第270回(7月1日)諫早干拓を糺す(番外篇)1千億円以上の防止策
  被害賠償16人に計1・1億円

 前号までは、4月18日の衆院農水委員会での私の質疑内容と諫早湾干拓事業の経過を詳しく取り上げた。番外篇では、農水省がほぼ1年前にまとめたアセス案と、長崎地裁が言い渡した開門請求棄却の判決など、その後の経過と問題点を読売、長崎新聞の記事などを参照にまとめてみた。アセス案は全開門なら1077億円の被害防止策が必要と試算、長崎地裁判決は干拓事業と漁業被害との因果関係を一部認め、漁業者16人に合計約1億1千万円を賠償するよう命じた。5月31日の自民党「有明海・八代海再生PT」でも農水、環境、国交3省と佐賀、福岡、熊本3県関係者の説明を聴き、諫早干拓問題を討議した。

制限、段階、全開の3アセス案
 農水省は2011年6月10日、諫早湾干拓事業で長期の開門調査をした場合の環境影響評価(アセスメント)の素案を発表した。湾を締め切った調整池の水門を開ければ大量の海水が入れ替わるが、塩によって農業用水として使えなくなったり、潮流による泥の巻き上げで漁に影響が出たりすると指摘。それらの対策費として最高1077億円、最低でも82億円が必要だとした。このアセスは翌12年3月に確定、国は開門に強く反対している長崎県や干拓地農業者らにこの案での説得を努めてきた。アセス素案で国が示した開け方は①当初から水門を全面的に開ける「全開門」②調整池の水位の変動幅を70センチ以内、潮流の速さを毎秒1・6メートル以内に収める「制限開門1」③変動幅を20センチ以内、毎秒1メートル以内におさめる「制限開門2」――の3通り。さらに、制限開門2、同1を経て最終的に「全開門」に至る「段階開門」も加え、それぞれの影響予測と対策を示した。

長崎地裁が開門請求却下し迷走
素案は全開門なら貝類を死滅させる原因の発生は減るとしているが、①農業用水の利用が出来なくなる代わりに地下水をくみ上げる②調整池の水位の上昇を抑えるために排水ポンプを設置する③潮流による泥の巻上げで漁業に影響が出ないよう海底に石を投入する――などの対策が必要になり、費用は1077億円に上る。制限開門なら239億円~82億円で済むものの、海水量は全開門の8分の1~40分の1程度にとどまり、効果も限定的。段階開門の場合も、最終段階で全開門と同等の対策費が必要としている。一方、諫早湾干拓事業を巡って、諫早湾内や付近の漁業者41人が国に潮受け堤防排水門の開門などを求めた「長崎訴訟」は、長崎地裁が2011年6月27日、開門請求を棄却する判決を言い渡した。原告は干拓事業によって生じた漁業被害の損害賠償を求めていたが、須田啓之裁判長は「開門しないことが、原告らに対する違法な侵害行為とは認められない」と述べた。だが、干拓事業と漁業被害との因果関係は一部を認め、コノシロ漁の16人に年50万円で合計1億1千万円を賠償するよう命じた。開門を認めない判決が出ても、菅前首相が福岡高裁判決を受け入れて上告を断念しているため、国は今後も開門の義務を負い、判決後、筒井信隆農水副大臣は「開門方針の見直しは全くない」と述べ、開門の迷走が始まった。

正反対判決で長崎県勢いづく
 長崎訴訟の原告は、堤防近くで漁業を営む長崎県諫早市・小長井町漁協の組合員9人と、湾近くの佐賀県太良町・有明海漁業大浦支所の32人。判決は、国が1997年4月に潮受け堤防で諫早湾を締め切ったことで、産卵や生育の場所を失ったコノシロなどの一部魚種に漁業被害が生じたと認定したものの、諫早湾漁業の主力であるアサリの大量死については干拓事業との因果関係を認めなかった。「長崎訴訟」では、開門を国に命じた福岡高裁の確定判決と正反対の判決が出たため、開門に反対する長崎県や干拓地農業らは長崎地裁の判決に勢いづき、干拓地農業者らが同じ長崎地裁に開門差し止めを求める訴訟を起こすなど騒ぎが大きくなった。以上のように、農業再生、防災の観点から干拓事業を推進する長崎県と漁業被害を訴える佐賀県など有明海周辺県の確執に加え、地裁、高裁がそれぞれ地元の声を重視した判決で対立、諫早干拓事業は複雑な軌跡をたどった。上告を断念した当時、菅前首相は「ギロチン工事以来、現地に何度も足を運んで私なりの知見を持っていたので、総合的に判断して上告を断念した。既に工事は終了しているが、開門で海をきれいにして行こうという高裁の判決は大変重いものがある。諫早干拓は色々な意味で象徴的な事業だ。歴史的には反省があってもいい」と述べている。

故西岡参院議長が激しく批判
しかし、当時の西岡武夫(故人)参院議長は「開門にも上告断念にも反対だ。内閣として決める前に上告しないと表明するのは手続き的にもおかしい。沖縄問題や尖閣諸島問題、党内問題では発揮出来ないくせに、この問題だけ、なぜリーダーシップを取った振りをするのか」と激しく批判。野党はもとより、民主党内でも賛否両論が吹き上がった。長崎、福岡、佐賀、熊本4県に囲まれた有明海はムツゴロウなどが生息する「宝の海」だ。それが97年4月の潮受け堤防の締め切り以降、養殖ノリは黒くならない「色落ち」の被害が出、タイラギも急減している。色落ちは赤潮により海水中の栄養塩を奪われたためで、タイラギ不漁の要因も生息する砂地に粘土質が増え、生息域が減少したためといわれる。佐賀県などは「湾の締め切りで潮流が変わったからだ」と指摘しているが、衆院農水委員会で私が「開門しても有明海への影響はなく、有明海の再生につながらないだろう」と質したのに対し、農水省はこれを肯定する答えを示した。

農・漁業者の利益守り活動展開
諫早干拓は、戦後の食糧増産を目的に、西岡氏の父親・竹次郎県知事が諫早湾全体を締め切る「長崎大干拓構想」を打ち出したのが始まり。それが、減反など農業政策の転換を受け、防災や水資源確保の目的を加えるなど2回にわたって計画を変更。08年4月からは干拓地農業が開始され、41の個人・法人が入植し、ジャガイモやタマネギ、レタスなど野菜を中心に46品目も生産、全国に出荷している。減農薬といった環境に優しいエコファーマーも定着しつつある。干拓地で使われる農業用水は、淡水化された調整池から取水され、1日の使用量は約1万2千トンで、開門すれば混水を防ぐために代わりの水源を確保しなければならない。私は長崎県の農業・漁業者の利益を損なわないよう、今後も諫早湾・有明海再生のため、国会活動を続けていく決意である。
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