第288回(4月16日)安倍政権の安全保障政策(下)海保巡視船補強
 中国は3月5日、国会に相当する全国人民代表大会を開き、首相として最後の政府活動報告を行った温家宝前首相は「国防と軍隊の現代化促進を加速する。強固な国防と強大な軍隊を打ち立て、国家の主権・安全・領土を断固として守る」と訴えた。全人代は17日に閉幕し習近平国家主席と李克強首相の新体制が発足、習氏は重要演説で「軍は断固として国の主権、発展の利益を守らなければならない」と述べ、軍の強化を訴えた。13年度の国防予算案は前年実績比10・7%増の7406億元(約11兆1千億円)に上り、3年連続2桁の伸び率である。国防予算の規模はこの10年で約倍に急増し米国に次ぐ世界第2位。日本の防衛予算は07年に中国に抜かれており、今回の中国の国防予算案は13年度の日本防衛予算約4兆7500億円の2倍以上になった。これには2月末に山東省青島に配備された中国初の空母「遼寧」の改修費や新建造中の国産空母の建造費、新型戦闘機の開発費用は含まれていないとされ、実際の国防予算は公表額の1・7~2倍以上とも言われている。中国は尖閣周辺などの海洋利益を取り込むため東シナ海や南シナ海での領有権を主張している。

露大統領は会談で尖閣に触れず
 習国家主席は就任後の初外遊にロシアを選び、プーチン大統領との中露首脳会談で両国間の「戦略的協力」関係の発展に関する共同声明を出した。声明はこれまで通り主権や領土保全などの「革新的利益」で互いの国を支持することを謳い、ロシアから中国への石油供給倍増など多くの経済協力案件でも合意した。だが、習主席が尖閣諸島問題でロシアの支持を会談の課題としたのに、プーチン大統領は中国の軍事費増大を警戒してか、共同会見では領土問題に触れなかった。中国漁船衝突事件の直後に胡錦濤前主席とメドベージェフ前大統領が出した2年半前の共同声明には、尖閣での中国寄りを意味する「第2次大戦の成果と国際秩序を守る」との表現があり、会談後にメ大統領は初めて北方領土を訪問するなど日本を刺激した。ところが、プーチン氏は大統領に復帰した後、むしろ北方領土問題の解決に前向きだ。極東とシベリアの開発で日本の投資や技術の引き入れと領土問題を取引しようとしている。これには米国のシェールガス革命で、欧州連合(EU)への輸出が減少した天然ガスを、日中韓など北東アジアに売り込む必要が出てきたなどの理由からだ。

海保巡視船に退役海自艦の転用
 しかし、前回のHPに載せたように、フランスの防衛産業が中国に最新鋭のヘリコプター着陸装置を売却。日本政府は18日、同装置が沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に侵入する中国公船に装備されると見て、仏政府に懸念を表明した。沖縄県尖閣諸島周辺では昨年来、中国の漁業監視船が連日、日本領海の侵入を繰り返している。1月30日には中国フリゲート艦が海自護衛艦に対し射撃用火器管制レーダーを照射(ロックオン)し、あわや軍事衝突の危機を招いた。今も一触即発の緊張が続いている。警備に当たる海上保安庁は、海上自衛隊から退役する護衛艦を譲り受けて巡視船に転用することを検討中だ。首相も政権交代前の昨年11月、自民党総裁として転用を提案し、大田昭宏国土交通相も同意しているという。海保の技術担当者は1月から神奈川の海自横須賀基地を視察し、転用可能な艦船の情報を収集している。転用候補に挙がっているのは来年までに退役する海自護衛艦の4隻で、満載排水量約4千トンの「はつゆき」型が候補だ。この4隻は就航から30年近く経っており、通常はスクラップにされるか、訓練でミサイルや魚雷の標的として沈められる骨董品でもあった。だが、護衛艦の転用は、操船技術の違いなど解決すべき課題も多い。

12隻投入計画だが新造に3年も
 政府が尖閣諸島を国有化した昨年9月以降、中国公船の領海進入が始まり、領空侵犯も1回あったが、海保は全国の巡視船を沖縄県の第11管区海上保安本部に集め、領海進入に対処している。1千トン以上の巡視船は7隻で、15年度末までに尖閣専従チームを立ち上げ、新造・改修した大型巡視船12隻を順次投入する計画だが、新造には通常3年かかる。巡視船派遣の長期化で2013年度の観閲式は中止するほど監視体制は厳しくなっている。そこで、退役護衛艦の転用を検討しているわけだ。軍事衝突を想定すれば装備の現状維持がふさわしいかも知れないが、護衛艦を転用する場合は不要な魚雷、ミサイルの発射装置などは外さなければならない。また、エンジン構造が違うため、扱える乗組員を海自から移籍させるか、海保の職員が訓練を受ける必要がある。海保では3千~4千トン級の巡視船の運航に1隻で40人程度必要だが、操縦技術とともに乗組員を自前で確保できるかどうかが大きな課題だ。尖閣諸島と海保職員の安全を守るためにも、巡視船の新造は緊急課題だが、それが間に合わないなら、一刻も早く退役護衛艦の利・活用を急ぐことが望まれる。 (以下次回)

注=安倍政権の安保政策連載は沖縄の米軍基地返還計画確定や北朝鮮の「核攻撃作戦」対米通告など新たな局面が生じたため上・中・下3回でなく4・5回を加え5回続きとします。