第298回(9月16日)TPPと農林水産対策(7)養殖など水産業も深刻
           濃密汚染水、稚魚乱獲で水産危機
 TPP交渉、原発汚染水、ウナギ・マグロの稚魚乱獲などで水産業界は深刻だ。  
米国はTPP交渉の「環境」分野で、漁業補助金が魚類の乱獲を招き、枯渇させると反対し削減を提案、豪州、ニュージーランドが米国を支持した。日本の補助金制度は「補助対象の漁網は稚魚を逃がせる」仕組みであるとして、甘利明担当相は閣僚会合で「補助金は国際的な水産資源の管理の観点から重要な取り組みだ」と主張、存続を死守する構え。自民党の西川公也TPP対策委員長や漁協代表団もブルネイに乗り込み、交渉を監視した。東電福島第1原発の汚水タンクからは300トンもの濃密汚染水が排水溝や地下水を通じて外洋に流れ、2年間漏れ続けている。その後の調査で5つのタンクからの漏出が明らかになった。原子力規制委員会(田中俊一委員長)は8月28日、国際的尺度レベル1の「逸脱」からレベル3の「重大な異常事象」へ評価を2段階引き上げたが、岸宏全漁連会長は翌29日、防止対策を急ぐよう東電に厳しく抗議した。中国は日本近海で海洋汚染が拡大したと抗議、韓国は福島、岩手など8県の水産物を全面禁輸すると発表、海外メディアも五輪招致への影響を報じた。政府は直ちに汚染対策費として国費470億円の投入を決め、首相が五輪招致で安全性を具体的にPRした。私は党政調副会長として事態を重視、水産振興に鋭意取り組んでいる。

取水口付近は法定濃度10倍以上
 東電は同21日、2011年以降に海洋流出した放射性セシウム137は最大で20兆ベクレル、骨にたまりやすい放射性ストロンチウムが10兆ベクレルに達するとの試算を公表した。汚染水は取水口付近で法定濃度の10倍以上に達し、東電が自らに課した年間放出管理値の100倍以上に当たる。三陸沖はサバ漁で賑っているが、福島県のいわき市漁協、相馬双葉漁協は昨年6月から続けた試験操業の実施を9月1日以降も当面見送った。1昨年7月から5回にわたり福島原発沖合を調べた東京海洋大大学院の神田穣太教授は「原発専用港内のセシウム137の直接流出量は5000テラ(兆倍)ベクレル程度と考えるのが妥当」と述べ、海底の泥に蓄積して魚に影響することを懸念している。有識者で作る「原子力市民委員会」は同28日、「事故は収束していない。収束作業の事業主体を東電から独立させるべきだ」と訴えた。3・11大震災後は汚染魚の風評被害で日本海産物の海外輸出は停滞。加えて、輸入する原油などが円安で燃費が高騰し、漁業者は採算割れで出漁できないでいる。

幅を利かすピカーラウナギ
 養殖も稚魚の乱獲で危機的状態。7月22日の土用丑の日は低価格のインドネシア、フィリピンなど東南ア原産・ピカーラウナギが幅を利かせた。ニホンウナギは2月に環境省が絶滅危惧種に指定し国際機関もレッドリストへの掲載を検討中の枯渇資源。卸し売り価格も10年前は1キロ(3~5尾)約1600円が約4500円に高騰した。ピカーラの養殖用に採取されるシラスは1キロ(5千匹)が約80万円でニホンウナギの3分の1程度と格安。ピカーラの養殖業者が増え、シラスの密漁・密輸が摘発されている。ニホンウナギは西マリアナ海域で夏に生まれ、シラスウナギ(稚魚)に変わって秋から翌年4月にかけて日本沿岸に来て川を遡上する。途中で多くのシラスは台湾などで捕獲され、鹿児島県や静岡・浜松市などの養殖業者に輸出されるが、乱獲が祟り、昨年輸入量の3割を占めた台湾産地ウナギの資源が枯渇し価格の高騰が続いている。ウナギ産卵の謎を解こうと東大の大気海洋研究所(千葉県柏市)の白鳳丸は2009年、マリアナ沖深海でウナギの採卵に成功した。

