第297回(9月1日)TPPと農林水産対策(6)日米は年内妥結で合意
 第19回のTPP交渉会合は8月22~30日にブルネイで開かれ、日米豪など12参加国の担当閣僚会議が23日に共同声明をまとめて発表した。声明は「10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて首脳会議を開いて基本合意し、年内の交渉妥結に向けて取り組む」との決意を盛り込むとともに、「関税撤廃」「知的財産」「政府調達」などの7分野で克服すべき困難な課題が残されていることを明記。各国が守りたい重要分野を抱えているとして「相互に受け入れ可能な協定の実現に努力する」ことを謳っている。国際会議は開催国が議長になるのが通例だが、閣僚会合を呼びかけたのが米国だったため、米通商代表部(USTR)のマイケル・フロマン代表が真ん中の議長席に着き、記者会見でも共同声明を読み上げた。米国が年内妥結のシナリオを描いたのは、米中央情報局員の内部告発問題などで支持率が大きく下がったオバマ政権が、来年秋の中間選挙に向け輸出拡大による経済成長を打ち出し、TPP交渉の妥結を成果として訴えたいからだ。ブルネイ会合前に来日したフロマン代表は19日に甘利明TPP 担当相と会談。TPPの年内妥結に向けて協力することで一致、TPP交渉と並行し、日本の市場開放を話し合う日米の2国間協議も年内に終える方針を確認。初めの2日間開かれた閣僚会合でも甘利氏は真っ先に米国と歩調を合わせた。

交渉時間切れで越年の期待感も
 第19回会合は日本が初めて全日程を通して参加した会合で、関税撤廃に向け4段階の期限を設定して集中的交渉に入り、財界やJAも監視団を再派遣した。甘利担当相が「自民党や国会の決議を受け止めてコメ、乳製品など重要5品目の交渉をする」と強調していたように、難航した「市場アクセス」分野の交渉で日本は重要5品目を「未定」とし、関税を撤廃する品目の割合を示す「貿易自由化率」も80%と低くとどめることを強く主張した。「作業計画」によると、9月20日までに自由化交渉の対象となる全品目の95%を議論のテーブルに載せ、次回会合から日本は「聖域」と位置づけるコメ、牛・豚肉など農産品の重要5品目を巡り各国との交渉が本格化する。鶴岡公二主席交渉官らは8月末まで11カ国代表と2国間交渉を続けたが、利害が対立する分野の協議は進まないうえ来月に総選挙を控えた豪州は今回の交渉を見送り、マレーシアなども米国ペースの運営に反発した。日本代表団は「どう見ても年内の妥結は無理。日本が主張する時間は十分ある」と受け止め、「交渉が時間切れとなれば農産品にあまり触れられずに決着可能」と越年に期待を強めている。

フロマン氏タフネゴシエーター
 しかし、フロマン氏は米プリンストン大、英オックスフォード大など3名門大学で学び、オバマ大統領とは米ハーバード大の学友。1993年に米政府入りしホワイトハウス勤務を経て99年に米金融大手シティグループの専務などを務めたが、09年の第1次オバマ政権発足と同時に、国際経済担当の大統領次席補佐官として辣腕を振るった。19日の日本記者クラブでの記者会見では、「日本市場の障壁は根強く残っている。自動車や保険市場へのアクセスを阻む非関税障壁が(両国の)成長を阻んでいる」と述べ、TPPと同時に進める日米並行協議でも一層の市場開放を迫る考えを示した。越年も予想されるTPP交渉妥結については難航している関税などの分野を先送りする「部分合意」ではなく「全21分野で必ず年内妥結を目指す」考えを強調した。交渉では重要5品目農産物の関税をいかに守るかという農協(JA)と貿易や投資の手続き簡素化を期待する製造業のせめぎあいもあるが、同氏はタフネゴシエーター(手強い交渉人)として知られており関税交渉は難航が予想される。

RCEP閣僚会合も先立って開催
 TPPの19回会合に先立つ19日、ブルネイの首都バンダルスリブガワンでは東アジア地域の包括的経済連携(RCEP=アールセップ)の閣僚会合が開かれた。初の閣僚レベル会合で、日本は茂木敏充経済産業相が出席した。RCEPは日・中・韓、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が貿易の自由化を目指し、自由化の鍵となる関税引き下げや撤廃をどのような手順で進めていくかが主な議題で、2015年末までの交渉妥結が目標。しかし、新興国が多く加わっているため、TPPに比べると交渉参加国間に経済上の格差があり、実効性のある共通ルールが確立できるかどうかは疑問だ。日本は2国間協議で自由化の例外が増えるのを懸念し、全体協議による共通ルール作りを狙っている。事務レベルの第1回交渉会合は5月に同じくブルネイで開き、「物品貿易」「サービス貿易」「投資」の3部会を設け、分野別協議を実施した。第2回交渉会合は9月24~27日まで豪州のブリスベーンで開く予定。TPPに未加盟の中韓両国はRCEPで主導権を握ることに意欲を燃やしている。

「前門の虎、後門の狼」のTPP交渉
 野党各党はTPP交渉について、谷川禎一前自民党総裁が野田前首相に委員会設置を要求したいきさつもあり、衆参両院で集中的に審議する特別委員会を新設するよう求めている。首相は「国民に交渉の進展に応じて丁寧に情報を提供する」と述べているが、自民党は特別委設置に難色を示している。その理由は①参加に当たり鶴岡主席交渉官が守秘義務の契約書に署名した②交渉中の外交案件は政府が国会で明らかにできる情報に限界がある――などだ。特別委が設置されれば、与党議員の中からも農協や製造業の利益代表的な質疑が繰り出され、不協和音が生じ混乱が懸念される。TPP交渉で首相は国会の野党攻勢と剛腕の米通商代表に追いまくられ、「前門の虎、後門の狼」の厳しい局面に立たされそうだ。
       (以下次号)