第267回(5月16日)諫早干拓を糺す(上)誠心誠意を繰り返すだけ
 諫早湾干拓事業で、「ギロチン」と呼ばれた堤防7キロの締め切りから15年が経つ。菅前首相が潮受け堤防の排水門を5年間開門するよう国に命じた福岡高裁判決を受け入れ、最高裁への上告を断念してから早や1年半。開門は来年(平成25年)末に迫っている。堤防締め切り以来、養殖ノリの不作、高級二枚貝・タイラギやアサリなどの不漁が続いたとして佐賀県などは開門を歓迎しているが、干拓地には個人・法人が入植し、環境保全型農業のエコファーマーが進み、防災面での効果も発揮しているため、長崎県は強く反対している。元々堤防締め切りの旗振り役を演じてきたのは菅氏だったが、上告断念した当時、自民党の石原伸晃幹事長は「政権末期の悪あがき、支持率向上のパフォーマンスだ」と痛烈に批判した。確かに、農漁業、防災の観点をしっかり考えて決断を下したとは全く思えず、閣議決定の形跡もない。このため、私は4月18日の衆院農水委員会で開門問題を徹底的に追及した。これに対し、鹿野道彦農水相は「農水省は上告の上、和解による解決を求める方針を進言したが、菅総理は開門の方法、時期、期間について防災、営農、漁業への影響に十分配慮し、万全な事前対策の実施を前提に上告を断念した。国は平成25年末までに開門の義務を負った。地元関係者と対策を誠心誠意話し合って行きたい」と繰り返すだけだった。そこで私は菅氏の参考人招致を強く要請した。質疑内容を3回に分け報告する。

異変は諫早干拓と直接関係ない
 北村 小長井町の漁協組が頑張っているカキの養殖事業は普通の垂下式でなく、かごに入れて1個1個の稚貝を育てる、まさに箱入り娘ならぬ、かご入り娘のカキだ。これに華漣という大変可憐なネーミングを与え、カキの生食の第1回全国大会で見事トップの評価を得た。諫早・有明湾では大変難しい事柄が多いわけだが、地元の協力で粘り強く頑張った人たちによって、カキやアサリについてこういう成果が生まれている。平成12年のノリの不作で諫早湾干拓問題が大きくクローズアップされたが、ノリは少し回復したと聞く。
 筒井信隆農水副大臣 ノリの大不作はその後大幅に回復・上昇、昨年度は倍増の大豊作と聞く。今年度は大幅な不作が予想されたが、昨年度の8割方までは回復した状況だ。
 北村 有明海の貝類漁獲量は諫早湾干拓が本格的に着工する10年前の昭和50年代後半から60年前半の統計数値を見ると、大幅に減少している。その原因は何か。
 筒井副大臣 アサリは減少しているが、サルボウは逆に生産量を伸ばした。タイラギはやはり生産量が落ち込んでいる。減少が大きいアサリは有明海・八代海総合調査評価委が、過剰な漁獲圧,底質環境の悪化によるとの報告書をまとめている。
 北村 というのは、異変の要因は、諫早湾干拓と直接関係ないと確認してよいか。
 筒井副大臣 農水省はその考えで、裁判等でもそういう主張を展開している。

開門は有明海の再生に影響なし
 北村 諫早湾干拓事業は長崎県の諫早湾内と島原半島沿岸の漁協のほか、佐賀、福岡、熊本3県の漁協組連合会に対しても莫大な漁業補償を行っている。大臣は認識しているか。
 鹿野農水相 昭和61年度は諫早湾内12の漁協に対して243億5千万円、同62年度、63年度には長崎県島原、佐賀、福岡、熊本の漁協に対して35億7千万円、合計で279億2千万円の漁業補償を行ったと承知している。
 北村 有明湾全体のノリの生産量は平成12年度以降、全体的に増産の傾向にあり、貝類の漁獲量減少要因も諫早湾干拓ではない。漁業補償をした上で事業に掛かったのに、なぜここへきて開門ということになるのか。アセスの準備書の結果から見ても、開門しても有明海への影響はなく、有明海の再生につながらない。地元の住民、農業・漁業者は被害を蒙ることが確実だ。万全の対策もなく開門する意義はないと思う。取りやめるべきだ。
 筒井副大臣 開門の3の2を基本に、色々な被害が生じない方法を考えている。しかし、開門3の2でやった場合にも、調整池が全部塩水化して、諫早湾内の流速も少し増えるところから、環境にいい結果が出てくる可能性はあると考える。ただ、今度の開門はまさに確定判決に基づく国の義務となっているわけだから、国が違反するような行動は取れない。

開門は調整池水位や流速を制限
 北村 開門すれば有明海の再生は可能というが、アセス準備書では、これを裏付けるシュミレーションなど科学的、客観的な根拠はない。どんな開門方法を取っても有明海への影響はなく、諫早湾では濁りなどの発生によって、漁獲の減少、漁場の変化など環境影響被害が予測される。3月22日の参院農水委で福岡(資麿)議員が菅前総理のインタビューに関し、「当初の案にはなかったものを菅総理自身が指示して無理やり入れたみたいな書き方がなされている」と指摘、「大した知恵もないのに、いきなり首相自身の指示で物事を変えていくのが本当の姿か、反論があれば聞きたい」と農水大臣に質したのに対し、農水相は「記憶によれば、反論も何もない」と答弁した。福岡高裁の開門判断の受け入れも、明らかに間違った判断と思うが、農水相はこの点、どう思うか。
 鹿野農水相 「反論も何もない」と答えたのは、菅首相のインタビュー発言は事実であるのでそう申し上げた。開門のケース3の1,3の2というのは、調整池の水位や流速を制限する、いわゆる制限開門のやり方で分けた。政府部内のやり取りの詳細は発言を控える。
 北村 総理の判断で開門の義務を負ったというが、アセスの結果を見てから開門を検討すると言っていながら、菅前総理は有明海の再生を目指すためであるとして、アセスの結果が出る前に地元の反対も聞き入れず、一方的に受け入れを決めてしまったと言わざるを得ない。アセス準備書では、開門しても有明海への影響はほとんどなく、再生につながらないことが科学的、客観的に明らかにされ、菅総理は間違った判断を犯したことが明確だ。
 鹿野農水相 平成22年12月15日、官邸で菅前総理に話した際に農水省としては防災、営農、漁業への影響等の問題もあることから、上告した上で和解による解決を求めていくという方針を申し上げた。当時の総理は問題点を十分に理解された上で、開門の方法、時期、期間について、防災、営農、漁業への影響に十分配慮し、万全な事前対策を実施することを前提として上告断念の方針を判断した。地元関係者と誠心誠意話し合って行きたい。
                            (以下次号)