第291回(6月1日)安倍政権の安全保障政策(6)改定急ぐ防衛大綱
 防衛省の「防衛力のあり方検討委員会」は年内に改定する防衛大綱(長期的な防衛力整備指針)の中間案を今月末に取りまとめる。これに呼応し自民党は5月17日、安全保障調査会と国防部会の合同会議を開き、新「防衛計画の大綱」に向けた提言の骨子案をまとめた。同案は尖閣諸島周辺の侵犯など中国の海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発を踏まえ、①集団的自衛権の行使②敵基地攻撃能力の保有③島嶼防衛に海兵隊的な機能整備④現在の「動的防衛力」構想に機動的運用の考え方を加えた「動的機動的防衛力」構想の推進⑤「強靭な防衛力」や首相が施政方針演説で唱えた「国土・国民を断固守る骨太の防衛戦略」を合わせた防衛大綱――など憲法9条の改正も見据えた提言案となっている。防衛省は5月13日、国籍不明の潜水艦が12日深夜、沖縄県久米島南方海域の日本の接続水域内を、潜ったまま航行したと発表。小野寺防衛相は同日、潜水艦が領域侵入した場合に備え海上自衛隊による海上警備行動の発令を検討していたことを記者団に語った。北東アジアの安保環境は険悪化するばかり。防衛副大臣経験者として新防衛大綱作りに協力している。

NSC設置や敵基地攻撃能力確保
 党合同会議の提言では、尖閣諸島を巡る日中の対立や北朝鮮の挑発的言動を踏まえ、防衛力の強さ・柔軟性・持続性を表す効率的な部隊運用を重視した考え方を示している。自主憲法制定による国防軍設置や集団的自衛権行使の容認、同行使の手続きを定める国家安全保障基本法の制定、日本版NSC(国家安全保障会議)の設立にも言及した。日米安保体制に関する部分では、日米の適切な役割分担の下での策源地(敵基地)攻撃能力の確保を挙げている。北朝鮮情勢の緊迫化に対処し、核・弾道ミサイル攻撃への対応能力を強化するため、「核抑止戦略の調査研究」も取り上げ、テロやゲリラ・コマンド(不正規兵・特殊部隊)に対応するため、自衛隊が原発を警備・防御することも盛り込んだ。政府は5月9日、日本版の「国家安全保障会議(NSC)の創設に関する有識者会議」を開き法律の原案を示した。6月7日に閣議決定し国会に提出する。NSCは外交・安全保障政策の「司令塔」で、米国のNSC を参考にして、首相を議長に官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」のもとに専従の事務局長を置く予定で、トップは国会議員の首相補佐官を当てる方針だ。事務局体制は外務、防衛両省など関係省庁との兼務を含め数十人規模になる見通しである。

島嶼防衛で海兵隊的な機能保持
 5月8日の参院予算委で、新党改革の舛添要一代表が防衛大綱の見直しについて質したのに対し、首相は「中国が防衛費、特に海洋戦力を増やしているところに着目しなければいけない」と述べ、ミサイル攻撃への対応については「盾は自衛隊、矛は米軍だが、抑止力として十分なのか」と指摘。自衛隊の敵基地攻撃能力の保有に関しては、「抑止力を効かせるにはどうすべきか。議論はしっかりしていく必要がある」と語った。特に尖閣諸島を含む南西諸島防衛を念頭に、「島嶼防衛で、海兵隊的な機能を備える必要性を議論しなければいけない」と述べ、上陸作戦を担う海兵隊の機能を自衛隊に持たせることを検討する考えを示した。終戦直後の占領下にマッカーサー司令部が押し付けた現行憲法の第9条は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、【国権の発動たる戦争】と、武力による威嚇又は武力の行使は【国際紛争を解決する手段】としては、永久にこれを放棄する。2【前項の目的を達するため】陸海空軍その他の【戦力】は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」――と規定している。自民党内は全面改憲の旧保守的なタカ派、平和憲法の精神を尊重する護憲的なリベラル派と幅広い層がある。だがカッコ内の平和条項のように交戦権、戦力まで否定していては自衛隊が「日陰者扱い」にされるとして、自主憲法制定、基本的人権などの見直しでは一致。改憲を結党以来の党是としてきた。

中国潜水艦に海上警備行動検討
 北朝鮮は中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射態勢は一応撤収したが、飯島勲内閣官房参与が訪朝から帰国した18日以降3日間連続して日本海で短距離ミサイルの発射実験をした。4月末にワシントンで開いた日米防衛相会談で、小野寺五典防衛相は「尖閣諸島は日本固有の領土であり、断固守り抜く」と表明したうえ、安保条約の適用対象であることを重ねて確認。北朝鮮の弾道ミサイル発射など挑発行動にも警戒を続けることで一致した。このほか、①日米外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を年内に開催②沖縄での米軍再編は普天間移設を含め推進③今夏以降にオスプレイ12機を普天間に追加配備――でも合意している。海上警備行動は、「防衛相は海上での人命・財産の保護、治安維持のため、首相の承認を得て、自衛隊の部隊に海上で必要な行動(正当防衛や緊急避難などの武器使用)を命じることが出来る」と自衛隊法に定めている。政府関係者によると、中国海軍所属の潜水艦の可能性が高いと見られる。また小野寺氏が不審潜水艦に対し検討した海上警備行動は2004年11月、中国の潜水艦が沖縄県先島諸島周辺の領海を潜航した際に発令された。今回は領海に入ったわけではないが、中国の出方を牽制する狙いから、警備行動の発令が検討された。このように北東アジアはますます“波高し”で、早急に安全保障体制を固めねばならない。

自民党の安全保障調査会・国防部会がまとめた提言案の要旨は次の通り。

【基本的安全保障政策】
*自主憲法制定による9条改正(集団的自衛権)、国防軍設置*国家安全保障基本法制定による安保政策の総合的推進(安保基本計画の作成、文民統制、防衛産業の保持育成、武器輸出)*日本版NSCによる安保基本計画策定、首相官邸の機能強化・軍事専門家配置*政府の情報集約体制の強化、秘密保護法制定、情報収集衛星の能力向上

【防衛大綱の基本的考え方】動的・機動的防衛力、強靭な防衛力、国土国民を守る骨太の防衛戦略などを検討【国民を守り抜く態勢】*隙間の無い事態対応(警察・海保との連携強化、領域警備法の検討、マイナー自衛権の検討)*統合運用、警戒監視・情報収集機能、島嶼防衛(海兵隊的機能の整備)、輸送能力(民間能力の活用)、核・弾道ミサイル攻撃への対応能力(核防止戦略の調査研究)の強化

【日米安保体制】*集団的自衛権の行使検討加速化、ガイドライン見直し、適切な役割分担の下での策源地(敵基地)攻撃能力保有、在沖縄米軍基地の整理・統合・縮小推進

【国際環境の安定化】*豪州、韓国、インド、ASEAN(東南ア諸国連合)などと戦略的安保協力*中国と安保関係促進、海上連絡メカニズム構築*PKOなど国際平和協力のための一般法制定

【大幅な防衛力拡充】*自衛隊
の人員・装備・予算の大幅な拡充*中長期的な財源確保             (完)