第272回(8月1日))北方領土交渉が再燃(下)タンデム使い分け
            シベリア開発協力に大統領懸命
 
 今年も終戦記念日がやってくる。忘れてならないのは、スターリンが宣戦布告したのは1945年8月8日、第2極東軍が千島列島に襲い掛かったのは終戦(ポツダム宣言受託の同15日)3日後の18日。第1極東軍が北方領土に向かったのは同28日で9月6日までに無血占領した。これを第2次大戦の戦果だと吹聴し、「悔しければ戦争で取り返せ」と言わんばかり。日露が戦争すれば北海道すら占領しかねない。外交上手のロシアは平然と実効支配を続けるが、戦後67年目を迎えると4島で生まれた子らは自分の故郷と信じ、そろそろ後期高齢者に達する。時間こそが手強い相手だ。プーチン大統領は豊かな石油・天然ガス資源などの欧州供給でロシア経済を再生させてきたが、北極海やサハリンなど極東部に無尽蔵とされたLNG(液化天然ガス)の存在も陰りが生じてきた。そこで、メドベージェフ首相と違って、3・11大震災後の日本へエネルギー支援を申し出るなど、日本の協力でシベリア開発を促進しようと懸命になり、領土問題の解決に意欲を見せている。

双頭体制で呼吸合わせ実効支配
 これを受けて、日本の独立法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は6月22日、ロシア・東シベリアの油田を、同国営石油大手ガスプロム・ネフチと共同開発し、将来的には日本企業が49%の権益を獲得すると発表した。日露が共同開発するのは露・イルクーツク州北部のイグニャリンスキー鉱区で、埋蔵量1億バレルの中規模油田。ロシアは今年11月、東シベリアと日本海を結ぶパイプラインをウラジオストクに近い積出港・ナホトカコズミノまで完成させ、日本に輸出する考えだ。原油輸入の約9割を中東に依存する日本にとって、航路が安全で運賃が安いシベリアからの原油調達は歓迎できる。
7月5日の「よみうり寸評」は「大統領と首相の職を交互に取り替えて政権を維持してきたプーチン、メドべ-ジェフ両氏の政治体制はタンデム体制であり、2人は違った方向へペダルを踏む筈がない。老獪に硬軟な役割を演じ続けている」との趣旨のコラムを載せた。2人乗りの自転車をタンデムと言うが、確かにロシアはタンデム(双頭)体制を使い分け、プーチン氏がシベリア開発をテコに領土問題で風穴を開けようとすれば、メドベージェフ氏が領土で強硬姿勢を示し、4島の実効支配を正当化しようとする。絶妙な呼吸合わせだ。

同時並行協議でまず2島返還を
 メ首相の国後島視察に反発した北方領土の元島民たちは7月6日、外務省に「粘り強い交渉を」と陳情した。鈴木氏の「同時並行協議」に全面賛成する訳ではないが、高齢化する元島民の悲願を思えば、まずは歯舞、色丹の先行返還を実現し、本土と一体化するよう2島経済を振興して元島民の生活を保障すると同時に、現地住民にも居住権と生活権を保証して暮らし向きを向上させる。これと並行してじっくり国後、択捉の帰属問題をシベリア開発と絡めて協議してはどうだろうか。ロシアは北方領土、韓国は竹島の実効支配を強め、中国は尖閣諸島を「古来の領土」と主張。韓国はさらに東シナ海の自国の大陸棚を、沖縄近海の海底地形「沖縄トラフ」まで延伸することを認めるよう、国連の大陸棚限界委員会に近く申請書を提出するという。また、韓国人男性(62)運転の小型保冷車が7月9日、ソウルの日本大使館に突っ込んだ。車には「独島(竹島)は我々の土地」と書かれたステッカーが貼られ、男は日韓が領有権を争う島根県・竹島問題で抗議をしたという。

中国は尖閣を固有の領土と主張
 竹島や尖閣諸島の海域にはLNGはもとより、「燃える水」と呼ばれるメタンハイドレードがふんだんにあり、開発利権争いが激化しているからだ。7月12日にカンボジアのプノンペンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域ホーラム閣僚会議の後の日中外相会談で、中国の揚潔箎外相は野田政権による尖閣諸島の国有化方針について、「尖閣は中国の領土」と主張し「対話や協議を通じて問題を処理する正しい道に戻るべきだ」と、方針撤回を求めた。これに、玄葉光一郎外相は「わが国の固有の領土であり、領有権の問題は存在しない」と反論したが、議論は平行線に終わった。中国を強気にさせた背景には丹羽宇一郎駐中国大使の不適切発言がある。丹羽氏は6月7日、英紙の取材に対し、東京都の尖閣諸島購入計画について、「実行されれば、日中関係が極めて重大な危機に陥る」と懸念を表明、石原慎太郎都知事が更迭を求め、自民党からも強い批判が出されていた。伊藤忠商事相談役だった丹羽氏は、商社マンの国際感覚や中国に幅広い人脈を持つことから、民主党政権の「脱官僚依存」の目玉人事として任命されたが、にわかに交代論は起きていた。

継承領土と主権、後世に引き継げ
 玄葉外相は7月15日、丹羽大使を一時帰国させ、「国有化は国内問題である」との日本の考え方を正しく中国政府に伝えるよう指示したが、「人事の話はしていない」と、更迭は否定した。中国の人民日報系「環球時報」と台湾の有力紙「中国時報」が共同で実施した世論調査によると、尖閣諸島を巡り、「主権のためなら日本と一戦交えてもいい」と考える人が中国で9割、台湾で4割に上ることが分かった、と21日の読売は報じている。このように、政党の体を成さない野田政権が外交・防衛で、もたつく間に、近隣諸国は軍備を拡充し日本に外交攻勢を仕掛け、安全保障を取り巻く抑止力の環境は様変わりした。日米間は米海兵隊のオスプレイを沖縄に配備する問題で今も緊張している。多年、安保問題と取り組み、衆院沖縄・北方問題特別委員長を経験した私としては看過できない事態だ。8月中旬にも自民党の調査団に加わり、尖閣諸島を海上から視察する予定だが、北方領土・尖閣・竹島の全てにわたり、過去から継承された領土と主権を現役と後世代に引き継ぐことに専念、とりわけ北方領土は全面返還に至る道筋を粘り強く追求したいと考えている。 
                               (完)