北村の政治活動

 (平成14年3月1日) おいしい水推進議連 清い水の文化と民族

 衆院議員が所属する議員連盟は多岐にわたる。国連加盟主要国との友好議連は数え切れないが、環境保全、捕鯨など各省庁関連の各種団体からモータースポーツ、鍼灸マッサージ、ラグビー、芸能、釣魚、囲碁まで国民各層の生活・行動を支援する議連は無数にある。最近は野党の女性議員の呼びかけで超党派の「禁煙推進議連」結成の動きまで出てきた。自民党議員は所属する党政調の各部会に出席する合間に色々な議連に顔を出す。これも重要な政治活動だ。私も約40の友好国議連を含め約140の議連に加盟している。今回は一風変わった自民党の“おいしい水”推進議連を紹介しよう。会長は環境省昇格の旗振り役を演じた橋本龍太郎元首相、副会長は斉藤十朗前参院議長と古賀誠前幹事長と大物揃い。衆院47、参院12の議員がメンバーである。

 初会合の勉強会

 おいしい水推進議連は2月12日、党本部で初会合を兼ねた勉強会を開き、橋本会長挨拶、議連役員を発表の後、水の権威・小島貞夫農学博士の講演を聞いた。幹事長は鴨下一郎氏、事務局長は同期の上川陽子氏、私も幹事の一員に加えられた。小島博士は東京高等師範(現筑波大)卒後、国立公衆衛生院の厚生技官、東京都水道局長沢浄水場長、玉川浄水管理事務所長を経て、昭和47年から(株)日水コン取締役・常務・専務・顧問を歴任、北海道大、東京工業大、熊本大などの非常勤講師も務めている。水関係の著書は多数ある。

 汚染が進む河川・湖沼

 私の地元長崎は、雲仙地方で豊富な湧水があり、水のおいしさでは定評があった。それが井戸の乱掘と普賢岳の噴火などで湧水が枯れはじめ、昔の良水はなくなった。各地方の湧水地も同じ運命にある。日本列島全体をみても水源の汚染、湖沼の富栄養化が進んでいるうえ、産業廃水などによる河川の汚濁でカビ臭く、おいしい水が消えてしまった。環境、厚生行政を見守る立場からは放置できない事態だ。昨年夏にも水道法が改正された際、地方自治体の高度浄水処理に伴う問題点をこの欄で取り上げたが、今回は「おいしい水の探求」と題した小島博士の講演が大変面白く、有益だったので皆さんに概略を紹介したい。
 小島博士の講演要旨は次の通り。

 1. 飲み水に必要な条件

 「水は無味無臭」という方は山登りの後で飲む谷川の水や運動後の甘露のような井戸水の味を思い出すがよい。飲み水は純粋な水(H2O)ではない。空から降る雨は途中でガスや浮遊物を取り込み、地表では土壌や岩石に触れて濾過され、土壌微生物によって浄化されたり、炭酸ガスや各種ミネラルを溶かし込む。これらの成分が水の味を決める大事な要素だ。日本人は自分たちの飲み水が世界一おいしいことを知らなかった。なぜなら日本中の水がおいしかったから、当たり前と思い気づかなかっただけ。「日本の水が世界一おいしい」とほめたのは、色々な国を巡って散々まずい水を飲んできた外国の船員たちだった。このごろ“おいしい水”が話題になるのは取りも直さず日本の水がまずくなった証拠。つまり、まずい水の出現で初めて“昔の水はおいしかった”ことが分かったことになる。日本で最初にまずい水を作ったのは恥ずかしながらこの私である。

 東京都の水源・多摩川の汚濁は甚だしく、ヨーロッパのライン川やテムズ川を追い越してしまった。私はこの汚れた水を浄化して都民に供給する玉川浄水場の責任者だった。
飲み水に必要な条件は1.安全<水質基準に適合>2.清浄<異物がなく見た目にきれい>3.おいしい<生水もお茶も>――の3点である。私は水源を安全第一と考え、各種の薬品を大量に注入して念入りに処理したところ、「まずい、まずい」という苦情の電話が殺到した。そこで「水道水は安全だけではだめ」ということを思い知らされた私は、色々な水を調合して皆に“利き水”をしてもらうことにした。水に含まれるミネラル(蒸発残留物)の硬度(カルシウム、マグネシウム)が味に関係するので、その量を変えたり、炭酸ガスは水にさわやかな味を与えるので、色々な割合で吹き込む。甘党にはちょっぴり砂糖を加え、辛党には塩の隠し味を付け、ぴりっとした味が好きな人にはクエン酸ソーダを調合した。水の温度も大切だと感じ、温めたり冷やしたりして大勢の人に飲んでもらった。その結果、誰もが一致しておいしいと言ったのは、1リットルの水の中でミネラルが100mg、硬度50mg、炭酸20mg を含み、水温15度Cの水だった。砂糖や塩入りをおいしいという者は1人もいなかった。

