第263回(3月16日)固定化or移設促進? 普天間切り離しで合意
 日米両政府は2月8日、在日米軍再編計画の見直しを発表した。普天間飛行場を辺野古に移設する方針は堅持するとしながらも、辺野古移設を切り離して在沖縄米海兵隊のグアム移転を先行させるという基本方針だ。野田首相は同月26日に沖縄を訪問、歴代民主党政権の不手際を謝罪するとともに、計画見直しへの協力を要請したが、地元の反応は冷たかった。首相は計画見直しが沖縄の負担軽減と日米同盟の強化につながると評価、5月連休前にも訪米し、日米首脳会談で同盟の深化と「安保、経済、文化・人的交流」の3分野の新たな「日米共同宣言」を発表する方針だ。米政府の方針転換は、アジア戦略の見直しと国防予算の削減が狙い。その中で普天間飛行場は現在の宜野湾市に残ってもやむを得ないと判断したと言える。従って、地元では普天間施設の固定化に強く反発しているが、逆に政府は辺野古移設に弾みがつくと期待をかけている。米海兵隊員4700人のグアム移転が先行し、米軍住宅地区などが返還され基地縮小で目に見える成果が挙がれば、普天間移設促進論が強まると見ているからだ。だが、沖縄の反応は鈍く見直しの前途は多難。中国の海軍力増強と海洋進出が進む中、東アジアの抑止力は大丈夫か。固定化、移設促進のどちらに転ぶにせよ、衆院沖縄・北方問題特別委員長を務めた私は重大な関心を抱いている。

パッケージ撤回だが移設は堅持
 2006年5月に合意した在日米軍再編のロードマップ(行程表)は、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を条件に、米海兵隊のグアム移転や嘉手納以南の基地返還という枠組みだった。その「パッケージ論」を米国はあっさり撤回、8日の「日米共同報道発表」では、「海兵隊のグアムへの移転及び嘉手納以南の土地の双方を普天間代替施設に関する進展から切り離す」と明記し、普天間移転の進展がなくとも、海兵隊移転や沖縄本島南部の端慶覧,牧港補給地区など米軍5施設の一部・全面返還を先行させるとした。ただし、辺野古移設については「両国は現在の計画が唯一の有効な進め方だと信じている」として、移設堅持の考えを強調している。1万8000人の在沖縄海兵隊のうち現行計画通り1万人規模を沖縄に維持し、移転する8000人のうち戦闘部隊4700人をグアムに移転、米本土に800人、米ハワイに1000人、豪州、などにも移転させようと日米間で調整している。米側は残りの1500人は山口県岩国基地に移す案を打診しているが、空母艦載機の発着訓練に反対中の岩国では一層反発を強めている。さらに日本側はグアム移転縮小に伴い、移転費の減額を求めているが、米側は引き続き日本側の支出を求めている。

県知事は県外移設主張し平行線
 「普天間の危険性が除去されないまま、固定化することは絶対に避けなければならない」――首相は見直し発表の8日、参院予算委で辺野古移設にレールを敷く意欲を強調。26,7日には初めて沖縄を訪問、仲井真弘多知事との会談で、普天間問題の迷走を陳謝し、辺野古移設が「唯一有効な方法」と述べ、改めて沖縄の理解を求めた。仲井真知事は、2012年度の沖縄振興予算が前年度比1・3倍の大幅増(2937億円)になり、沖縄振興特別措置法案を国会提出したことなどを「ここ何年来の快挙」と歓迎、「心から感謝する」と語った。しかし、移設については「辺野古はものすごく時間が掛かる。県外が目標」と述べ、従来通り県外移設を頑なに主張し、議論は平行線をたどった。沖縄県は首相の訪沖直前に、辺野古移設に関する政府の環境影響評価について、騒音対策など125項目、175箇所が不適切で、「環境保全は不可能」との知事意見書を示したばかり。移設に不可決な知事の許可を取り付けることは、依然として困難な状況にある。

