第253回(10月16日)北方領土特集=LNG発電所建設を(7)
   領土に新エネルギー争奪戦絡む

ロシアは北方領土、中国は尖閣諸島、韓国は竹島の実効支配に何故こだわるのか。前号では「北極海やサハリンなど極東部に無尽蔵なLNGの存在があり、プーチン前大統領を強気にさせた」と書いたが、東アジアの海底にも「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレードがふんだんにあり、開発利権の争いが激化しているからだ。野田首相は宇宙・海洋開発を政権公約に掲げるが、日経によると、政府は2012年度末に海底資源のメタンハイドレードから天然ガスを産出する実験に乗り出す。今年度末に掘削に着手、12年度末に数週間かけて実施し18年度までに産出技術の確立を目指すという。産出実験は和歌山県沖から静岡県沖にかけての「東部南海トラフ海域」で、経産省は来年度予算案に100億円の研究委託費を概算要求したという。実験が成功すれば世界初になる。メタンハイドレードは水分子とメタン分子が低温高圧の環境で固体化したもの。100~300メートルの浅い海底にあり、東部南海トラフ以外でも四国や九州沖、北海道周辺でも埋蔵が確認された。経産省が03年度から3年間実施した掘削調査では東部南海トラフに日本の天然ガス消費量の13年分の資源があることを確認。日本近海だけで100年分存在するとの試算もあり、民放は「100兆円の資源で富山湾にも多くの固体が転がっている」と報じた。

東南シナ海は固体メタンガスの宝庫
東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)には、メタンハイドレードのほかにも銅、鉛、亜鉛、金などの金属片が沈殿した「海底熱水鉱床」やマンガン酸化物、銅、ニッケルを含有した「コバルトリッチクラスト」、直径2~15センチ球形の鉄、マンガンが主成分の酸化物で銅、コバルトなども含む「マンガン団塊」など豊富な海底資源が眠っている。南シナ海の南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)両諸島や数千の小島も同様の海底資源に恵まれ、中国から見れば「垂涎の的」。中国が空母を保有するなど海軍を強化し、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイなど近隣諸国に圧力を掛け、尖閣諸島の領有を密かに狙っているのはこのためである。8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会合では、南シナ海の領有権を巡り、EEZを設けて中国と対峙するベトナム、フィリピンなどが激突した。ロシアが北方領土、韓国が竹島の実効支配を強化するのも同じ海洋資源確保の狙いからだ。先号のHPでは「地中の岩盤層から噴き出すシェールガスが世界のエネルギー事情を変えつつある。米国内の埋蔵量は需要の30年分以上あり、欧州や中国でも大量に存在が確認され、世界のシェールガス埋蔵量は旧来の天然ガスの2・4倍に達する」と紹介したが、それに加えて新エネルギー・メタンハイドレードの争奪戦が始まる。

帝石が洋上でLNG生産開発へ
 また、朝日は9月末、「陸から遠く離れた海底から天然ガスを採択し、船上で液化させる液化天然ガス(LNG)プロジェクトが動き出した」と報じた。それによると、「インドネシアのジャカルタから東へ2600キロ。アラフラ海の水深最大800メートルの海底を掘る『アバティガス田』で、国際石油開発帝石が2018年にも洋上LNGによる生産を予定している。今年7月には、英・オランダ系の石油メジャー、ロイヤル・ダッチ・シェルの協力が決まった。船上の工場で、気体のガスを冷やして液化させる。船の全長は約500メートル。中小ガス田規模に相当する年間250万トンのLNGを生産。タンカーに移し替え、日本へ輸出する」と伝えた。政府はエネルギー対策特別会計に、この国際石油開発帝石など上場2社を含むエネルギー関連会社計16社の株式を保有、復興増税の税外収入として全株式を売却する方針だ。完全民営化で新株主が経営権を握れば、国内にエネルギーを優先的に供給できなくなる心配がある。同社によると洋上LNGの動きは、ノルウエーの海運会社がパプアニューギニアの沖合で検討するなど世界に10カ所ほどあるという。

「良好な議論の用意」と露大統領
これでは、プーチン首相を強気にさせていた北極海やサハリンなど極東部の無尽蔵なLNGの存在も影が薄くなり、プ首相は大震災後の日本へエネルギー支援を申し出るなど軌道修正をせざるを得なくなった。前々号でも書いたが、仲氏はメドベージェフ大統領が昨年12月24日のテレビ取材に、「統一経済圏や自由貿易圏の創設が考えられる」と述べ、「北方領土エリアに小さいながら特別な環境を作り、日本国民が来て歴史的な場所を訪れたり、働いたりすることが出来る」自由貿易圏の構築という“見返り”を用意しているという。野田首相が就任挨拶の電話を掛けて、「真の友好関係を築くには、領土問題を解決して平和条約の締結が必要だ」と指摘したのに対し、メドべージェフ大統領は「領土問題は静かで良好な雰囲気の中で議論の用意がある」と応じたという。“良好な議論の用意”があり、双方が誠意を示すなら、「56年の日ソ共同宣言が基本的な法的文書で、93年の東京宣言に基づき4島の帰属問題を解決して平和条約を目指す」との森元首相とプーチン前大統領が01年の会談で合意した「イルクーツク声明」まで立ち戻ることが出来そうだ。プーチン氏は森氏との交渉で4島一括返還には反対し、2島返還を強く主張している。

増田氏が東南ア海底送電網提唱
仲教授は「平和条約の未締結を逆手にロシアが戦後一貫して北方領土を実効支配しているが、外交上手のロシアと時間こそが手強い相手だ」と指摘された。いずれ開催される日露首脳会談では、メ大統領提案の自由経済圏構想からひとまず出発し両国の共通関心事である新エネルギー開発の好機を捉え、私が提案したサハリン州のLNG火力発電所建設計画を含め、経済的、社会的に緊密な日露の協力関係を構築すべきだ。朝日によると、有識者で作る「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)は7日、環太平洋経済連携協定(TPP)を模して「エネルギー版TPP」と銘打ち、日・韓・台湾間などに広域な海底送電網を築き、再生可能エネルギー電力のやり取りをする構想を発表した。これは「東南アジア送電網」に発展させ、豪州の太陽光発電、インドネシアの地熱発電による電力を日本に引き込もうとするもの。欧州では既に英国、北欧間に海底送電網がある。増田氏は「エネルギーこそ国境を越えた連携が必要。('技術力ある)日本は主導権を持てる」と強調、玄葉光一郎外相に提言したそうだが、私の「サハリン火力発電・送電線網」構想に合致するものだ。

粘り強く全面返還の工程表策定
ロシアの政権与党「統一ロシア」は9月24日、プーチン首相が来年3月の次期大統領選に出馬して大統領に復帰、メドベージェフ大統領は首相に就任するため、12月の下院選に比例代表制の名簿トップに据えることを決めた。決定までには両者間で色々の確執や曲折があったが、たすきがけで「双頭体制」(タンデム体制)を維持することになった。プーチン氏は日本との経済関係の強化には積極姿勢を見せていることから、露の新体制が領土問題解決にプラスになることを期待する。過去から継承された領土と主権は現役世代が必ず守り、子孫に繋ぐ財産としなければならない。日露首脳会談では、真剣かつ柔軟に粘り強く討議を継続、北方領土施政権の全面返還に至る長期的なロードマップ(工程表)を明確に策定、歴史に残る成果を挙げて欲しいと念願している。             (完)