第276回(10月1日)改正海保庁法など滑り込み成立 低い法案成立率
 ガバナビリティ(統治能力)を喪失した野田首相は、前国会で衆院選公約違反の法案を数多く提出しながら、法案成立率は過去最低に次ぐ低さだった。それにも関わらず、「北村からのメッセージ」で述べた通り、「20年代原発ゼロ」のエネルギー戦略など、矛盾だらけで玉虫色の政策を平然と掲げ、国民を欺いている。全ては総選挙対策だ。3年前の総選挙では出来もしない公約を並べ、自民党から政権を奪取した。政権の詐欺的体質は今も変わりない。今回は通常国会の成績をもとに、野田政権の実態と、問題の多い政策に迫ってみた。

何も決まらない無様な政権露呈
 前通常国会で成立した法案・条約案の成立率は、2010年の54・5%に次ぐ57・5%と過去20年で2番目の低レベル。79日間の大幅延長で、戦後3番目に長い国会だったが、「何も決められない」民主党政権の無様な姿をさらけ出した。野党の審議拒否前に滑り込み成立した主な法律は、8月号で紹介した「大阪都」構想の前提となる大都市地域特別区設置法と改正海上保安庁法・外国船舶航海法ぐらい。海保庁は尖閣諸島など遠方離島での不法行為に対し、施行の25日から警察官を運ばなくとも陸上で捜査、逮捕ができるなど、迅速な対応が可能になった。このほか、改正消費者安全法の成立で、玩具の誤飲など消費者事故の原因を究明する行政機関「消費者安全調査委員会」〈消費者事故調〉が10月1日に発足する。カネミ油症被害者救済法は、認定患者に国から年19万円の「健康調査支援金」と原因企業から年5万円程度の「一時金」が支給されることになった。改正高年齢者雇用安定法は、希望者全員の65歳までの雇用を企業に義務付けた。

原子力規制委の国会承認先送り
 しかし、9月に発足を目指した「原子力規制委員会」委員長の国会承認人事は臨時国会に先送りされた。政府は仕方なく9月11日の閣議で、原子力規制組織の同委員会を発足させる政令を決定。委員長に田中俊一・前内閣府原子力委員長代理、委員に中村佳代子日本アイソトープ協会主査ら4氏を任命、同委は19日に設置された。田中氏は「原子力村」の出身であるとして、民主党内からも反対の声が上がり、国会承認が見送られていた。だが、規制委設置法付則の規定に基づき首相権限で任命したため、次の国会で任命の同意を得る必要があり、政府は「30年原発ゼロ」の戦略とともに、大きな火種を抱え込んだ。政府が14日に決定した革新的エネルギー・環境戦略は、原発に依存しない社会の実現に向け、①原発の40年運転規制を厳格に適用②原子力規制委が安全を確認した原発のみ再稼動③原発の新設・増設は行わない――との原則を示す一方、核燃料サイクルは「引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組む」と事業継続を打ち出した。ところが、翌15日に枝野幸男経済産行相が東日本大震災後に工事を中断した電源開発大間原発(青森県)と中電島根原発3号機(松江市)の建設再開・稼動を事実上容認した。建設再開の原発は50年代まで稼動できることと、「30年代原発ゼロ」の戦略は明らかに矛盾、財界は挙げて猛反発した。

共通番号制、4増4減など流産
 政府は、基礎年金国庫負担分の不足財源を確保するため、12年度と13年度に赤字国債の一種である「つなぎ国債」を発行する規定を特例公債法案に追加することを7月末に閣議決定。当初は基礎年金国庫負担不足分を「年金交付国債」で賄う方針だったが、一時的に年金積立金を取り崩す形であるとして自公両党が批判、3党合意で撤回が決まっていた。つなぎ国債は通常の赤字国債とは別枠であるため、「新規国債発行額44兆円以下」の政府目標は表向き堅持されるが、償還には消費税率引き上げ後の税収増加分を充てることに変わりなく、自公両党が反対しており、成立の見通しは立っていない。自公民3党は7月26日の政調会長会談で政府提出の共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)の修正で合意、消費増税法に合わせて成立させる予定だったが、国会の混乱で先送りされた。同法案は社会保障サービスや徴税をより適切に行うため、国民一人ひとりに番号を割り振る内容。2015年1月から番号運用を予定し、消費税率引き上げに伴い、低所得者対策としての減税や現金を給付する「給付つき税額控除」実施の前提になっている。

解散以外に政治の信頼回復なし
 政府案は、共通番号の基礎にカードの発行を予定しているが、発行が申請を条件としていたため、自民党から「使い勝手が悪い」と批判が出され、全国民への原則配布に改めるよう修正されていた。一方、民主党提案の「参院の1票格差是正」に向けた「4増4減」の公職選挙法改正案は自・公・国民新3党が賛成し参院で可決、衆院に送られたものの、これも流産した。内閣提出法案や与党の議員立法を成立させることは政権与党の責務だが、国会運営のまずさから、このように低い法案成立率の体たらくだ。谷垣禎一自民党総裁は「首相は何度も審議の先送りをしながら、予算編成までやると言い出した。うそつきの片棒は担げない」と不快感を示した。一刻も早く解散に追い込むしか政治の信頼回復はない。