第293回(7月1日)TPPと農林水産対策(2)国益資する交渉推進
 政府は6月14日、経済政策の基本方針となる「骨太の方針」「成長戦略」「規制改革実施改革」の3政策を閣議決定した。首相の経済政策「アベノミスク」はこれで出揃い、参院選で国民の審判を受ける。首相は同日朝、「経済再生と財政再建の道筋が出来た。後は実行あるのみだ」と官邸で記者団に胸を張った。首相は同16,17両日に英・北アイルランドで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)でアベノミクスの狙いをPRし,評価された。骨太の方針では、今後10年の国内総生産(GDP)の成長率の目標を「名目3%、実質2%」と設定、政策に必要な費用を税金で賄えているかどうかを示す「基礎的財政収支」(プライマリーバランス) の赤字(対GDP比)を、2010年度に比べて「15年度までに半減、20年度までに黒字化する」という財政健全化目標を掲げた。成長戦略では「思い切った投資減税で法人負担を軽減する」などで企業収益を拡大し、1人当たりの国民総所得(GNI)を150万円以上増やす目標を盛り込んだ。また、規制改革実施計画では、成長戦略を実行する際に障害となる過度の規制を取り除くことを目指している。

FTAAPルール作りのたたき台
 骨太の方針に盛られたTPP(環太平洋パートナーシップ)の基本姿勢は①国益に資する経済連携交渉を推進するため、関係府省庁の体制強化を図る②TPP協定交渉に積極的に取り組み、アジア太平洋地域の新たなルールを作り上げる③同時にRCEP(東アジア地域包括的経済連携)や日中韓FTAなど広域経済連携と併せ、その先の大構想であるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)のルール作りのたたき台とする④欧州などとの経済連携も同時並行で推進し、世界全体の貿易・投資のルール作りを推進する中核的役割を果たす――としている。この方針はG8サミットで、日本の成長への期待感とともに、「自由貿易促進のため、TPPなど地域間通商の動きを歓迎」として首脳宣言に盛り込まれた。日本の参加でTPPの交渉参加国は12カ国となり、国内総生産(GDP)の合計は世界の40%を占める。TPPの18回交渉会合は7月15日から11日間、マレーシアで開かれるが、正式メンバーの承認が遅れたため、日本の参加は実質3日間でしかない。いかなる同盟国であっても国益を懸けて対峙する会合は厳しい。日本にとっては助走無き「ぶっつけ本番」の交渉だ。

米国は中国参加歓迎し情報提供
 貿易や投資に不透明感が漂う中国はこれまで、「TPPには当面加わるつもりはない」と公言。日中韓のFTAを推進役として、東南ア(ASEAN)を加えたRCEPを自らの主導で創り上げることを基本戦略としてきた。だが、日米が足並みを揃えるTPPに神経を尖らせ、中国商務省報道官が「TPP加入を検討している」と表明。先の米中首脳会談では、習近平国家主席がTPPの情報提供を求めたのに対し、オバマ米大統領は「中国が参加したいなら歓迎する」と述べ、情報提供を確約した。日本参加の日米折衝で、米国は日本がコメなど高関税で守っている農産品など5品目への配慮を求めたのに対しては手の内を見せず、その裏返しに、米国は日本車にかける関税の撤廃を「最大限後ろ倒しにする」ことで合意するなど、米国ペースで進んできた。このように、習政権には情報を渡しながら同盟国日本には核心的な情報を秘匿するなら、折角防衛で修復した日米関係は再びひび割れしよう。