 このような条件を備えた水は湧き水と、ごく上流の谷川の水、良質の浅井戸である。いずれも雨水が一旦地中に浸透し、数年―数十年後に地上に湧き出すか、汲み上げられた水である。従って、“おいしい水”は最も安全な水であり、安全水を選ぶ能力は人類が数万年かけて獲得した身を守るための本能である。土壌中に浸透した水は、有機物の分解によって生じた炭酸ガスを取り込んだり、粘土鉱物や岩石に触れてミネラルを溶解したりして次第に溶解物質の量を増やす。しかし、何百年、何千年も地下に滞留していた水は酸素も炭酸ガスも消失して新鮮みを失い、ミネラルが大量に溶け込んでまろやかさを失い、ついには鉄、マンガン、硫化水素まで溶け込んで飲料に適さなくなる。一般に中国や欧州大陸の深層地下水がまずいのは地下での滞留時間が長すぎて溶解物(ミネラル)が多すぎるからだろう。この点、日本の地下水は新陳代謝が速いから良い状態だ。

 2. 水道水がまずくなった理由

 水をまずくする成分は@過マンガン酸カリウム消費量A臭気度B残留塩素(カルキ臭)などが挙げられる。中でも水道水がまずくなった最大の原因は、藍藻類や放線菌が出すカビ臭物質(ジオスミンなど)の影響である。かつて琵琶湖や淀川を水源とする京阪地区や霞ヶ浦、印旛沼、江戸川を水源とする首都圏の水道で“まずい、臭い”という評判が立ったのは、河川・湖沼の富栄養化で藍藻類が激しく繁殖、カビ臭を発したからだ。全国の湖沼の40%がこの害を経験している。産業廃水に含まれるフェノールはクロロフェノール臭を、シクロヘキシールアミンは玉ネギ腐敗臭を出す。生活排水からはアンモニアや有機物が加わり、消毒用の塩素と反応して刺激性のあるカルキ臭を発散、水の味を台無しにする。困ったことにカビ臭などは急速濾過法では除去できない。

 戦前はどこの都市でも微生物の浄化作用を応用した緩速濾過法を用いたが、戦後はもっぱら薬品の力で浄化する急速濾過法に変わってしまった。これが水質汚濁と相まって、水をまずくした1つの原因だ。最近はビル、マンションの水道蛇口から赤や白の水が出るとの苦情が多い。これは亜鉛引き鋼管が原因。鉄管を保護する役目の亜鉛は3年くらいで溶けてしまい、鉄管がむき出しになる。亜鉛を含んだ水は白濁し、鉄が溶けると錆びが出て赤水となる。

 3. 安全でおいしい水を造る方法

 河川のアンモニアを消滅させる根本対策としては、下水道の普及と湖水人工循環法(深い湖)、局部遮光法(浅い湖)が有効だ。最も迅速、確実においしい水を造る方法は@生物処理法A活性炭処理法Bオゾン処理法C消石灰防食法――の高度浄水処理法である。ぜひ薦めておきたいのは緩速濾過法を含む生物処理の活用だ。しかし、全部の水道が直ちに高度浄水処理を行うことは時間的にも経済的にも不可能だ。そこで、各家庭までは現在通り水道水を供給し、ここで分岐した一部の水に高性能浄水器による超高度処理を行い、飲料専用水を造る方式を提案したい。この浄水器はウイルスや寄生虫はもとより農薬やジオスミンなどの発臭物質までことごとく漉し取り、ミネラルは温存してしまう性能を備えており、既に市販されている。水道局は浄水器の取り付けから管理一切の責任を負えば、全市民が等しくおいしい安全な水を飲むことが出来よう。
日本人は清くおいしい水と共に生活し、その上に種々の文化を築いてきた民族だ。我々にとっておいしい水は、必要不可欠であって決して贅沢な望みではないと信ずる。