第252回(10月1日) 北方領土特集=LNG発電所建設を(6)
 安保素人大臣発言に付け込む
 「私は安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロールだ」と、一川保夫防衛相は就任の記者会見で語り、新聞の声欄に、主婦が「この国難に素人大臣が防衛の勉強とは。試運転など待っていられない」と投書するなどひんしゅくを買った。国家主権を体現させる見識ある政治家が制服組の暴走を抑えるのが真の意味での「文民統制」だ。1年前には尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりし、今年も中国の漁業監視船2隻が領海を侵犯した。「中国は日本の(尖閣諸島)実効支配に対抗する強硬路線に転じた」と北京の外交筋は心配している。韓国が勝手に領有権を主張し、同国の閣僚、国会議員が視察している島根県・竹島(韓国名・独島)でも、自民党国会議員視察団が8月1日に訪問することを韓国側は拒否した。ロシアも9月8日、超音速爆撃機Tu-22が朝鮮半島東側から南下し、沖縄本島と宮古島間を偵察して太平洋を北上。途中で空中給油機を投入するなど約14時間かけて日本列島を1周、航空自衛隊機がスクランブル(緊急発進)をかけた。ロシア軍機へのスクランブル回数は10年度が264回と04年度の倍以上に達している。これら周辺国の行動は、一川防衛相の素人大臣発言や政権交代の弱みに付け込み、攻勢を仕掛けたものだろう。国の主権と資源、国民の生命・財産を守るのが国家の使命である。その気概も党の綱領なく外交音痴の民主党政権に、安全保障は任せられない。

北方領土北側でロ艦が最大訓練
 ロシアの空軍は北海道北東部の沖合に飛行危険区域を設定し、日本領空付近で軍事演習を計画しているが、防衛省は同月9日、ロシア海軍の艦艇4隻が宗谷海峡を東に向け通過、北海道西側の日本海では、ロシア海軍の艦艇約20隻が宗谷海峡に向かって進んでいるのを確認した。北方領土の北側と北東側のオホーツック海海域に、射撃の航行警報が出されておりロシア艦艇は最大規模の訓練を行う見通しだ。玄葉光一郎外相が同日、ロシアのラブロフ外相と電話協議し、自省を求めると同時に関連情報の提供を要求したのに対し、ラ外相は「国際法上は問題ない」と軽くいなした。むしろ、安全保障会議書記が国後島と歯舞群島の水晶島を視察、対艦ミサイル配備など北方4島の軍事要塞化を目指し、実効支配を強化しつつある。安保会議書記が歯舞を視察したのは初めてだ。私が委員長を務める衆院沖縄・北方問題特別委は8月3日、長谷川俊輔根室市長を参考人に招き、同市がまとめた北方4島交流などの「再構築提言」を聞いた。提言書は①4島の住民への生活物資の有償供給や医療支援の充実②4島周辺海域での水産資源の適正管理・資源増大③4島の環境保全と地震対策――などを提唱し、長谷川市長は「4島を実質的に同じ経済圏に取り込むような進化した4島交流の実現について、ぜひとも国に認めていただきたい」と要請した。

大統領視察で4島ロシア化進む
 ペレストロイカ(改革)を唱えた旧ソ連のゴルバチョフ大統領がビザなし交流を提案して今年は20年が経つ。「領土問題解決までの間、相互理解の増進を図り、領土問題の解決に寄与する」ことを91年10月の日ソ外相往復書簡で確認され、92年度から19年間に日本側、4島側合わせ計約1万7千3百人が参加した。私もビザなし交流に参加しようと、9月12~15日まで国後島を訪問、18~24日までは衆院沖縄問題等調査議員団の団長としてワシントン、サンフランシスコなどを訪問する予定だった。だが、臨時国会の都合でビザなし交流は取りやめ、訪米は10月2日出発に延期された。ビザなし交流については読売が7月と8月の2回、NHKも詳しく報じた。露連邦政府は5月、「クルリ諸島(北方領土を含む千島列島)社会経済発展計画07~15年」にサハリン州と合同で160億ルーブル(約420億円)を追加投入し、合計340億ルーブル(約900億円)規模とすることを決めた。読売によると、メドベージェフ露大統領が昨年11月に視察した国後島の幼稚園などは立派になり、今年5月にイワノフ副首相の択捉、国後両島訪問など閣僚らが訪問するたびに積極的な開発論で賑わい、4島のロシア化は進んでいるという。

根室市の共同経済開発案に期待
 しかし、ビザなし交流訪問団に同行して8月中旬、国後・択捉両島を訪問した読売記者は「ロシア資本によるインフラ整備は進んでいるが、スピードは遅く、日本との経済交流を望む声が強かった」と報道した。①国後島西部のメンデレーエフ空港は管制塔とターミナルビル、2千メートルの滑走路は出来上がったが、09年の完成予定は11月完成に2年も遅れた②択捉島北部の新空港も工期は「07~10年」だが滑走路予定地には砂利が積まれたまま③2島の市街地道路は舗装された部分が数キロに過ぎず、大半の砂利道で土煙を舞い上げて走る車はほとんどが日本の4輪駆動車だ④サハリン州の水産会社「ギドロストロイ社」は4島開発に力を注ぎ、2つの近代的な水産加工場を持つが、機械の一部は日本製、キリギスなど中央アジアから季節労働者1500人を雇い入れている――などのルポ記事を掲載。南クルリ地区のワシリー・ソロムコ地区長は「最も近い隣人と農業や水産、建設で協力関係を結びたい」と述べ、長谷川根室市長提案の共同経済活動に期待を寄せていたという。NHKのテレビ番組も、中国や北朝鮮からの建設労働者が多数働く姿を紹介していた。共同経済活動は元々、90年代に旧ソ連政府から提案されていたもので、旧ソ連が経済不振のため、4島に日本資本を導入して産業振興を図る思惑が強くあった。

露は「ロ法の下での活動」主張
 だが、共同経済活動を実施する場合、契約や徴税、警察・裁判などの法的権限問題を解決する必要がある。98年に両政府が「共同経済活動委員会」を設置し、養殖の共同事業化を議論したが、露側は「ロシアの法の下での活動」を求めて折り合えず、委員会は休眠状態に陥っている。私の「北方領土特集」(3)で「旧ソ連は2つの“終戦”の間隙を縫って南千島列島を無血占領した」と書いたが、その点は頬被りして、ラブロフ露外相は北方領土の交渉について「他国と同様に、日本が第2次大戦の結果を認める以外に道はない」と述べ、ロシアの不法占拠を理由に返還を要求し続ける日本側を絶えず牽制している。石油や天然ガスの欧州輸出で経済不振を脱却したプーチン前大統領は、日本資本導入による4島の産業振興から、中韓両国の経済協力にシフトする構えを見せていた。ロシアの政権与党「統一ロシア」は9月24日、プーチン首相が来年3月の次期大統領選に出馬し、メドベージェフ大統領は首相に就任することを決めたが、メ大統領は来年の再選を目指し、昨年11月には北方領土を視察、4島の実効支配強化とクルリ開発計画の推進で国民の支持を取り付けようとしていた。これに対し、菅前首相が「許し難い暴挙」と非難したため、大統領は意固地になって領土問題の決着は事実上先送りし、野田政権発足直後の11日、パトルシェフ安全保障会議書記を国後島と歯舞群島の水晶島に派遣、空港・港湾などや国境警備隊を視察させたが、高官派遣は依然続いている。               (以下次号)