第239回(3月16日)亀裂深めた北方領土(下)4島の軍事増強
  北方領土で注目されるのは2月4日、セルジュコフ国防相が択捉、国後両島を訪問、色丹島もヘリで上空から視察し、「今年からの新たな国家軍事計画に基づき、駐留部隊の装備更新も進める」と述べたことだ。メドベージェフ大統領も同日、モスクワ郊外で開いた安全保障会議で、昨年11月の自らの北方領土訪問について、「このロシアの遠方の地に、より我々の注意を向けるためだった。生活向上に向けた投資促進などを狙った行動だ」と述べるとともに、「軍事的重要性からもこの地域の発展が必要だ」との考えを示した。外務省は同日、こうした前原前外相の訪露前に示されたロシア側の一連の動きについて、ベールイ駐日露大使を外務省に呼び、「外相がこれから日露関係で領土問題の解決を含め発展させようという時に、こういう4島訪問は両首脳間の合意にそぐわないし、冷や水を浴びせるものだ」と厳重抗議した。これに対し、メ大統領は9日、セ国防相らと会い、「北方領土はロシアが主権を持つ領土だ。軍事力は必要で十分、かつ現代的でなければならない。ロシアの一部として不可分の島々の安全を保障し、戦略的プレゼンスを強化するため、あらゆる努力をする」と述べ、北方領土の実行支配を軍事・経済両面で一層強めていくことを宣言。イタル・タス通信は同夜、「大統領は事実上、領土問題を巡る日本との今後の対話を閉じた」と報じた。こうした対立が日露間に険悪な空気を醸し、外相会談は亀裂が生じた。

4島の実行支配強くアピール
 ロシアは北方領土交渉を前に、駐留部隊増強を打ち出し、4島の実行支配を強くアピールした。朝日は2月10日、露国防省筋が9日、国全体の兵員削減など軍改革を進める中で、北方領土では駐留部隊は規模を維持し、装備更新を進めると強調。駐留地のインフラ整備にも資金投入すると述べ、極東を拠点とする太平洋艦隊に将来配備予定の仏ミストラル級強襲揚陸艦について、「南クリル(北方領土)の防衛にも使われる」ことを明らかにした――と報じている。読売もまた2月12日、あらまし次のように報じた。<インターファクス通信によると露軍のマカロフ参謀総長は11日、北方領土を含む千島列島に新しいタイプの駐留部隊を創設すると明らかにした。10日には国防省筋が、北方領土に駐留する機関銃砲兵師団の装備を近代化し、自動車化歩兵旅団に改編すると明らかにした。…軍事専門家はより新型の戦車や対艦ミサイル、射程30キロ程度の防空システムが新たに配備されると指摘する。国後島には900人、択捉島には約1000人の兵士が駐留するが、装備の更新が遅れ「戦闘部隊と呼べない状態」という。部隊の増強は、長距離核ミサイルを搭載するボレイ級戦略原潜の太平洋艦隊への配備に連動しているという。同艦隊には、公海で活動する戦略原潜を守る攻撃型原潜や水上艦が不足している。北方領土と千島列島に囲まれたオホーツク海は当面、最新型原潜の「唯一安全地帯」となる(以下略)>

北方の駐留部隊増強案提出
 朝・読両紙の報道を総合しても、メ大統領の指示を受けたセルジュコフ露国防相は2月末に北方領土の露軍増強策の策定を終えている。3月2日の各紙は、ロシア軍参謀本部が1日、北方領土に駐留する軍部隊の増強計画案をまとめてセ国防相に提出した、と報じた。これは同本部の高官がインターファクス通信に伝えたもの。それによると、北方領土と千島列島からなるクリル諸島の沿岸に、超音速の対艦巡航ミサイル「ヤホント」を装備した移動式ミサイルシステム「パスチオン」や、防空ミサイルシステム「トールM2」、対戦車攻撃ヘリ「ミル28」の配備などが盛り込まれている。ヤホントは音速で飛行し、射程300キロで重さ200キロ以上の弾頭を運べる。千島列島の主要軍事拠点は択捉、国後両島にあり、両島に配備されれば北海道の一部が射程に入る。トールM2は同時に4発の対空ミサイルを4つの標的に向けて発射でき、旧来型に比べ2倍の性能を持つとされる。メ大統領は2月、北方4島の実効支配を軍事面でも強化していくと明言している。

