第271回(7月16日)北方領土交渉が再燃(上)メ首相、国後島再訪
 膠着状態にあった北方領土問題は、シベリア開発に熱心なプーチン氏が大統領に再選されて好転するかに見えたが、首相に返り咲いたメドベージェフ氏が3日、国後島を再訪したことで、ロシアの領土に対する強硬姿勢が鮮明になった。メ首相は国後島民に、「我々の古来の土地だ、一寸たりとも渡さない」と述べ領土問題での譲歩を否定した。柔道愛好家のプーチン大統領は首相時代の3月、朝日などのインタビューで「両国外務省を座らせて“始め”の号令をかける」と述べ、受け入れ可能な妥協点としては「“引き分け”のようなものだ」と語った。これは1956年の日ソ共同宣言で「平和条約締結後に歯舞、色丹2島を引き渡す」の合意に沿って決着を図ろうとしたもの。同じ柔道有段者の野田首相はすかさず、「引き分けではなく始めだ」と反発したが、メ首相は日本の民主党分裂で政権基盤がガタついた隙を突いて国後島を訪問、外交攻勢を仕掛けたものだ。ロシアは北方4島を「実効支配」ではなく「第2次大戦で勝ち得た領土」と主張しているが、実は終戦後のドサクサに無血占領している。盗人猛々しいとはこのことだ。私は衆院沖縄・北方問題特別委員長時代の丁度1年前、7回続きで北方領土を特集したが、最近の動きをまとめてみた。

引き分けなら83%返らない
  「歯舞。色丹は面積で7%。残り83%が来ないのは”引き分け”にならない」――首相はプーチン氏が3月に述べた「引き分け発言」に対し、国会答弁でこう反論した。6月18日にメキシコで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席した首相は会議後、プーチン露大統領と初めて30分会談し、停滞している北方領土交渉を「再活性化」させることで一致、実質協議で玄葉光一郎外相を夏にモスクワに派遣することで合意した。首相は会談で、「これまでの諸合意、諸文書、法と正義の原則に照らして、実質的な協議を始めたい。(柔道の)“始め”の号令をかけることに合意したい」と述べ、石油・ガス開発事業「サハリ ン3」への日本企業の参画に期待感を表明、両首脳は経済協力を「互恵の原則」に従って進めることで一致した。領土交渉は2010年11月に当時のメドベージェフ大統領が国後島を訪問して以来滞っていた。そこで、首相はプーチン氏とファーストネームで呼び合う森喜朗元首相を特使としてモスクワに派遣することを検討、玄葉外相が水面下で森氏と接触、前向きな回答を引き出していた。ところが、首相に復帰したメドベージェフ氏は3日に国後島を再訪、基幹産業を整備し北方領土の「ロシア化」を進めている。

古来の土地一寸たりとも渡さぬ
 メ首相は、悪天候のため当初計画した択捉島訪問は中止したが、国後島では基幹産業の漁業を支える港湾岸壁の整備状況や島民からの改善要望が強い医療施設を視察。島民を前に、「我々の古来の土地だ。一寸たりとも渡さない」と4島の譲歩を否定、帰路の記者会見でも日本が抗議したことに、「全く関心がない。自国の領土を視察しただけだ」と述べ、今後も視察する考えを示した。ラブロフ外相も「戦略的にもっとも重要な地域の発展に取り組んでいるに過ぎない」と反論し、北方領土は第2次大戦で勝ち取ったロシア領であるとの認識を強調した。メ首相は大統領当時の2010年11月、日本が尖閣諸島沖で起きた海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突の対応に追われていた最中に国後島を訪問したが、今回もまた、民主党の分裂で野田政権が不安定になったタイミングを狙って同島を再訪した。これは国後、択捉の2島は日本に返さないとの強い意思表示の現れ。読売によると極東研究所(モスクワ)の上席研究員は「ロシアは対日交渉を始める前に、2島返還(で決着させる)というシグナルを日本に送っているのだ」と述べた、と報じた。北海道出身の鈴木宗男前衆院議員(元自民党総務局長)は森政権当時、「歯舞、色丹の引渡し条件」と「国後、択捉の帰属問題」を分けて対応する同時並行協議をひそかにロシア側に提案、自民政権内を「2島先行か、4島一括か」に2分した経緯がありロ側の動きに関心を寄せている。
           (以下次号)