第248回(8月1日)北方領土特集=LNG発電所建設を(2)
 7月16日更新の先号では日露の経済協力でサハリンにLNG火力発電所を建設する構想を述べたが、偶然にも、朝日は3日後の19日朝刊で「ロシアはサハリンと北海道に海底ケーブルを敷設し、電力を直接供給する壮大な構想を持つ」と報じた。不思議にも私の構想とぴったり一致する。朝日によると、日露両政府は7月末にモスクワで対日エネルギー支援の第1回作業部会を開いたが、中心議題はセーチン副首相の提案にあるという。セーチン氏は東日本大震災発生翌日の3月12日、プーチン首相に「極東には余剰電力がある」「最近極東に発電所が建設された」と述べ、日露間海底送電ケーブル構想の骨格を説明。10日後にセーチン氏が河野雅治駐露大使(当時)に申し出、作業部会創設の調整を進めていたそうだ。ロシア側は98年にもサハリンから北海道に電力を供給する「エネルギー・ブリッジ構想」を提案したが、海底ケーブル設置に約5500億円かかるとの試算もあり、採算性の面から放置されてきたという。だが、「脱原発」論議が高まる中で、太陽光など再生可能エネルギー以上にLNG発電の重要性が注目されている。先号で述べたが、日本は効率的な海底ケーブル敷設の実績がある。是非とも日露エネ協議に私の構想を反映させたい。

シベリア開発軸に平和条約交渉
  そもそも日露間の北方領土交渉は、日本がシベリア開発に協力することを軸に平和条約締結交渉が進められてきた。交渉のヤマ場はエリツィン元大統領と橋本龍太郎元首相の首脳会談でまとめた「東京宣言」に遡る。日本の鳩山一郎元首相、河野元農相ら全権代表が旧ソ連との国交再開を取り決めたのは1956年(昭和31年)だ。日ソ共同宣言では、ソ連が「4島のうち歯舞、色丹の2島返還で正式の平和条約を結ぶ用意がある」と初めて表明、領土交渉は始まった。後の「東京宣言」で橋本首相を支えたのは丹波実外務審議官と東郷和彦欧亜局長。丹波氏は5月24日の読売コラムに投稿、「1855年の日露和親、75年の樺太千島交換の2条約は北方4島が18島の千島列島に含まれないと明記している。日本はサンフランシスコ平和条約(吉田茂政権時代)で千島列島を放棄したがこの中に4島は入っていない。当時のソ連は桑港平和条約の当事者でなく、4島はおろか条約論的に言えば千島列島・南樺太の保有についてすら国際法上の根拠はまったくない」と断じている。

エリツィン東京宣言の原点に戻れ
 確かに南樺太(南サハリン)と北方4島は8月15日の停戦後9月5日までに旧ソ連が無血占領し、実行支配してきたもので、昔から日本固有の領土である。丹波氏によれば、エリツィン元大統領は1993年の訪日の際、上記の歴史的、法的事実、「法と正義」に立脚して4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結するとの歴史的合意に署名した。さらに橋本首相との97年のクラスノヤルスク会談、翌年の川奈会談を通じ、2000年までに「東京宣言」に基づき平和条約締結に全力を挙げると合意した。領土交渉はこの原点に戻らなければならない。丹波氏は読売コラムで「重要なのは、この時代を通じ、日本が4島返還を求めるのは歴史を通じて正義を実現するためであることを忘れ、2島返還論、2・5島論、3・5島論、面積折半論、2+αなど、バナナのたたき売り的外交をやってきたことである」と嘆いた。丹波氏は生まれ故郷・旧樺太の引揚者だけに4島全面返還の思い入れは人一倍強い。だが、4島で生まれ育ったロシア人にとっても4島は生涯の故郷である。領土復帰後も島で豊かな暮らしが出来るよう、2重国籍を与え産業の動脈である電力網を4島に張り巡らし、島民が自立する道を確保しなければならないと、私は考えている。

環境破壊大とサハリン2を中止
 エリツィン氏は健康が悪化、経済・金融が破綻したことで、冷戦構造が崩壊、旧ソ連邦は解体して、大統領職は腹心のプーチン氏に引き継がれた。プーチン前大統領も01年のイルクーツクでの森喜朗元首相、その後の麻生太郎元首相との首脳会談で、「北方4島の日本帰属を確認したうえ、平和条約を締結する基本方針」が一応は踏襲された。だがプーチン氏は石油・天然ガスの欧州輸出で経済危機を脱却、政府系の「ガスプロム」を世界最大手の会社に育て上げた。89年に設立された同社の前身はソ連ガス工業省で、株式の過半数を政府が保有している。社長は68年からメドベージェフ氏(現大統領)が務めていた。ロシアは天然ガスの開発にサハリン(旧樺太)2プロジェクトを推進、これには当初からシェル石油、三井物産、三菱商事が出資していた。ところが、プーチン氏はウクライナとの紛争で欧州向けパイプライン輸送に支障が来したため、06年に「パイプライン建設に伴う環境破壊が大きい」などの理由で、サハリン2プロジェクトの開発中止を宣言した。


中ロ会談難航でサハリン2復活
 これに猛反発した三菱商事など3社は出資比率を下げたが、ロシアの本当の狙いはガスプロム社にもサハリン2の経営に参加させるのが目的だった。結局、同年末にガスフロム社は74億5千万ドルで開発会社のサハリン・エナージ社株を52%超買収し、決着した。その後、ガスフロムは、欧州のガス輸入を30年に4400億立法メートルまで増えると予測、ロシアから欧州への供給は現在の約1400億立方メートルから30年には2100億立方メートルまで増えると見通している。しかし、中国はカザフスタンなど中央アジアと中国国境を結ぶ石油・天然ガスのパイプライン協力を加速させており、ロシアとは西シベリアから大慶油田など中国西部へのガス供給計画を検討してきたが、6月16日の中ロ首脳会談でも価格交渉が折り合わず、決着できなかった。ロシアはウクライナ紛争や中東の政情不安もあり、パイプライン輸送の将来に懸念を感じ始めているようだ。総事業費200億ドルのサハリン2プロジェクトは、日本のガス需要の10%超を賄う見込みだ。三菱商事など3社は資本主義社会にはあり得ない「社会主義的治外法権」を受け入れざるを得ず「事業の凍結」に合意していたが、プーチン首相が3月、「サハリンの資源開発を促進し対日輸出を拡大したい」と発言したことでサハリン開発案が再開されると感じている。

LNG発電が領土解決の糸口へ
 このように、プーチン首相が東日本大震災の支援策として、「サハリン資源開発の促進」を打ち出し、態度を軟化させたことで、私は領土問題進展のチャンスが到来したと受け止めている。サハリンに日露協力のもとに近代的なLNG発電所を建設、海底に敷設し地中に埋設する配送電線で日本およびロシアの本土と北方領土に電力を供給、島民にも喜ばれる経済協力を復活して、領土問題解決の糸口を見出したいと考え、サハリンLNG発電所の構想を固めた次第だ。                   (以下次号)