第257回(12月16日)消費増税の師走攻防激化 絡む社保改革
 野田政権は消費増税を目指し「社会保障と税の一体改革」に本腰を入れ、国会閉幕と同時に野党を巻き込む政府・与党内外の「師走攻防」が始まった。「震災復興と原発事故の収束、財政再建と経済成長の両立」が野田政権の二本柱。首相は5日の政府与党幹部による「社会保障改革本部」の初会合で、「財政規律を守るかどうか世界が見ている。先送りできるテーマではない。不退転の決意で臨む」と胸を張った。しかし、自公両党は「『消費税率10%への引き上げ有りき』ではない。どのような社会保障改革を実現するかだ」と与野党協議には直ちに応じず、政府素案がまとまるのを注視している。その素案に向けた厚生労働省の中間報告が同日に公表されたが、内容は①給付額が本来より2・5%高い「特例水準」を解消し、年金を引き下げる②年金の支給開始年齢を68歳に引き上げる③外来受診の度に100円を支払う「受診時定額負担」の実施や70~74歳の窓口負担を1割から2割に引き上げる――など負担増を求めるものが多い。これに復興増税や消費増税の追い討ちがかかれば、国民の不満は爆発しよう。消費税は多くの政権が取り組み挫折した鬼門の政策で野田政権の命運は消費増税の成否にかかる。今回はその問題点を整理してみたい。

騎馬戦型から肩車型が首相口癖
 「1960年代は1人のお年寄りを働く世代9人が支える『野球チームの胴上げ型』、今は現役3人で支える『騎馬戦型』、2050年には1人が1人を支える『肩車型』の社会になる」――。野田首相は母校早大の講演などで学生相手にこの言葉をよく繰り返している。確かに、「総務省の人口統計などによると1965年はお年寄り618万人を働く世代5608万人が支えていたが、2050年には、その比がほぼ1対1になる」と朝日は報じている。朝日によると、国の財政は90年度に66兆円だった一般会計予算の歳出は11年度に92兆円と26兆円増えた。このうち17兆円分が社会保障の支出増によるもので、税収は歳出の半分にも届かず、国債発行など借金が増える大きな理由になっている。国の借金は11年度末に1千兆円を突破する見通しで、国内総生産(GDP)の2倍超と先進国の中でも最悪だ。年1兆円ペースで増え続ける社会保障費を賄うため、働く世代の稼ぎに税金を掛けるのが中心の所得税よりも、お年寄りを含めみんなが広く負担を分かち合う消費税の方が相応しいと言うのが首相の考え方で消費増税に賭ける思い入れは人一倍強い。

党首討論で自民公約逆手に反撃
 「自民党は2010年の参院選マニフェストに『消費税率は当面10%』とし、超党派の会議体で協議する、と書いた。我々が素案をまとめたら、協議に入るとお約束頂きたい」――。首相は11月30日に行われた初の党首討論で、自民党の谷垣禎一総裁が消費税引き上げを否定した民主党の2009年衆院選マニフェストの違反性を指摘、法案提出前に国民の信を問うよう求めたのに対し、自民党の選挙公約を逆手に反撃した。自民党は参院選の選挙公約に10%の消費増税を掲げたほかに、自公政権当時の平成21年度の税制改正法の付則104条に「平成23年度までに消費税を含む抜本改革法案を国会に提出する」と法で義務づけたことから、首相は自民党の土俵に乗って消費増税の協力を迫る姿勢を示したものだ。消費増税は①年内をメドに改革本部で素案を作る②野党に提示して協議を行う③協議結果を反映させた社会保障の一体改革大綱をまとめる④関連法案を来年3月までに通常国会に提出、成立を図る――の段取りだ。首相は各紙に全面広告を何度も出して国民に協力を呼び掛けている。しかし、小沢一郎元代表は「消費増税話はとんでもない。今の状態で総選挙になったら誰も戻れない」と選挙基盤の弱い小沢チルドレンの会合で増税反対の意向を表明、小沢グループの「一新会」は消費増税反対の署名運動を展開している。

厚労中間報告の負担増先送り
 社会保障改革では、本来より2・5%高い公的年金支給の「特例水準」の解消が最大の焦点。特例水準は物価下落にもかかわらず00~02年度に年金減額をしなかったため、累計7兆円規模の過剰支給になっており、厚生労働省の中間報告では12年度から順次解消するよう年金額引き下げの関連法案を提出するよう明記した。中間報告には他にも窓口負担に一律100円上乗せする受信時特定額負担制度、高齢者の窓口負担を1割から2割に戻す案など国民の負担増を求めるものが多いため与党内の反対論が強く、先送りされる公算が大きい。特に生活保護の受給者は過去最多の205万人を突破しているが、消費税は食料や衣服など切り詰めにくい生活必需品にもかかる「逆進性」を持っているので、所得の低い人ほど負担感が重くなる。まして被災地にも平等にかかるため、例外措置をどう講じるか。富裕層への課税強化も検討しなければならない。首相は5日、収入が増えるに従い税率が階段状に上がる所得税や相続税について「税率構造の見直し」を改めて指示した。

強行し来夏に破れかぶれ解散か
 朝日の調べによると、所得税は84年まで19段階あり、所得が8千万円を超えると75%の最高税率がかかっていた。それが89年には50%に下がり、97年に消費税率が3%から5%に上がる前にも減税された。今では6段階に減り、1800万円超にかかる40%が最高税率で、収入が多い人と少ない人との税率差は小さくなっている。所得税は豊かな人たちから集めたカネを、貧しい人のために使う「所得の再配分」機能を持つが、09年度の経済財政白書は、所得格差の度合いを示す「ジニ係数」が日本は0・003ポイントで欧米など主要21カ国の中で「最も小さい」と指摘している。相続税も88年に大きく見直され、相続資産から差し引かれる控除が大きくなった。これでは貧富の格差が広がるばかり。消費増税で最も配慮すべき点だ。しかし、大平内閣は一般消費税の創設で、中曽根内閣は売上税導入にそれぞれ失敗。消費税をようやく創設した竹下内閣と2%アップの増税をした橋本内閣は法成立直後に退陣。消費税を福祉目的税の国民福祉税に替えて7%にアップを目指した細川内閣も失敗し退陣した。消費税は歴代政権が道半ばで倒れた難問中の難題。首相はTPP(環太平洋経済連携協定)で苦労しているが、それ以上に党内反発は強く、増税を強行すれば来年夏にも総辞職か破れかぶれの衆院解散に追い込まれよう。