第251回(9月16日)北方領土特集=LNG発電所建設を(5)
 「外交上手の露と無為に経過する時間が手強い相手。先行2島返還を含め柔軟対処を」というのが仲論文後半の抜粋だが、仲氏は「ロシアは北方4島について、第2次大戦中の軍事占領に基づき自国領になったと述べ、国際法上問題ないとの立場を取っている。戦争などの軍事行動によって占領された土地は、戦争中は占領国の施政権下に置かれ、最終的処理は戦後の講和条約会議で行われる」と指摘、北方領土の最大問題点は日露が戦後65年を過ぎても講和条約を結んでいないことを挙げている。日本が勝利した日清・日露戦争のケースでも、日本は相手国の父祖伝来の土地を占領したが、素早い講和条約会議で返還ないし併合などの最終合意を見た。仲氏は「講和条約の未締結を逆手にロシアが戦後一貫して北方領土を実効支配しているため、同国がこれを自国領と強引に主張する根拠が生まれている」と憂慮する。とはいえ、事態がもはや「引き返し不能点」に達したと見るのは早計だ。仲氏は露首脳の北方領土視察が国後島だけに止まっていることや、南クリール諸島の社会・経済開発計画も歯舞、色丹には及んでいない点から、「露政府は日本に対し、今が北方領土解決の最後の機会であるとのシグナルを送り続けている」と受け止めている。

統一経済・自由貿易圏が見返り
 その理由は、日本政府が平和条約締結に合意すれば、露政府は北方領土での自由貿易圏の構築という“見返り”を用意していることだ。仲氏によると、メドベージェフ大統領は昨年12月24日のテレビインタビューで、「統一経済圏や自由貿易圏の創設が考えられる」と述べ、「北方領土エリアに小さいながら特別な環境を作り、日本国民が来て歴史的な場所を訪れたり、働いたりすることが出来る」と付け加えた。これは北方領土に対するロシアの施政権は放棄しないが、経済的、社会的に緊密な日露の協力関係を、今後新たに構築できることを示唆したものだ。この場合、歯舞、色丹の2島だけ日本に返還するのか、4島全体をロシア領土に編入した上で、前記の協力関係を提案しているのかは明らかでなく、今後の交渉課題として残る――と仲氏は見ている。同氏が読んだ昨年12月18日の毎日によると、露の新聞「ベドモスチ」は「ロシアは国後、択捉の2島を維持できれば、太平洋と大陸棚にある豊富な漁場や鉱物へアクセスする出入り口が確保できるので歯舞、色丹を返還しても軍事・経済面でロシアの権益を損なうことはない」と論じたという。

中朝はパイプラインで駆け引き
それが、メ大統領の北方領土視察を機にロシアの態度が一変した。7月17日の「北方領土特集第1回では、背景には菅首相が大統領の北方視察を「許し難い暴挙と批判するなどの拙劣な外交が災いしている」と書いたが、ほかにも、来春の次期大統領選に再出馬を目指すメ大統領は、北方視察で4島の実効支配を国際的にアピールし、日本との経済協力がなくとも4島を開発出来ると誇示する狙いがあったようだ。露外務省報道官が「クリール諸島(北方領土)に対するロシアの主権を取り消すことはなく、疑う余地はない。平和条約交渉では日本が第2次世界大戦の結果を認めなくてはならない」と重ねて強調したのもこの頃だ。何かと既成事実を積み上げるロシアは、国後、択捉での水産加工施設の改良に中韓両国企業による投資の誘致に踏み切った。しかし、シベリアから中国東・西部に至るLNGパイプライン、ロシアの極東から北朝鮮を通じて韓国に至る同じ液化ガスパイプラインの建設計画を立てたが、中国との折衝は難航しており、北朝鮮も6月28日に拒否の意向を露側に伝え、金正日総書記の9年ぶりの訪露計画も一時中断されてしまった。これは中国の出方を睨んだ金総書記得意の外交テクニックによるもので、列車利用の金氏訪露は8月末に実現し、東シベリアのウランウデでメドベージェフ大統領と会談した結果、ロシア極東から北朝鮮を経て韓国に送るLNGパイプラインの敷設事業は実現の方向で合意した。

シェールガス噴出も交渉促進剤
このように中朝の外交駆け引きは活発だが、これに加え地中の岩盤層から噴き出すシェールガスが世界のエネルギー事情を変えつつある。7月18日の朝日は、米国内の埋蔵量は需要の30年分以上あると報じ、「欧州や中国でも大量に存在が確認され、英エネルギー大手BPによると、世界のシェールガス埋蔵量は旧来の天然ガスの2・4倍に達する」と伝えている。これでは北極海やサハリンなど極東部に無尽蔵なLNGの存在を誇り、強気になっていたロシアも軌道修正をせざるを得ない。東日本大震災後、ロシアは最大規模161人の救助隊や救援物資を送り、プーチン首相は電力不安を抱える日本へのLNG輸出などエネルギー支援策も打ち出した。日露のエネ支援協議も始まっている。これは、「平和条約では領土問題だけに焦点を当てるのは得策ではない。政治対話や経済、技術革新などの面で、日露が到達した多面的な協力の成果を盛り込むべきだ」という、従来からの「領土交渉と経済協力は“車の両輪”」とする基本方針に復帰する姿勢を示したものといえる。野田首相の就任挨拶電話にメ大統領は好意的に応えた。平和条約交渉の再開が期待される。

都が計画のLNG発電と連携も
これらは私の構想である「サハリンLNG発電所」建設にもってこいだ。ロシアも日露エネ協議で私と同様の電力供給海底ケーブル構想を提案するという。外務省サイドには「突如供給を打ち切られたらどうするか」との懸念もあるようだが、ロシアはウクライナ紛争でも平気で欧州向けLNGのパイプライン供給を制限した経緯があり、さほど警戒するには当たらない。むしろ、LNGの海上輸送はテロ行為や悪天候による座礁などで海洋汚染が心配され、海底送電線の方が安全だ。孫正義ソフトバンク社長はメガソーラー構想を掲げ、「再生可能エネルギー法案」成立の応援団として、黒岩祐治神奈川県知事ら35府県知事が参加した「自然エネルギー協議会」の事務局長に収まり、菅前首相の「脱原発」構想を強力に支援している。石原慎太郎東京都知事も当初は賛同したが、7月17日の記者会見で参加の意思を聞かれ、「ソーラー(発電)が一体どれくらいの時間、どれだけ(の発電量が)出来るか分かったもんじゃない。東京はもっと効率のいいことを考えている」と答え、都内に100万ボルトを生み出すLNG発電所の建設計画があることを示唆した。これはウラジオストクから船で新潟港などにLNGを輸入する考えらしい。LNG発電の狙いは共通だし、海上輸送と送電ケーブルの双方で電力供給を図れば万全だ。都とも調整を図りたい。
                         (以下次号)