第283回(2月1日)政調副会長の役割(2)マグロ・鰻の養殖も喫緊課題
 東京・築地市場の初競りで新春の5日、1本釣りの青森・大間産クロマグロ(222キロ)に1億5540万円の史上最高値がつき,話題を呼んだ。1キロ当たり70万円にも相当し1匹のマグロが1戸住宅より高いと言うから恐れ入る。香港ですしチェーンを展開する実業家と競り合って昨年の3倍の価格で競り落としたのは昨年と同じ経営者で、全国に50店舗を展開する築地の「すしざんまい」。競りの費用に宣伝広告費を充てる狙いもあってか、1貫5万円もする上トロを店では400円余でサービスしたという。大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)は、これまで規制していた2013年の東大西洋クロマグロの漁獲量の拡大を決め、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPPC)も2030年までにクロマグロが3・6倍に増えると予測した。だが、日中の業者が競り合ってマグロ価格を高騰させれば再び漁獲規制を強めることも予想される。高値の競りが続くと捕獲稚魚の価格も釣り上がる。マグロ・鰻を産卵から育てる養殖は緒についたばかり。早急に技術開発を進めなければならない。

史上初の1キロ70万円で落札
 朝日によるとこうだ。築地魚河岸の初競りに今年は約650本のマグロが並んだが、最高級の「青森・大間産」は不漁で4本のみ。唯一の200キロ台の大物に視線が集まった。競りに参加したのは、香港を中心に日本でも5店舗を出す中国系の「板前寿司ジャパン」(中村桂社長)の依頼を受けた築地の仲卸し「やま幸」の山口幸隆社長と「すしざんまい」運営会者の木村清社長の2人。この6年間、2つのすしチェーンは本(クロ)マグロを競り合い、史上最高値を更新し続け、すしざんまいが昨年に次ぎ2連勝。競りは1キロ当たり5万円から始まり、キロ55万円が上限ラインと見られたが、史上初のキロ70万円で落札した。板前寿司は日本出店を機に08年から初競りに 参加、翌年からは佐藤栄作元首相がよく通った高級すし店「銀座 久兵衛」と共同購入する形で、11年まで4年連続で最高値を勝ち取ってきており、「最高値を取れば被災地の宮城県で振舞う」予定だったが、「すしざんまいは青天井」と見て降りた。中村社長は「中国対日本の構図が作られ,苦労した」と悔しがった。

最高級松坂牛の3倍超える高値
 朝日によれば「最高級の松坂牛でも、地元の品評会でついた過去最高値は02年の1頭5千万円(678キロ)」と言うが、その3倍を超える大間マグロを吊り上げたのは、大間町の3代目漁師で第38美吉丸の竹内大輔船長。父親の薫さんも01年、当時の最高値2020万円を獲得している。この日落札した他の大間産マグロはキロ2・8~4・3万円だったが、その20倍の値がついたマグロを釣った漁師の懐にはいくら入るのか。朝日は「落札額に消費税5%が上乗せされ、そこから競りを担当した荷受会社と出荷した地元漁協への手数料それぞれ5・5%(約900万円)が引かれ約1億4500万円になる」と計算し、あまりの高値に一攫千金を狙って危険な漁に出る恐れもあると警告。やま幸の山口社長は「初競りに出そうと漁師が無理をして海に出るようになると危険。引き際だと思う」と自戒を込めて降りたと言い、学者も「ご祝儀としても脅威の値段。希少資源の認識が広がる」と懸念。マグロの資源管理に携わる「責任あるまぐろ漁業推進機構」の原田雄一郎専務は「海外でも扇情的に報道され、高値を追って最後の1匹まで取り尽くすと誤解されている」と警鐘を鳴らす。

