第286回(3月16日)安倍政権の安全保障政策(上)日本版NSC設置
 安倍首相は施政方針演説の冒頭、「強い日本を創る」と述べ、外交・安全保障の強化を訴え、代表質問でも「国民の生命・財産と領土・領海・領空を断固守り抜く」決意を表明した。既に政策面では①米国NSCの日本版である「国家安全保障会議」の設置②武器輸出3原則の緩和③海外邦人の陸上輸送を可能とする自衛隊法改正――などを相次ぎ打ち出した。中国軍艦の海自護衛艦に対する射撃管制レーダー照射に見られる中国の海洋進出と国防費11兆円の増加、北朝鮮の3度目の核実験強行、アルジェリアの人質事件など、わが国を取り巻く安保環境を見れば当然の措置。野党は「タカ派色むき出し政権」と警戒しているが、国土防衛に命を張っている自衛官や海保職員にとっては心強い。選挙区・佐世保に基地を抱え、防衛省の政務官、副大臣などを経験した私としてもこれらは極めて重要な施策。党側から強く支援する考えだ。第1回はNSC問題を取り上げ、次回は武器輸出3原則の緩和を説明したい。

制裁決議に「核の先制攻撃」主張
 「ワシントンを火の海にする」――北朝鮮の国営メディアは国連の制裁決議に激しく抗議した。国連安保理事会が7日、3度目の核実験を強行した北朝鮮に対し、金融制裁や貨物検査を加盟国に義務付けるなど、従来より踏み込んだ制裁決議をし、中国も賛成したからだ。北の外務省報道官は直ちに声明を発表、その中で制裁決議や11日からの米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」を強く批判したうえ、「米国が核戦争の導火線に火をつけようとする以上、核の先制攻撃の権利を行使するだろう」と警告。朝鮮戦争の休戦協定を「完全白紙化」、板門店代表部の活動も「全面中止」するとし、「より強力な2次、3次の対応措置をさらに早める」と宣戦布告一歩前の脅しをかけた。「瀬戸際外交極まれり」だが、核弾頭が小型化され、ミサイルの搭載が可能になれば、事実上の長距離弾道ミサイルの実験成功で米本土に届く可能性がある。日本の原発の多くが北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」の射程内に入っているが、北の労働党幹部は「日本の原発をミサイル攻撃すれば広島原発の320倍の爆発が起こる」と威迫しているという。北東アジアの脅威は一層高まっている。

中国軍艦・人質事件で議論再開
 安倍政権は外交・安全保障の官邸機能を強化する「国家安全保障会議」を設置するため、今国会に設置法案の提出を目指している。これは米国NSCの日本版で、首相は第1次内閣時代の2006年11月にも「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」を設け、NSC創設を検討。関連法案の提出までこぎつけたが、後継の福田内閣は構想を白紙に戻し、法案は廃案になった。しかし、尖閣諸島近海での中国フリゲート艦が海自護衛艦に対し射撃用火器管制レーダー照射する事件を起こしたり、10人の犠牲を出したアルジェリア人質事件が発生し、官邸の情報収集、分析能力が問題視され、省庁間の調整力を高めることが望まれている。首相は昨年末の就任会見で「司令塔となる国家安全保障会議の設置など、内閣を挙げて外交・安保体制の強化に取り組む」とNSCの設置に再び意欲を示した。政府は2月15日、首相官邸で「国家安全保障会議の創設に関する有識者会議」(議長=安倍首相)の初会合を開きNSC設置に向けた議論を再開した。

月1,2回議論し法案再提出
メンバーには竹内正太郎・内閣官房参与(元外務事務次官)、中西輝政・京大名誉教授ら外交の知恵袋が多く、「NSCには専属スタッフが必要」「制度論よりも、どのように機能させるかの観点から議論するべきだ」などの意見が出された。同会議は菅義偉官房長官や磯崎陽輔首相補佐官とともに月1,2回のペースで議論し、法案をまとめる。「安全保障会議」は現在もあり、首相を含む9閣僚で、国防に関する重要事項などを審議している。この会議をNSCに改組しようと、第1次安倍内閣は6年前、9閣僚の会合とは別に、首相、外相、防衛相、官房長官の4人で頻繁に議論を重ね、外交と安全保障に一体的に取り組むことを主眼とした法案を提出した。だが、閣僚が話し合う程度なら何もわざわざ法案を作り、新組織を設ける必要があるのかと疑念が出され、廃案になった。ところが、中国軍艦の火器管制レーダー照射事件では照射データの分析に手間取って中国への抗議のタイミングが遅れ、アルジェリア人質事件では情報収集がままならず、対応が遅れたと野党に批判された。

情報収集・分析の官邸司令塔
人質事件検証委員会(委員長=菅官房長官)が先月末に出した報告書では①首相官邸に一元的に情報が集約される必要がある②外務省に緊急展開チームを創設し警察庁に国際テロリズム緊急展開班を準備③防衛駐在官の体制強化④政府専用機派遣の再検討――などマニュアルの策定と、在留邦人・進出企業の安全確保策作りを提言している。首相は施政方針演説で、「我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」とし、「外交・安保の司令塔となる『国家安全保障会議』設置の検討を本格化し、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』で、21世紀の国際情勢に相応しい立ち位置を追及していく」とNSC早期設置の意向を表明した。首相は有識者会議でも、「各部署が取った情報を集めて分析し、首相や官房長官に上げる機関が無い。横串をかけた分析能力が劣っているのではないか」と情報の重要性を強調、外務・防衛両省、警察庁などが集めた情報を集約し、分析を加えるためにNSCを活用しようとしている。また、自公両党は8日、「人質事件で車両輸送のニーズが発生することは否定できない」とし、航空機と船舶に限られている邦人輸送を陸上でも認めるべきだと政府に要請した。安倍内閣は自衛隊法改正案の今国会提出を目指す。
                       (以下次号)