第240回(4月1日)水危機=中国の山林買収・水ビジネス(上)
 ヨウ素131の規制値を超えた水を飲み続けると子どもは甲状腺癌にかかる。セシウム137の規制値を超えた野菜を食べ続けると30年も体内に蓄積され癌になる――これは旧ソ連のチェノブイリ原発事故が残した教訓だ。大震災福島原発の事故もまた、放射性物質を2週間も撒き散らし、東北、関東の水・原乳・野菜を汚染した。世界に誇る水資源が危機的状態だ。しかし、その水が今、中国から狙われている。3回に分けて特集した。中国の不透明な軍備拡充に加え、不気味なのは中国富裕層など外国資本による日本の山林買収だ。山林ばかりか価格下落の別荘地帯にまで侵食、72年に武装連合赤軍が立てこもった長野県軽井沢町の「浅間山荘」が中国系企業に買い取られていることが2月末に分かった。月刊雑誌「WEDGE」2月号には、東京財団の加藤秀樹理事長と吉原祥子研究員共著の「山林買収の実態」が掲載されている。「戦後社会は、倫理をも含めて土地問題によって崩壊するだろう」――との司馬遼太郎の警鐘を冒頭に引用した論文を要約してみよう。

五島・福江島にも上海視察団
 <2010年2月、長崎県五島列島の福江島に上海資本の視察団が現れた。同島は上海から最短距離。一行は五島市長へ表敬訪問を行い、林業経営や別荘地開発等に関心を示した。周到な計画で今も地元との交渉を続けている。鹿児島県奄美大島の一角でも、国際的な開運会社グループが住民の2度の猛烈な反対運動にも関わらず、既に1億6千万円で山林買収とチップ工場の建設を始めている。北海道が全国初の実態調査を行った結果、外国資本所有の林地は33カ所、計820ヘクタール。うち3カ所109Hは自衛隊駐屯地から約3キロ内に位置する。所有企業・個人の所有地は香港が12社と最も多い。道内には不明地主も少なくない。森林保有企業2141社に調査票を郵送したら、全体の4割を超える913社分(計1・4万H)が「宛先不明」で戻ってきた。所有者特定の困難な森林が2・5万Hあり、合計3・9万Hが地主不明森林だ。日本は資源のない国だといわれる。

東京財団が森林地籍確定を提言
 だが、国土の67%を森林が占め、水や空気、土壌といった生存基盤としての21世紀型資源に関しては世界指折りだ。長引く林業低迷で19年連続の地価下落が続く日本の山は、グローバルな資源争奪戦で見れば「買い」なのだ>――として東京財団は①森林の地籍確定②森林売買の取り引き市場創設と透明化③森林の売買、用途にかかる規制と公有林化――の政策を提言している。地籍の把握は49%しか行われず、16世紀末の「太閤検地」時点と変わらないと言う。林業不況で資産価値の下落した山林は、相続時の扱いも曖昧なまま放置されることも多く、登記簿の名義変更漏れも珍しくない。世間に騒がれたくないからとダミー名義を使って買収すれば、実際の所有者特定はさらに困難なようだ。論文は、「今後、林業低迷や高齢化を背景に、山を管理しきれなくなった所有者が山林を手放すケースが増え続ける」と警告している。

規制なく強い土地所有権持てる
 さらに<土地は基本的に公共財であり、公益的な利用のためのルール整備が不可欠だ。英国の土地所有権は利用権に近く、最終処分権は政府が持つとされる。フランスや米国には公的機関による強い先買権や優先的領有権が存在する。これに対し、日本では明治の地租改正以来、最終処分権まで含む極めて強い所有権が土地所有者に認められ、地権者の合意が得られず、成田空港のようにいつまでも空港や道路が完成しない事例が数多くあって、行政の土地収容権は効率的に機能していない。土地の開発も規制は緩い。森林の場合、保安林を除けばかなり自由に開発が出来1H未満の開発なら特段の規制はない。保安林でも地下水の取水や転売の観点からの規制はない。近隣アジア諸国は外国人の土地所有について、エリア限定や事前認可制とするなど制限を課しているが、日本はそうした規制がなく誰でも強い土地所有権が持て、投資は自由だ>――と詳細に述べている。日本人は「湯水のごとく」との表現で、古来から豊かに流れ、湧き出る清水を贅沢三昧に使ってきた。だが、豊かな水が放射線に汚染され、他国に狙われ、安全保障まで脅かされるような今日では、東京財団が提起したような森林の売買、用途規制は必要だ。国会で検討してみたい。  (以下次号)