第296回(8月16日)TPPと農林水産対策(5)農水の構造改革必至
 7月15日からマレーシアで開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)の第18回交渉会合は25日閉幕したが、焦点の関税など「市場アクセス」分野は合意に至らず、おまけに米国の承認遅れで3日間しか参加できなかった日本は立場説明が精一杯だった。そればかりか、団長の鶴岡公二首席交渉官が23日に守秘義務の契約書に署名し、初めて参加が認められたため、交渉内容は一切明らかにされず、交渉監視を狙って代表団を派遣した経団連、全農協(JA)、連合は失望し不満を増大させた。各国首脳は「交渉の10月基本合意。年内決着」を目指すが、結論は来年以降に持ち越されそうだ。日本は交渉の遅れが幸いし、コメ、牛・豚肉など重要農産品5品目の聖域化主張と、仮に引き下げる場合でも長期間の留保条件を付けられるなど、守り易い環境が生まれつつある。だが農村の高齢化と減反で自由な経営を阻害されてきた農業の衰退は明白。難問題だが日本農業の構造改革は喫緊の課題だ。TPP交渉と並行し、政府自民党は「骨太方針」で決めた①農地集積・集約②6次産業化③農林水産物・食文化の輸出拡大④科学技術革新の活用――など成長政策を国会で成立させる方針。
 私も農水担当政調副会長として、JAなどの意向も十分踏まえTPP決着に努力する考えだ。

閣僚会議も初日から2日間開催
 次回のTPP交渉会合は22~30日にブルネイで開かれ、財界やJAも監視団を再派遣する。次回交渉では、難航した「市場アクセス」分野を進展させるため、日米豪など12カ国が関税撤廃に向け4段階の期限を設定して集中的に交渉する。1日発表の「作業計画」によると、9月20日までに自由化交渉の対象となる全品目の95%を議論のテーブルに載せるが、日本は「聖域」と位置づけるコメ、牛・豚肉など農産品の重要5品目を巡る各国との交渉が本格化する。閣僚会議もブルネイで初日から2日間開かれるが、甘利明TPP担当相は「自民党や国会の決議を受け止めてコメなど重要5品目の交渉をする」と強調。代表団は4日から埼玉県で2日間の合宿を行った。政府は2日、TPP交渉参加に業界団体から寄せられた意見の概要を公表したが、重要農産物の関税を守れるかという農協(JA)などの不安と、貿易や投資の手続きが簡素化されることへの産業界の期待が交錯した。日米両政府は7日から3日間、東京で2国間の「TPP並行協議」を行い、自動車と保健分野などを協議した。

日本農業も例外設けぬと米代表
 日本の「関税聖域」に対する各国の反対は強烈。マレーシア会合前の7月18日に開いた米下院歳入委員会の公聴会では、「日本の自民党は農業分野でコメなど非常に多くの項目を交渉のテーブルから除外しようと企てている。非常に不安だ」と1委員が訴えたのに対し、フロマン米通商代表は「どの国にも重要品目があり、その全てが交渉のテーブル上にある。日本の農業が除外されることはない」と述べ、日本農業に関し、事前に例外を設けるとの合意はないことを明らかにした。同代表はその後訪米した茂木敏充経産相との2国間協議でも厳しい姿勢を堅持した。GMの本社がある米自動車産業の聖地・デトロイト市は7月、財政破綻を裁判所に申請しており、米自動車業界を支持基盤とする出席議員らは「外国為替市場で日本が円安に誘導し、輸出を有利にしている」との懸念を改めて示した。日本は既に、米国の自動車輸入関税を、米韓の自由貿易協定(FTA)より長期(米韓は乗用車で5年)にわたって維持することを認め、保険でも米国の要望に配慮し日本郵政が米保険大手の生保(アフラック)との提携を約2万郵便局に拡大する譲歩策を提示した。また日本の高関税品目が残る農業分野では米、豪を始め11カ国のほとんどが関税引き下げ要求を前面に出している。これに危機感を抱くJAは先月末、TPP反対の「全面意見広告」を出した。

農業構造改革・体質強化の好機
 1993年に決着したGATT(関税貿易一般協定)ウルグアイ・ラウンドの農業合意で、農産物は全て関税化され、高関税の設定が認められた。その後の実質的な市場開放はGATTを引き継いだWTO(世界貿易機関)での交渉に委ねられた。しかし交渉に進展は見られず、グローバル化の流れを見ると、農産物関税の大幅削減の要求は収まりそうもない。従って、TPPで仮に日本が重要5品目について関税撤廃の例外措置、あるいは実施時期の延期措置を勝ち取ったとしても、農業改革は待ったなしだ。本間正義東大農学部教授は7月19日の読売に投稿、「日本は90年代の農業対策に6兆円余もの大金を投入しながら、体質強化を図れずに今日に至っている。<略>関税に守られながら減反で自由な経営を阻害されてきたコメこそが日本農業の象徴だ。<略>稲作経営は耕作地が細切れになっており、効率的な土地利用とはいえない。分散した田畑を機械や人が移動するだけで費用はかさむ。農地を集約し単位面積当たり収量の多い品種を導入することでコメの生産費は大幅に削減できる」と述べ、日本農業の構造改革・体質強化の好機と捕らえている。政府も生産費4割削減など多岐に渡る政策を掲げた。だが、「言うは易し、行うは難し」が農業改革である。
                      (以下次号)