 それにしてもTPPが農業に与える打撃は深刻だ、政府が3月15日に発表した試算では、交渉参加の11カ国との間で関税がなくなったと想定すれば、海外からの農産物に押されて国内の農業生産額は約3兆円減るうえ、カロリーベースの食料自給率も今の40%から27%に落ち込むと推定した。最も生産額が減るコメは1・1兆円減少し、国産米の年間生産量約850万トンのうち、210万トンが米国、60万トンが豪州のコメに置き換わる見通し。農協(JA)は衝撃を受け、自民党の「TPP交渉における国益を守り抜く会」(森山裕会長)も交渉参加に強く反発した。その後、党の農水部会を中心に政府与党と折衝した結果、参加方針を了承、自民党公約にも「TPPなどの経済連携交渉は交渉力を駆使し、国益にかなう最善の道を追及する」と明記した。だが、北海道のJA支部は参院選では自主投票を決めるなど大きなしこりを残している。私は国益優先のTPP交渉を後方支援する覚悟だ。

自民党農水部会が了承した骨太の方針、成長戦略の農林水産業分野は概ね次の通り
   <骨太方針>
 1.農林水産業は、地域の活力を創造する上で極めて重要。多面的機能を発揮しつつ成長産業となり、美しく伝統ある農山漁村の次世代への継承を目指す。

 2.生産者の減少と高齢化の進展、耕作放棄地の増加等の構造的問題に対処し、競争力強化の観点から、担い手への農地集積・集約、6次産業化、農林水産物・食品の輸出拡大、科学技術イノベーションの活用等を勧めるとともに、経営所得安定対策(旧:戸別所得補償制度)を適切に見直し、併せて、農林水産業の多面的機能の発揮を図る取り組みを進め、新たな直接支払い制度の創設を検討する。また、森林・林業について、新たな木材需要の創出や国産材の安定的・効率的な供給体制の構築に取り組む。

 3.さらに、水産業について、水産物の消費・輸出拡大、持続可能な漁船漁業・養殖業の実現に不可欠な基盤整備の推進等を図る。攻めの農林水産業を展開し、農林水産業を成長産業にする。また、食の安全を確保し、消費者からの信頼を確保する。このため「農林水産業・地域の活力推進本部」において、具体的な方策を出来るだけ早期に取りまとめる。

  <成長戦略>
 (一)日本の農林水産物・食品の輸出促進等による需要の拡大を図る。2020年に農林水産物・食品の輸出額を、現状の約4千5百億円から1兆円とすることを目指す。このため[国別・品目別輸出戦略]を策定する。

 1.日本食を特徴付けるコンテンツ(水産物、日本酒などのコメ・コメ加工品、牛肉、青果物等)の輸出拡大を図る観点から、品目別の農林水産物・食品の輸出額に係る数値目標、輸出環境の整備等に係る目標を年内に設定する。

 2.植物検疫などの輸出に必要な手続きを卸売市場で行うことにより、スピーディーな輸出を実現するとともに、産地間連携による日本の農林水産物を年間通じて安定的に供給できる体制の構築を実現する。

 (二)日本の食品の安全・安心を世界に発信するため、海外の安全基準に対するHACCP(危害分析・重要管理点)システムの普及を図る観点から、マニュアルの作成や輸出HACCP取得支援のための体制整備を来年度までに実施するとともに、輸入手続きの際に提出を求められることがある自由販売証明書の発行体制を今年度中に構築する。

 1.日本食材と世界の料理界とのコ-ポレーションの促進や、日本食の普及を行う人材育成等を通じ、日本食材の活用を推進(Made FROM Japan)する。

 2.ビジネス環境の整備、人材育成、知的財産の侵害対策、出資による支援等を通じて、日本の「食文化・食産業」を海外展開(Made BY Japan)する。

 3.国別・品目別輸出戦略の策定、ビジネス環境の整備、出資による支援等を通じて、日本の農林水産物・食品を日本貿易振興機構(JETRO)等とも連携を深めつつ、輸出(Made IN Japan)を一体的に推進する。

 4.食がテーマの[2015年ミラノ酷使博覧会]等への出展を通じ、我が国農林水産業・食関連産業の強みや日本食・食文化の魅力を発信する。上記の食産業のグローバル展開の実現に向け、官民共同による意見交換の場の設置、専門知識や経験を持つ人材を確保・活用する仕組みの構築、フードシステム全体の海外展開を図る取り組みを来年度から実施する。