第246回(7月1日)論議呼ぶ分都、遷都、展都、道州制(5=完)
  経済アナリストの森永卓郎獨協大教授は首都機能移転派で、移転先に福島市を挙げている。理由は1992年に「国会等移転法」が成立後、様々な検討が審議会でなされ、「栃木・福島地域」が最終候補地の1つにされていたからだ。森永氏は4月26日の朝日で、「計画では国会と中央官庁が移転する新都市には56万人が定住する。国会や中央官庁が福島で仕事をするようになれば、安全性を世界にアピールできるから、いま日本が受けている風評被害を大きく減らせる。被災者が故郷に戻れるまでの安定した雇用も十分に生み出せる。何よりも福島原発で起こした政府の重大なミスへの謝罪となる」と述べている。首都機能移転のコストについて、同氏は「政府の試算では12兆円だが、東京都が再計算したコストは20兆円。これに震災被害額を加えると36兆~45兆円、つまり税収の1年分くらいの復興費用が掛かる」と見て、「菅首相の期間限定の消費税引き上げでは本格復興にはとても足りない。国債の日銀引き受けか、無利子無記名の国債発行によって復興資金を調達すれば財政の破綻はない」と語り、荻原氏の「日銀引き受けの“禁じ手”」に賛成している。

東北人の英知集め復興庁設置を
 また、岩手県知事を3期務めた増田寛也元総務相は、読売の識者インタビュー(4月)で、「関東大震災後の帝都復興院などに倣い、復興は省ごとに別れて実施するのではなく、中心となる東北復興院のような国の組織が必要になる。『国土の創生』という観点で、復興のデザインは県を超えて東北各県知事が集まり、自発的に描くことから始める。戦後の戦災復興院や帝都復興院では国が上から描いた。国が枠組みを作ると国の指導権や監督権が入って来る。東北人の力で英知を集めて描くべきだ。復興院(新設されるのは復興庁)には地方自治体職員や民間人も多数入れるべきだ。市町村合併が必要なら大いにやればよい」と述べ、首都機能移転の「分都」から始め、やがては道州制を志向している。三陸から福島、茨城、千葉に至る太平洋沿岸は豊かな海産資源に恵まれ、漁港、市場、加工場、住宅が一体化していた。そこを1千年ぶりの巨大津波が襲い、岩手、宮城、福島など6県で耕地面積の2・6%、2万3600ヘクタール(東京ドーム5千個分)が潮を被った。国会等移転調査会がかつて答申で挙げた、9千ヘクタールの広さどころの比ではない。

復興構想会議が漁業「特区」構想
 東日本大震災の本格復興イメージを練ってきた復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大校長)は6月25日、復興財源確保の増税や、水産業再生へ民間参入を促す「特区」の導入などを盛り込んだ提言をまとめ、菅首相に答申した。提言は①復興債を発行した場合の財源措置は所得税など基幹税増税を中心に多角的に検討②災害時の被害を最小化する「減災」の考えを重視、住居の高台移転、平地では避難路、避難ビルを整備③再生可能エネルギーの導入を促進し、原発事故の福島を「先駆けの地」として被災地の利用拡大――などが骨子で、復興対策本部(本部長・菅首相)は7月中に復興の基本方針を盛り込んだ第3次補正予算案を編成する。「特区」は区域、期間を限定し、規制緩和の特例、手続き簡素化などの支援措置を一元的、迅速に行うものだ。広大な三陸海岸は一瞬のうちに瓦礫の平野と化した。水産行政と深く関わってきた私は、一刻も早い復興を願わずにいられない。

三陸沿岸は高級ブランドの宝庫
 前号のHPでも述べたが、気仙沼のフカヒレが中国で珍重がられているように、三陸の沿岸はカキ、ホタテ、ホヤ、アワビなど高級ブランド食材の宝庫。漁業を「特区」で再興すれば国際競争力抜群の水産業集積地になる。米、リンゴ、サクランボ、イチゴなど同じくブランド力のある農産物の名産地でもあり、東北は食料供給基地だ。また、トヨタ関連会社の被災で世界の自動車生産が影響を受けたように、東北はサプライチェーンの中心地。車両、船舶用綱板、エンジン、半導体、家電・光学部品など、新日鉄、東芝、ソニーなど大手の下請け素材メーカーが多い。ここに徹底的な防災や省エネを施した都市機能と集合住宅を中心部に集約する「コンパクトシティー」を建設するのが望ましい。特に東北は高齢者が多く農漁村の担い手が不足している。農漁業の工業化・近代化で新たな雇用を生み出し、高度な高齢者医療の集積地を作るなど未来都市のモデルにすることも可能だ。

仙台で国会開けと橋本氏提言
 復興構想会議メンバーの橋本五郎読売特別編集委員は6月11日のコラムで「第2次補正予算案を審議するための国会を仙台で開くべし」と提言した。橋本氏によると、国会を東京以外で開いたのは121年の議会史上、わずか1度だけ。1894年8月1日、日清戦争が宣戦布告され、9月13日に大本営が広島に移された。明治天皇は10月15日から1週間、広島で国会を開く詔勅を発した。非常時に地方で開催した国会を今回仙台で開く意味について、同氏は①国権の最高機関が被災現場で復興論議をすることは被災者への激励メッセージになると同時に、政争へのブレーキになる②国会議員、秘書、各省庁職員、マスコミの一定期間移動で首都圏の節電効果が上がる③観光客の呼び水となり観光対策上期待できる④首都機能の分散・移転を考える機会になる――と述べている。私も同感だ。復旧、復興と言うより日本をリセットするくらいの気持ちで再生しなければならない。そのためには、自民党案を丸飲みして成立した復興基本法に基づき、関東大震災時に設置された震災復興院と同様、「復興庁」を早急に法制化し、現地対策本部(仙台)に中枢官庁の組織を復興するまで短期間移転、駐留国家公務員が農水産物を地産地消すれば、地元の経済は活性化される。東北新幹線を活用するなら仙台は往復4時間の日帰り距離。臨時国会を仙台で開催しても大して苦にはなるまい。分都、道州制なども真剣に考える時だ。(完)