首相、嘉手納以南5施設返還急ぐ
 首相は知事との会談で、「普天間の移設とは切り離して、抑止力を維持しながら沖縄の負担軽減を具体的に前進させる」とし、米軍嘉手納基地以南の5施設の返還を急ぐことを説明した。嘉手納以南で特に重要なのは国道58号線沿いに続く牧港補給基地(キャンプ・キンザー)の返還だ。首相は会談後、「振興と負担軽減を確実にやっていくことが信頼醸成につながる。論より証拠で具体的な仕事をする」と記者団に語った。これに対し、本島南部の5施設のひとつ、那覇軍港を抱える翁長雄志那覇市長は「ここまで踏み込んだのは一歩前進」と沖縄の負担軽減に期待をかけている。また、首相は平和の礎やひめゆりの塔のほか、首相と同じ千葉県出身の大田実司令官が沖縄県民の献身的戦いを伝える電文を打って自決した旧海軍司令部壕なども視察。田中直紀防衛相の相次ぐ失言や宜野湾市長選の投票を呼び掛ける講話をした真部朗沖縄防衛局長についても謝罪、県民に精一杯の誠意を尽くした。しかし、首相が就任後ほぼ半年経って沖縄を訪問し、辺野古上空をヘリなどで視察したことに対し、県内移設反対の稲嶺進那古市長は「少なくとも自分の足で歩き、実感してほしかった」と批判するなど、現地の受け止めは極めて冷ややかだった。

首相訪米に備え連休前に策定
 首相は「抑止力の維持と沖縄の早期負担解消に向け、しっかり協議するよう」玄葉光一郎  外相と田中防衛相に指示したが、日米調整は数ヶ月かけ、大型連休前にも再編計画を策定,首相訪米に備える方針だ。調整では沖縄本島東南部の5施設・区域の返還計画が焦点だが、海兵隊の分散配置と日本側経費負担のあり方、辺野古移設案の全面見直しや嘉手納基地との統合案、以前は技術的に困難とされた海上ヘリ基地構想も再浮上するかも知れしない。日米両政府が先月末に都内で行った審議官級協議で、米側はグアムに移転する予定だった第3海兵遠征軍(3MEF)の司令部を現在ある同県うるま市のキャンプ・コートニーに残留させ、在沖海兵隊で戦闘部隊主力の第31海兵遠征部隊約2200人も残留させる方針を示した。3MEF司令部の司令官は中将が務め、在沖米軍トップの四軍調整官を兼ねる。これは、空母建造など海軍力を増強し海洋進出を活発化させている中国や、核開発を進める北朝鮮を睨んだ前線基地の要衝として、抑止力を維持する姿勢を示したものだ。

中国の国防予算世界第2位へ
 普天間飛行場の返還合意から間もなく16年になるが、2010年の鳩山由紀夫首相当時の迷走で、辺野古移設が暗礁に乗り上げた。友人の政治部記者によると、米国の安保関係者の間では「FUTENMA IS DEAD」(普天間は死んだ)と言われ、普天間の移設は不可能になったと受け止められているという。普天間飛行場がこのまま固定化すれば困るのは現地住民だ。2月12日の宜野湾市長選で、自民、公明など推薦の佐喜真淳氏が当選したのも、対立候補が掲げた「反基地」の理想だけでは基地の固定化になるだけで、事態は前進しないとの有権者の現実的判断が働いたと見られる。沖縄県久米島沖で先月末の2日間、海上保安庁の測量船「昭洋」「拓洋」が、中国国家海洋局所属の「海監66」「海監46」から調査中止を求められた。同海域は日本の排他的経済水域(EEZ)で調査は当然だが、中国は自国のEEZだとしてイチャモンを付けてきた。尖閣列島も自国領土と主張し続けている。中国は軍事力の膨張を続け、12年の国防予算が前年実績比11・2%増の約6700億元(約8兆7千億円)で、米国に次ぐ世界第2位の規模となった。

対中国・北朝鮮の抑止力大丈夫か
 空母の建造やステルス戦闘機の開発など軍備を増強、西太平洋からインド洋を睨んで軍事力を誇示している。一方、先の米朝協議で北朝鮮は「長距離ミサイル発射、核実験、ウラン濃縮を含む寧辺での核活動一時停止」で合意。米から24万トンの栄養食支援をせしめた。だが、3~4月までの米韓軍事演習には「無言の宣戦布告だ。火遊びには無慈悲な懲罰で答えるだろう」と威嚇。仮に6カ国協議が始まっても、食糧援助が完了すれば直ちに核開発を再開する構えを捨てていない。東アジアでの米軍抑止力はますます重要性が高まっている。さて、野田政権は基地問題をどう解決し、極東の安全を守るか。注目したい。