第275回(9月16日)公選法改正は小手先でなく9次選挙審で

小選挙区制で不決断政治慢性化
 選挙制度の改革は、昔から鳩山一郎元首相の「ハトマンダー」、田中角栄元首相の「カクマンダー」などと呼ばれる党利党略の改正案が提出され、その度に野党に阻まれてきた。ところが、前通常国会で政府民主党は8月28日、衆院小選挙区の「1票の格差是正」を盛り込んだ衆院選挙制度改革法案を全野党欠席のまま強行可決した。そこには①ねじれ国会の参院に送付しても成立出来ない②改正法の周知期間には最低3ヶ月必要――などを見越して、執行部が来年夏に衆参両院議員任期が切れるダブル選挙に持ち込む思惑から強行採決に踏み切ったもの。与党単独で民主主義の土俵である選挙制度を変えようとしたのは史上初の暴挙であり、立法府の権威を失墜させる最大のゲリマンダーだ。現行の衆院小選挙区比例代表並立制が導入されたのは1994年の細川護煕政権。早20年近くが経過し、改革目標の2大政党制が3年前に実現したが、民主党の体たらくで「決められない政治」が慢性化している。導入当時、自民党総裁だった河野洋平前衆院議長は小選挙区制の欠陥を認め、中選挙区制への復活を唱え始めた。最高裁が昨年3月、「違憲状態」の判決を下したため、民主党は「1票の格差是正」に加え、定数削減や小選挙区比例代表連用制を導入した改正法案を提出したが各党の利害が対立、抜本改革案は廃案になった。抜本改革は当事者の議員提案でなく選挙制度審議会で徹底討議すべきだ。制度の問題点を検討してみた。

比例代表連用性は憲法違反疑い
 自民党は7月27日、衆院選の「1票の格差」を是正する「0増5減」関連法案を衆院に提出した。公選法と衆院選挙区画定審議会設置法(区割り審設置法)の両改正案からなり、山梨、福井、徳島、高知、佐賀の5県で小選挙区を現行の3から2に減らすと明記。小選挙区の数は300から295に、衆院議員定数は480から475にそれぞれ減る。法改正で都道府県間の「1票の格差」は最大1・8倍程度に縮小され、これにより、47都道府県にまず1議席ずつ割り振り、残りの議席を人口比で配分する現行の「1人別枠方式」は廃止される。自民党は最高裁が違憲状態と判断した「1票の格差」を緊急避難的に是正し早期衆院解散の環境整備を目指したもの。民主党は「0増5減」に加え、①定数は45削減(小選挙区5、比例40)し、435議席にする②比例定数140のうち35議席で小選挙区比例代表連用制を導入③比例選の全国11ブロックを廃止して全国比例にする――内容の輿石東幹事長案の公職選挙法改正案を提出した。比例代表連用制の一部導入は、公明党を含め少数政党が期待しているが、基本的には小選挙区の獲得議席が増えるほど比例選の議席が減り、自民党は「法の下の平等に反する憲法違反だ。さらに11ブロックの廃止は衆院の参院化につながる」と反対した。谷垣禎一総裁は自民党法案の提出に先立ち、成否の鍵を握る公明党の山口那津男代表に理解を求めたが、山口氏は「選挙制度の抜本改革、定数削減も合意を図るべきだ」と指摘したうえ、自民案の提出には同意した。

「4増4減」でも格差は5倍近い
 民主党が28日、全野党欠席のまま改正案を強行採決した後、自民党の石原伸晃幹事長は「選挙制度は民主主義の土俵、議員個々の身分に関わる。与党単独で選挙制度を変える例を残すと、マジョリティーを取ったものが、自分に優位な制度に絶えず変えていく証になってしまう。採決を許した横路孝弘衆院議長も不信任に値する」と批判した。一方、参院各会派代表らによる「選挙制度改革検討会」は7月末、民主党提案の「1票の格差是正」に向けた「4増4減」の公職選挙法改正案に自・公・国民新3党が賛成し通常国会での成立が確実か、と思えた。改正案は差し迫った13年夏の参院選に間に合うよう急遽まとめられたもので、①神奈川と大阪を定数6から8に増員、福島と岐阜を4から2に削減②比例代表選と総定員(242)は現行を維持③改正案付則に16年参院選に向けた抜本改革の検討を明記する――との内容。昨年急死した長崎出身の西岡武夫前参院議長は比例選を廃止し全国9ブロックの大選挙区制を導入して格差を是正する私案を提示したが、都道府県代表の意識が強い自民、民主両党議員が反発、最高裁の違憲判断の目安とされた5倍をわずかに下回る最小限の改革に留まった。現行の5・124倍は4・746倍に改善されただけで、公明党は選挙制度の抜本改革を行い、さらに格差を縮小するよう主張している。

自民に高まる中選挙区制復活論
 抜本改革について、河野前衆院議長は7月29日の読売コラムで、「司法に言われて仕方なく直すという姿勢は情けない。小選挙区制はぜひ変えてほしい。51%が賛成、49%が慎重・反対の時、少数意見が死に票になる可能性がある。皮肉なのは、多数派がさっと決められる仕組みにしながら『決められない政治』になっている。議会制民主主義にスピードばかり求めるのは危うい。中選挙区ではコツコツと支持者を開拓し、足場を作って選挙に臨み、30%の支持で当選できたから、困難な問題でも立ち上がってものが言えた」との趣旨で小選挙区制による政治劣化を指摘した。もっともだ。河野氏は小選挙区制を受け入れた当時の自民党総裁だが、今や中選挙区制の復活を唱え、自民党内では加藤紘一元幹事長が中選挙区復活の研究会を設置し検討中で、石原幹事長も復活に賛成している。民主党の輿石幹事長は「衆参ダブル選」まで選挙を先送りしたい思惑から公選法改正案を出し渋ったが、同法案は成立後の周知期間に最低3か月を要するため、頃合いを見て慌ただしく提出、今度は逆に法案成立までは解散できないと主張している。10月に臨時国会が開会すれば、総選挙に間に合うよう「05減」法案をまず成立させるべきだ。議会制民主主義の根幹にかかわる選挙制度である。小手先を弄した付け焼刃の改革ではなく、学識経験者による第9次選挙制度審議会を設置して長期的に審議、成案を得るべきだと私は考える。
=ゲリマンダー英語<選挙で特定の政党や候補者に有利なように選挙区を区割りする>