クロマグロの資源回復策勧告
 読売によると独立行政法人「水産総合研究センター」(本部・横浜市)の三重県南伊勢町にある研究所が2010年、卵から成魚まで育てた上で産卵・孵化させ、稚魚を養殖場の中で作り出す完全養殖に成功。16年度には1万匹程度の稚魚を生産できる飼育方法の開発を目指しているという。しかし、ウナギ量産化は稚魚の生存率が低くコスト高を解決できていない。今年の初競りで大間産のクロマグロ1尾に1億5540万円の高値がついて話題を呼んだのは記憶に新しいところ。不思議なことに記録的な猛暑で北海道の釧路では異例にもクロマグロの水揚げが相次いだが、クロマグロもウナギと同様、過剰な漁獲が続き資源枯渇が懸念されている。日本や米国が参加する国際機関「北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)の作業部会は「2010年の資源量が、過去最低レベルにまで落ち込んだ」との評価報告書をまとめた。それは「07~09年の漁獲レベルが続けば資産回復は望めない」とし漁獲量削減など強力な資源回復策導入を勧告している。関係国は年末の総会で対策をまとめる。

乱獲メジマグロの漁獲規制提案
 同作業部会が推定した資源量は1960年代のピーク時には約13万トンあった産卵能力のある太平洋クロマグロ親魚は2010 年には2万3千トンに減少した。クロマグロは太平洋と大西洋に生息しているが、大西洋では乱獲が著しいため、厳しい漁獲規制が実施されている。水産庁によると2010 年の太平洋クロマグロの日本の漁獲量は8561トンだったが、11年は1万7651トンに増えている。他国が漁獲したクロマグロもほとんどが日本に輸出され、国内の流通量は太平洋のクロマグロとほぼ半々になっている。クロマグロは1キロ2000円程度なのに対し、乱獲のメジマグロ(0~3歳の幼魚)は3分の1の700円程度と格安でスーパーの目玉商品。資源の枯渇防止を図るためクロマグロ漁業を管理する「中西部太平洋まぐろ類委員会」(WCPEC)は9月2~5日に福岡市で小委員会を開き、日本は産卵前の幼魚メジマグロ(3歳以下)の漁獲量を2002~4年の平均値より15%以上減らすよう提案し合意を得た。米国は日本を上回る25%削減率を示していたが、最終的には折れた。

輸出漁に厳しく輸入漁に寛大
 近畿大学水産研究所の大島実験場は2002年、マグロの「完全養殖」に初めて成功。サバにマグロの受精卵を移殖し産ませる研究も進めている。読売によると、水産庁の水産総合研究センターは6月、長崎市で生後2年のクロマグロを直径20メートル、深さ6メートルの陸上水槽2基に入れ、2年後に採卵して育てる完全養殖を始めた。採った卵を鹿児島県加計呂麻島の陸上水槽に空輸し、約6センチの稚魚に成長したところで海に設けた生簀に放って育てる計画だ。政府与党の骨太方針では「農水産物・食品の輸出拡大、科学技術イノベーションの活用」を謳っているが、養殖技術には特段の関心を示している。しかし、水産業は円安による燃油の高騰、それに追いつけない魚価安、増大する外国産養殖魚輸入にさらされ、青息吐息だ。政府は大震災復興策として認めた「水産業復興特区」に基づき、9月1日付で宮城県石巻市の民間会社「桃浦かき生産者合同会社」に初めて漁業権を与えた。問題は水産物の輸出入制度。現状は「輸出漁に厳しく、輸入漁に寛大」で、中国、ロシアなど向けには衛生証明書の添付が必要。それには有害物質の有無や鮮度などの官能検査が厳しく、手続き完了までに1カ月かかり、初回経費は10万円を超えることもある。魚種ごとに異なる関税も韓国、タイなどは20~50%も掛かる水産物があるが、日本への輸入水産物の平均関税は4・1%と低く、TPP交渉とは逆の意味で不平等が目立っている。

養殖技術革新と輸出振興が課題
 このため、自民党は4月12日、「全国海水養魚協会」(嶋野勝路会長)ら14団体と関係省庁の代表を集め、5年ぶりに「養殖漁業懇話会」(会長=山本有二衆院予算委員長)を開き輸出拡大策を協議した。もちろん私も出席したが協議の結果、中国、ロシア向け衛生証明書の官能検査は輸出事業者による「自主検査」でも認めるようにした。その後、長崎県北松地域漁村加工促進協の宮本啓史会長らが音頭を取り、7月3日に15団体参加の「全国養殖魚輸出振興協議会」を東京に設置した。水産業も体質を改善し、養殖技術の革新、輸 出の振興を図らなければならない。                     (完)