第241回(4月16日)漁村再生に小型漁船 裏表日本2ルートで
 黒潮(暖流)と親潮(寒流)がぶつかる世界有数の三陸沖漁場。ウニ、ホタテ、昆布、ワカメの磯漁業。大津波は東北6県の基幹産業である水産業に壊滅的打撃を与えた。しかも、東電福島原発の爆発事故はセシウムなど放射性物質の汚染水を海洋に撒き散らし、市場が茨城県沖で採れた魚類の受け取りを拒否するなど二次被害が拡大。それが風評被害を呼んで国内の魚消費が落ち込むばかりか、海外輸出もストップするなど恐慌を来している。野菜と違って、海面でヨウ素131などに汚染されたプランクトンをコウナゴ、イワシなど浮遊魚が餌にし、それをカツオ、サバ、サンマなど回遊魚が食べ、さらにマグロ、鯨類など大型魚が補食する食物連鎖の過程で放射性物質は蓄積され、世界の外洋に拡散される。国際的犯罪だ。大津波は漁村の家屋や倉庫、ウニ、ホタテの筏や作業小屋、加工所などを呑み込み、小型漁船は約2万5千隻が大破、流失した。漁船がなければ漁村の再生はない。私は全国の不要不急な小型船舶を大至急集め、修理を要する船は長崎・佐世保港などで補修し長崎を出発点に日本海と太平洋の2ルートから被災地に送る案を考えた。全国漁協組連合会(服部郁弘会長)などの協力を得、3月末、事務次官会議を通じ政府に働きかけた。

大破・流失で2万5千隻被害
 東北地方は1896年(明治29年)と1933年(昭和8年)の津波でも甚大な被害を受けたが、今回はそれを遙かに越している。水産庁の調べだと岩手県で111,宮城県で142ある漁港の全てが壊滅的被害を受けた。高さ5~10メートル、局地的に38メートルの記録を残したと言う大津波は、最近判明した平安時代の貞観津波(869年)以来1150年ぶりの惨禍だ。岩手県内24漁協約の1万4200隻の漁船のうち、被害を受けずに残っているのは4%に満たない500隻余。被害が大きかった南部の大船渡市内4漁協で約35隻程度、陸前高田市内でも約40隻しか残っていないという。宮城県では沿岸を中心に操業している20トン未満の小型漁船約1万3千隻の9割が大破・流失し、被害額は約1千億円に上ると県は算出した。東北全体では約2万5千隻の被害が出たと見られるが、漁船保険の支払い対象は岩手、宮城両県を中心に1~2万隻に達する見通し。保険金支払額は1千億円規模との見方が出ているが、漁船保険組合の支払い能力を超える部分は、国の準備金で賄う仕組みになっており、政府は一般会計から数百億円規模の追加支出を迫られそうだ。

漁連会長が東電に激怒の抗議文
 「漁業関係者に何の相談もなく、汚染水を海に放出する暴挙に出た。我々を無視した放出は許せない」――。激怒した服部全国漁協組連会長は6日、東電本店に勝俣恒久会長を訪ね、漁業関係者の被害額全てを国と東電の責任で補償すべきだ、と抗議文を突きつけた。大津波被害に加え東電が4日夜から高濃度の放射能汚染水の保管場所を確保するため、低レベルと称する放射能汚染水1・15万トンを海に放出開始したからだ。北茨城市の平潟漁協が同日、同市の沖合で採ったコウナゴから放射性ヨウ素が検出され、市場での受け取りを拒否されたばかり。セシウムなど汚染水のほか福島第1原発の敷地からは半減期が極めて長く毒性の強いプルトニウムが微量検出されている。服部会長は経産省の松下忠洋副大臣にも「漁に行けない。釣った魚も値が付かない。海外輸出まで止まってしまい、どこまで被害が広がるか分からない」と窮状を訴えた。漁師の海での生活は東電に奪われた。

船外機つき小型船を全国調達
 小型漁船は東北の沿岸漁業やアワビ、ウニ漁、ワカメの養殖に使われていたものだ。これが手に入れば再生の出発点になる。伝馬船のような5~10トンでもエンジンの船外機が付いた小型漁船があればよい。不要不急の小型漁船は全国の漁港に眠っているはずだ。そこで私は、森進一の「港町ブルース」ではないが、佐世保を起点に壱岐・対馬を含む長崎県内、佐賀、山口、島根と裏日本のセコハン小型漁船を集めて回り、江戸時代の「北前船」の逆コースで津軽海峡を通り青森・八戸港で降ろす日本海ルート。熊本、鹿児島、高知、和歌山、静岡などで回収して茨城・小名浜港に降ろす太平洋ルートを設定。集めた小型漁船を貨物船か、海保、海上自衛隊の艦船を利用して被災地に運ぶよう、水産庁の佐藤正典長官、宮原正典次長、防衛省の中江公人事務次官に要請。3月末の各府省連絡会議(旧事務次官会議)で対策を協議して貰った。また、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)の小型船舶、レジャーボートなどを普及させている社団法人・日本舟艇工業会(梶川隆会長)の幹部と会って、各地の会員各社に①数トン未満の小型漁船の増産と修理②セコハン漁船の回収③大破した漁船から重油汚染などの被害が出ない廃棄処分――などに協力するよう依頼した。小型船舶の調達・修理には1隻最低10万円程度かかるので、日本財団(笹川陽平会長)にも協力をお願いしたが、既に100億円の融資枠が準備されていた。私が2度に渡り自民党の水産部会長を務めた時には、小型漁船が消費する重油を非課税扱いとするよう政府に働きかけたが、財政当局は漁船使用と一般使用の区別がつかないと難色を示した。今回は未曾有の災害である。この方も何とか実現させたい。被災地の漁業者の皆さんには、乞うご期待である。
      (注)大震災の本稿を挟んだため、「水危機」シリーズの2回目は次回以降に掲載します。