大西洋、太平洋とも資源量増加
 ICCATの漁獲量拡大決定を受けて、世界最大の消費国である日本の漁業関係者は「資源を適切に管理すれば、他の地域でも漁獲量を拡大できる」と期待している。ICCATは07年以降、東大西洋と地中海での乱獲に対処し漁獲枠を大幅に削減、10年のワシントン条約締約国会議で、大西洋クロマグロの商業目的の取引を全面禁止する案も出すほどだったが、今回は科学的に資源量の増加が確認されたわけだ。国内消費の3割を占める大西洋クロマグロは、ICCATが漁獲規制で資源量が増加に転じたとして、13年の漁獲量を拡大することに決め、確実な資源評価の手法を15年に導入する方針である。一方、読売によると、WCPPCの科学委員会は8日、日本近海を含む太平洋産のクロマグロが、2030年までに最大で10年の 3・6倍に増える可能性があるとの予測を発表した。日本で消費されるクロマグロのうち太平洋産は約7割だが、資源量の増加は将来的な価格下落に繋がる可能性があり、ICCATの漁獲量拡大決定とともに朗報だった。WCPPCは現在、太平洋クロマグロの稚魚(0~3歳)の漁獲量を、02~04年平均の約6000トンから減らすなどの規制をしている。だが、予測では同程度の規制を今後も続ければ、10年には約2万 3000トンだったクロマグロが、30年までに 8万3000トン規模に増える可能性があるという。WCPPCは予測を基に14年以降の西太平洋産クロマグロの漁獲規制の議論を9月から始めるそうだ。

長崎産養殖は10万円の低価格
 しかし、ICCATが折角漁獲量を拡大しても、築地魚河岸の競りで途方も無く価格を高騰させると、世界のマグロ漁業者が希少価値を理由に、さらに稚魚の価格を吊り上げる。我が長崎県・対馬の浅茅湾では捕獲稚魚を育てる養殖が盛んで島の基幹産業になった。これも朝日の正月3日の特集によると、浅茅湾内には200基の生簀があり、沖合で捕ってきた30センチ前後の稚魚を3年かけて大きくする。直径20メートル、深さ10メートルの生簀には数百匹のマグロが反時計回りにぐるぐる泳いでいる。針にかけたサバに食いついた瞬間、電気が流れ体長1メートル余、30~40キロ台のマグロが暴れもせずに甲板に引き揚げられる。頭に針を打ち、脊髄に工作して神経を破壊、腸も引き出して氷水を張ったコンテナに入れ、主として関東方面に空輸しデパートや量販店に出荷、1匹10数万円の低価格で売られている。稚魚は日本の排他的経済水域ぎりぎりの朝鮮半島が見える海域で、漁師が真夜中から午後まで粘って平均25匹を釣るが、取引価格は1匹4500円で11万円の稼ぎだ。

マグロ・鰻の完全養殖技術確立
 2011年に国内で流通した本マグロは4万トンで、そのうち養殖物は6割を占める。それだけに養殖向けの稚魚の捕りすぎを批判する漁協関係者は多く、水産庁は稚魚の乱獲を防ぐため、今年の養殖免許を切り替えて、生簀の拡大を認めない方針だ。また、マグロの回遊量は減る一方。大間漁協の漁獲高は5年ほど前の半分と言う。初競りのバカ騒ぎで稚魚の規制が強まったり、価格が高騰すれば養殖業も打撃を受ける。近畿大学や一部企業が長崎、鹿児島県などで産卵から育てる完全養殖を始めているが、成功例は未だ少なく事業は緒に就いたばかり。鰻も日本から約2500キロ南のマリアナ海溝の水深約200メートル付近で産卵し、孵化すると海中を雪のように沈んでいくプランクトンの死骸(マリンスノー)などの有機物を食べてシラスウナギに成長。黒潮に乗って北上することが突き止められている。だが、台湾、中国などの稚魚乱獲によって近年不漁が続き、土用の丑の日は品薄で庶民にとっては高嶺の花。ウナギも産卵からの完全養殖に一応成功しているが、産卵技術は未確定。マグロ、ウナギの資源が枯渇しないよう早急な完全養殖技術の確立を推進したい。