第282回(1月16日)政調副会長の役割(1)農協の意向TPP反映
  安倍政権の党役員人事で、私は政務調査会副会長に就任、農林水産政策を総括的に担当することになった。農水の最大課題は環太平洋経済提携協定(TPP)への参加問題。安倍首相は2月に訪米し、オバマ大統領との日米首脳会談で、真っ先に確認を求められるのが日本の参加意思だ。次の焦点は、民主党政権が導入した戸別所得補償の見直し。自民党はバラマキ政策を改め、経営規模拡大のため農地を農地として維持することに対価を支払う「日本型直接支払い方式」を法制化する。水産関係では、東日本大震災後、未だに66%しか復旧していない水産加工業のほか、マグロ・うなぎの養殖技術開発、調査捕鯨に対する反捕鯨団体の執拗な妨害――など難問が山積している。私はこれまで、諫早干拓など沿岸漁業振興、水産物の輸出などに取り組んできたが、農協(JA)や水産界の意向を十分に聴き、今後は農林漁業に加工と輸出を絡めた新産業の育成に努力したいと考えている。

透明性高い貿易ルールを作る場
 オバマ米大統領は日米関係の修復を唱える安倍政権が復権したことで、集団的自衛権行使に向けた憲法解釈の見直し、防衛力の増強など安全保障や経済面での日米同盟強化に期待をかけている。とりわけ、中国をけん制する意味で、アジア太平洋地域での透明性の高い貿易ルールを作る場としてTPPへの日本参加を強く望んでいる。米、豪など11カ国が参加するTPP交渉の第15回会合は昨年12月3日、ニュージーランドで開かれ、新たにメキシコ、カナダも参加して今年中(13年)の基本合意を目指している。米・加・メキシコは既に北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国であり、TPPにこの3カ国が揃って合流することで重要性がさらに高まる。日本の参加が遅れれば、ルール作りから外され不利になる。欧州連合(EU)や米国との自由貿易協定(ETA)を発行させた韓国と比べ、日本は貿易自由化への取り組みが遅れている。野田政権は、小沢一郎氏のグループがTPP、原発政策に反対して集団離党したため、「アジア太平洋自由貿易圏の実現を目指し、TPP、日中韓FTA、アジア16カ国の包括的経済連携(RCEP)を同時並行的に進め政府が判断する」とお題目を唱えただけで、参加についての言及は避けてきた。他の野党に配慮したからだ。

「聖域なき関税撤廃」には反対
 小沢氏が率いる生活の党(総選挙を日本未来の党で戦った後に分裂)は「TPPは単なる自由貿易協定ではない。食品の安全基準、医療保険など全てを米国のルールに合わせようというものだ」と共産、社民など他の野党とともに強く反対、農協も総選挙で賛否いずれかの踏み絵を迫った。自民党は09年の衆院選でEPAやFTA交渉について「積極的に行う」としていたが、総選挙では農業団体に配慮し、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」と慎重論を唱え、現在も半年先の参院選を考慮し、「国益に即して、メリットの大きなものは積極的に推進する」と条件付賛成の態度だ。しかし、米倉弘昌経団連会長は朝日のインタビューで、「日本がリーダーシップを取るには、早急に交渉入りしないといけない」と警告。「EUとのEPA、RCEPも早く実現すべきだ」と民間外交に力を注ぐ意向を示した。輸出する自動車や薄型テレビなどに高関税が掛かり輸出不振に陥っている財界は、貿易自由化の取り組みが遅れると関税撤廃が進んだ各国に対し、日本企業が不利な競争環境に置かれると懸念し、TPP参加にもろ手を挙げて賛成しているわけだ。

体質改善、交渉決裂なら脱退可
 みんなの党は「日本開国宣言を掲げてTPPの速やかな交渉参加」、日本維新の会も「交渉に参加するが、国益に反する場合は反対」とし、橋下徹代表代行は「交渉すら参加しないと、ルールも作れない。国際社会の舞台にまず上がるべき」と財界同様に前向きだ。確かに参加が遅れるとルール作りで蚊帳の外に置かれ、発言力を失う。しかし、関税の引き下げで外国から安い農産物が輸入されると農家の被害は極めて大きい。それを防止するには、①TPP設立の経過など各国の情報を的確に取り寄せ、参加に慎重な判断を下す②冒頭から参加して国益を主張し、交渉が決裂すれば脱退する③国際競争に立ち向かえるよう日本農業の体質を改善する――などの選択肢について十分に検討を加え、これをもとに、まずは太平洋を取り巻く国々が透明性の高い貿易ルールを作ることが先決だ。朝日は大晦日の社説で、「限られた予算を有効に使い、経営規模を大きくし、競争力を高めていく――。焦点は民主党政権が導入した戸別所得補償の見直しだ」と指摘、「とくに米作について一定の条件を満たせば、零細・兼業を含む全ての農家を支払い対象とする仕組み」が問題だと取り上げ、バラマキ政策を批判した。確かに、民主党の戸別所得補償は国が一律に補助金を交付する制度。コメ農家に10アール当たり1万5000円が一律に交付される。

バラマキの戸別所得補償見直し
 さらに、過去3年間のコメの平均価格を販売価格が下回ると、その差額分の補助金も出るというバラマキ策だ。朝日は自公政権が07年、全ての農家へ品目別に支払ってきた補助金を改め、一戸あたり4ヘクタール以上(北海道は10ヘクタール以上)の農家に限って所得補償する制度を導入したことについて、「農業の大規模化を目指し『戦後農政の大転換』と言われた改革だ」と持ち上げた。しかし、「農業関係者の反発に遭い、同年の参院選で敗北する一因になった」とも選挙敗北の原因を説明している。自民党は今回の総選挙公約に、①大幅に削減された農業予算の復活②農地を農地として維持することに対価を支払う「日本型直接支払い方式」を法制化③コメに加えて麦、大豆、畜産、果樹など多様な担い手の経営全体を支える――を打ち出した。安倍首相は「食料自給率を上げていくには得意な産品をたくさん作り、輸出を増やしていく」と「攻めの農業」を目指している。とはいえ攻めの農業は容易ではない。農業改革がTPP参加の前提条件であるとしても、零細・兼業農家を大規模・集約化へ向かわせるのは困難が伴う。自民党内にTPP反対の意見が多いのはこのためだ。高市早苗政調会長が6日、「交渉に参加しながら条件が合わなかったら脱退する選択肢もゼロでない」と交渉参加を容認するかの発言をしたのに対し、8日の党農林部会では「看過できない」との反発意見が出た。石破茂幹事長は総選挙公約に掲げた通り慎重で、「参加国の交渉状況など精緻な情報を集めて態度を決めたい」と国益第一に対処する方針である。私もJAの意向も十分に汲み取り、具体策を確立したいと考えている。