7条の具体的な強制措置は決めておらず玉虫色の決着。不履行の場合は新たな決議が必要と見られる。ロシア外交は成功した形だが、国連安保理決議か履行されるまでにはひと山ありそうだ。