第277回(10月16日)エネルギー戦略が争点(上)料金転嫁猛反発
 間もなく召集される臨時国会での与野党攻防は、特例公債法案と「違憲状態」判決の衆院選挙制度改革法案の成否が焦点だが、エネルギー戦略も大きな争点に浮上してきた。政府は将来の原発依存比率を「0%、15%、20~25%」と3つの選択肢を示していたが、民主党内の反発が強いため、1ヶ月前に「30年代原発ゼロ」の戦略目標に切り替えた。これには太陽光など再生可能エネルギーを推進するソフトバンクの孫正義社長らは喜んだが、米主導の核管理体制が揺らぐ米国や日本が核燃料の再処理を委託している英国・フランスなどは原発ゼロに大きな懸念を抱いている。化石燃料の輸入増大や再生エネ開発は膨大なコスト高を招く。我が故郷・五島列島でも洋上発電に取り組んでいるが、開発と低コスト化には10年の歳月が必要だ。電力料金に跳ね返れば企業も家庭も大打撃を受ける。経団連など経済3団体は産業空洞化を恐れて猛反対に乗り出した。野田政権は「離党予備軍」の動きを封じようと新エネルギー戦略を発表したが矛盾だらけ。多くの問題点を探ってみた。

離党予備軍恐れ原発ゼロは玉虫色
 先月の「北村からのメッセージ」で述べたように、政府は9月14日、エネルギー・環境会議(議長・古川元久国家戦略相)を開き、「2030年代に原発稼動ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」との目標を掲げたエネルギー戦略を決定した。ところが、枝野幸男経済産業相は戦略決定の翌15日、東日本大震災後に工事を中断している電源開発大間原発(青森県)と中電島根原発3号機(松江市)の建設再開・稼動を事実上容認した。建設再開の原発は50年代まで稼動できることと、「30年代原発ゼロ」の戦略は明らかに矛盾する。核燃料サイクルは「引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組む」とし、関連自治体や電力消費地と協議の場を設置するなど、玉虫色の表現で離党予備軍の行動拡大を防いでいる。これには早速、入閣直前の田中真紀子文科相が「大変な矛盾」と噛み付いた。原発の稼動ゼロを唱えながら、原発存続を前提に核燃料サイクルを維持することに異を唱えたものだ。前原誠司国家戦略相は「いささか乱暴な意見ではないか」と苦言を呈し、田中氏も入閣後は直ちに、「検証しないと軽々に言えない」と慎重発言に転じている。

米主導の核管理体制揺らぐ懸念
 玉虫色方針は原子力協定を結ぶ米国や使用済み核燃料の再処理を委託している英国・フランスなどから「原発ゼロ」への懸念が生じたからだ。原発の国際市場は日米連合、フランス、ロシアの企業が主役だが、「原発ゼロ」では①東芝がかつて斜陽のゼネラル・エレクトロニクス(GE)と合弁会社を作り米国の原子炉メーカーを救っているのに、世界原発市場での日米連合の力が減少する②韓国や中国が液晶・家電、IT産業と同様、日本に蓄積された技術や人材を自国に取り込み、低価格を武器に市場を席巻する③核兵器に転用できるプルトニウムが行き場を失い、米主導の核管理体制が揺らぐ――などが懸念される。心配なのは、電力料金の値上げなど日本経済に与える影響。米エネルギー庁のポネマン副長官は「日本が石油を買い漁れば価格に影響する」と化石燃料市場の逼迫を指摘した。それよりも「原発ゼロ」政策は産業空洞化が懸念され、政府と財界の間に大きな亀裂を生んだ。

LNG6倍、自然エネも料金倍増
 3・11の大震災以降、液化天然ガス(LNG)などの輸入増大で欧米の2~6倍に価格が高騰、全電力の火力発電燃料費は年間3・1兆円にも達する。政府は自然エネルギー開発を促進する法整備をしたが風力、太陽光などの開発には38兆円もかかり、化石燃料の輸入増大と合わせたコスト高は膨大で、全て電力料金に跳ね返り、倍増する料金は企業、家庭を直撃する。11年のLNG 輸入量は前年比12・2%増の7853万トンに増え、輸入額も前年比37・9%多い4兆7871億円に達した。枝野経産相は9月19日、産出国と消費国を集めて都内で開いた初の「LNG産消会議」で「アジアのLNG価格は高い。シェールガス(オイル)の本格生産など大変革の中で、合理性は失われている」とし、輸入価格を需給に連動するよう価格制度の見直しを迫った。だが、産ガス国側は「将来もガスを提供するには安定した投資環境が必要」と述べ、見直しに応ずる気配はなかった。そのシェールオイルも、石油資源開発が3日、秋田県での実証実験で採取に成功、技術向上につながったものの、推定埋蔵量は500万バレルで、日本の石油消費量の1日分程度でしかなかった。

電気・ガス料金転嫁の環境税
 経団連の米倉弘昌会長は7月30日の国家戦略会議で、「0%から25%の3選択肢のどれを取っても『日本再生戦略』の前提とする経済成長率を達成するには電力不足に陥る懸念がある」と訴えたが、政府は聞く耳を貸さず一方的に新エネ戦略を発表した。財界は「エネルギー安全保障を考えると原子力は絶対に必要だ」(長谷川閑史経済同友会代表)、「日本脱出を考える企業が出てくるだろう」(米倉経団連会長)、「到底納得できない。電気料金の上昇をもたらし(産業)空洞化の加速で国力が低下する」(岡村正日商会頭)と口を揃えて反対した。だが、首相は官邸を取り巻くデモの代表と会うなど、人気取り政策を続けており、批判は募る一方だ。10月1日からは、地球温暖化の原因、二酸化炭素(CO2)の排出を減らすため、石油、LNG、石炭などに課税する「地球温暖化対策税(環境税)」が導入された。化石燃料には既に「石油石炭税」が課せられており環境税はそれに上乗せされる。税額は石油の場合、10月から1キロリットル当たり250円、14年4月から500円、16年4月から760円と3段階で引き上げ、完全実施後は年間で約2600円の増税となる。税収は再生可能エネの普及や省エネ対策に充てられるが、環境税は電気・ガス料金に転嫁される。
                  (以下次号)