第266回(5月1日)列島の四海波高し(下)露がユーラシア同盟
 メドベージェフ大統領が度々北方領土を視察したのも、日本政府が中国の漁船衝突事件で弱腰を見せたのに乗じて強硬姿勢を示したものだ。読売によると、中国の水産企業代表者は3月21日、北方領土の国後島を訪れ、ロシア・サハリン州南クルリ管区のオレグ・グセフ区長と会談し、水産物加工や魚介類の養殖事業などに約5000万ドル(約42億円)を投資する考えを表明したという。さらに同紙は、ロシアが北方領土やサハリン、シベリア、北極海の液化天然ガス(LNG)など資源開発ばかりでなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主・インドネシアとは、カリマンタン島の豊富な炭鉱の増産を図るため、石炭輸送鉄道を建設することで合意した。ベトナムへの潜水艦、マレーシアやインドネシアへの戦闘機売却など武器輸出にも力を入れているという。ユーラシア大陸の巨大国家・ロシアは広範なアジアの北と南へ貿易、運輸、通信でも活発な進出を目指している。

柔道の引き分けで妥協点探る
 こうした中、3月4日の選挙でロシア大統領への返り咲きを果たしたプーチン首相は、同月1日に公邸で一部外国メディアと会見し、日本との領土問題について「(柔道の)引き分けのような形で互いに受け入れ可能な妥協点を探りたい」と述べ、日露双方が最終決着に向けて歩み寄る必要性を強調した。しかし、プーチン首相は歯舞、色丹の2島返還論者で、ロシア極東研究所・日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長も「議論の対象はあくまで2島で、4島ではない。首相は新しい考えを示したわけでなく、領土問題について日本と交渉を続ける用意があることを確認しただけ」と解説している。プーチン氏は、平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡すと明記した「日ソ共同宣言」(1956年)は有効との立場だ。前大統領当時の、2001年3月のイルクーツクでの森喜朗首相との首脳会談でもこの立場を表明している。プーチン首相は経済交流を中心に、対日関係の拡大を目指し、福島第一原発の事故で火力発電依存が高まると日本への液化天然ガス(LNG)供給の支援拡大を表明。一方では極東と東シベリア開発への日本の協力増大を狙っている。9月にはウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議の議長国として首脳会議を開催する。

首相は柔道の始めで領土解決を
 だが、歯舞、色丹は北方領土面積の7~8%に過ぎない。野田首相はプーチン氏の大統領再選を祝う5日夕の電話で、「日露関係の次元を高めるべく協力することを楽しみにしている。領土問題は引き分けでなく、(柔道の)始めだ。英知ある解決に取り組みたい」と応酬した。首相もプーチン氏も柔道有段者だが、共同宣言を出発点としながらも、フェアプレーで真剣に領土問題を討議することを提案したものだ。首相は5月中旬に米シカゴで開く主要8か国(G8)首脳会議の機会を捉えて、大統領再選後のプーチン氏と初の日露首脳会談を開き、領土問題の議論を加速させようとしている。国内には4島一括返還を唱える原則論、鈴木宗男前衆院議員らの2島返還先行論、麻生政権当時の歯舞・色丹・国後に択捉島の半分を加えた3・5島返還論、単純な面積の折半方式論、2島+アルファー論など様々な案が出されているが、野田政権は領土交渉の環境を整備するため、極東・東シベリアの開発やロシア経済の近代化などで協力を進め、露新政権の出方を見極める方針だ。藤村修官房長官は「アジア太平洋の戦略環境が変化する中でパートナーとして相応しい関係を構築すべく、様々な分野で協力を進めていく」と述べ、協力強化の意向を表明した。

4年で経済危機克服したプ首相
 5月に大統領に就任するプーチン首相は4月11日、下院で政府活動に関する年次報告を行った。首相としては最後の報告で、2011年の国内総生産(GDP)が約41兆4210億ルーブル(約113兆円)となり、「(2008年のGDPとの比較で)経済危機的な水準を超えた」と述べ、「巨大な試練だった」と経済危機の克服など過去4年間の実績を強調する一方、大統領就任後は優先課題として、極東・シベリア地域の開発や旧ソ連地域を経済的に統合するユーラシア同盟の実現、人口問題の解決など5項目を列挙し同盟の実現を通じた「世界におけるロシアの立場強化」を盛り込んだ。主要8カ国(G8)の中では現在、「ロシアの成長スピードが最も速い」と主張、今後2,3年でロシアの経済規模が世界でトップ5位以内に入るとの見通しも示した。この優先課題5項目に対し、日本がパートナーとして大いに経済協力に加担し、領土交渉を進展させる好機到来である。自民党は連休中、青年部・青年局を中心に谷垣総裁も出席して桑港平和条約発効後の「主権回復60周年~憲法改正実現・防衛力整備・領土問題解決」の全国一斉街頭行動を展開する。