本土並み最新鋭兵器を整備
 北方領土での軍事増強について、読売は「老朽化が指摘された兵器を『ロシア本土並み』のレベルに引き上げるもので、領土問題で関係が悪化した日本に対し、軍事的な実効支配を誇示する政治的メッセージがあるとの見方が強い」と解説している。共同通信もまた、「ポポフキン国防次官は現地に最新鋭の装備が配備されると説明。またマカロフ参謀総長はフランスと共同建造するミストラル級強襲揚陸艦4隻のうち、少なくとも1隻が極東に配属され、北方領土の防衛も任務に含まれると述べるなど、ロシア国防省内では装備近代化による北方領土での軍備増強が検討されていた」と報じた。択捉島には3400メートルの滑走路を持つ飛行場を建設する計画があるという。冷戦時代ならいざ知らず、日本を仮想敵国に見立てるようなこれら軍事施設の建設を日本は容認してはならない。メ大統領は2月9日、北方領土を含む千島列島を「我が国の戦略的地域」と述べ、現地での軍備増強を指示、恐らく軍事面も含まれるインフラ整備について、「協力を侮辱的だと考えない国々と協力する用意がある」と述べ、中国や韓国と協力関係を深める考えを示している。

北方領土の対話を閉じる姿勢
 前原前外相は訪露前の2月10日、記者会見で「ロシアによる占拠は国際法上、根拠がない。北方領土に露政府の要人が何人行こうが、誰が行こうが軍事的なプレゼンスを強めようが弱めようが、国際法的に日本の固有の領土だ。我々の意思は微動だにしない」と反論。日露の対立はHPの(上)号で述べた通り、外相会談前から既にエスカレートしていった。もとはといえば、首相が2月7日の「北方領土の日」に、本来なら「極めて遺憾」で済ますべきところ、「「許し難い暴挙」と発言し、ロシア側を刺激したことに日露の亀裂は深まった。「暴挙」はロシア語で「なんて乱暴な!」のニュアンスで、夫婦喧嘩によく使われる言葉だ。さらに東京のロシア大使館前で右翼の活動家が行ったとされる「国旗侮辱」が輪を掛けた。名誉に敏感なロシア国民は、直ちにモスクワの日本大使館前で「日の丸」を焼き、反撃した。前述の通りメ大統領は昨年11月に北方領土に足を踏み入れ、実行支配を軍事・経済両面で強めると宣言。大統領府高官も「ロシアの主権は将来も見直さない」と明言、北方領土の対話を閉じる姿勢を示した。

中国も海洋権益守り国防費増
 中国全人大(国会に相当)の李肇星報道官は4日、11年の国防予算案が前年実績比12・7%増の6011億元(約7兆5千億円)になることを明らかにした。昨年秋から何度もこのHPで取り上げたが、中国は東シナ海や南シナ海での海洋資源権益を守るため、空母の建造、ハイテク兵器の整備など「海洋強国」を目指し国防予算を増やしてきた。中国軍は昨年、南シナ海一帯で爆撃機や対艦ミサイルも使った大規模な海上演習や、他国が実行支配している島への上陸訓練を繰り返した。中国海洋石油(国有企業)幹部は8日、東シナ海ガス田「白樺」(中国名・春暁)が「生産段階」に入ったことを明らかにした。尖閣諸島の危機はさらに深まっている。その最中、日米、日中、日露関係の「修復外交」を唱えてきた前原外相が辞任した。中露両国は東日本大震災を見舞い、直ちに救援隊を送ってくれた。両国の友好的行為には日本国民も感謝しよう。だが、島嶼の防衛、資源問題は重要だ。私が委員長の衆院沖縄・北方問題特別委では、これらの問題について徹底的に対応策を検討しなければならないと考えている。5月下旬に取り上げる次回のシリーズでは「北方領土は第2次世界大戦の結果として旧ソ連に移った」とするロシアの主張を分析したい。