第238回(3月1日)亀裂深めた北方領土(上)日露外相会談険悪
  北方領土を巡り日露関係は、急激に亀裂を深めている。前原誠司外相は2月11,12の2日間、モスクワを訪問し日露外相会談を開いたが、双方が険悪なムードで従来の主張を述べ合っただけで解決の見通しは立たず、辛うじて今後ハイレベルの協議継続で合意したのに過ぎなかった。菅首相が「北方領土の日」の7日、メドベージェフ大統領の北方領土視察を「許し難い暴挙」と批判したのに対し、ロシア側が態度を硬化させたものだ。しかし、実質は普天間基地移設の迷走で日米同盟がぎくしゃくし、尖閣諸島問題で日中関係がこじれるなど、民主党政権の拙劣・弱腰外交を見て攻勢を仕掛けてきたと言える。特に、12年の大統領選をプーチン首相と争うメ大統領は、北方4島を「ロシアが主権を持つ領土」と強調することで求心力を高めようとしている。冷戦時代の旧ソ連と違って、ロシアは石油・天然ガス資源の開発で経済を急速に回復。領土交渉の鍵であったシベリア開発への日本協力はさほど必要ではなくなってきた。むしろ、ベ大統領は北方領土のインフラ整備について、中国や韓国など新興国との協力関係に舵を切り替えつつある。関係筋は露中韓の水産業者がナマコ養殖などで合弁事業の協議に入ったと伝えている。日本はどう対応すべきか。私が委員長の衆院沖縄・北方問題特別委では多角的、戦略的な討議が必要だ。

協議継続したが議論は平行線
 「会談はより良好な雰囲気の中で行いたかったが、残念ながらそうではない。受け入れ難い行為があったからだ」――。ラブロフ露外相は1時間50分に渡る会談の冒頭、握手も求めずこう切り出した。7日の北方領土返還要求全国大会で菅首相が昨年11月のベ大統領の北方領土視察を、「許し難い暴挙」と批判したことに抗議したものだ。さらに、東京の露大使館前で右翼団体がロシアの国旗を侮辱したとされる行為に、「過激派のアプローチが圧倒的になる状況で、日本政府も同調していることは、平和条約問題の解決には全く役立たない」と高飛車に出、「領土問題は前提無し、一方的な歴史的結びつけ無しで進める必要がある」とし、歴史専門家による委員会設置を提案した。これに対し、前原外相は「歴史的、国際法的に日本固有の領土である。両国の立場の違いはあるが、これまで合意された諸文書と法と正義に基づいて協議を継続していく」と主張、「歴史専門家委の話は過去にもあったが、有益なものか疑問だ」と否定的考えを示した。共同会見でも、ラブロフ氏が「(北方領土への)中国、韓国の投資を待っている」と呼びかけたのに対し、前原氏は「(日本領土への)他国からの投資はわが国の基本的な立場と全く相容れない」と反発。日露の北方領土での経済協力は、「日本の法的立場を害さないのが前提だ」としたうえで「今後ハイレベルの実務者協議で討議していく」と述べ、最後は「議論は平行線を辿った」とわざわざ強調、共同会見までとげとげしい雰囲気に包まれた。

ホタテ養殖など中韓と合弁事業
 このように外相会談は、日本側が1993年の東京宣言など「これまでの合意文書と法と正義」に基づき解決策を探ろうとしたのに対し、露側は「前提無し、歴史的結びつき無し」に交渉しようとして議論は噛み合わず、継続協議のみが成果という寂しい結果に終わった。一方、外相会議後の貿易経済政府間委員会では、日露経済協力の官民による新たな「円卓会議」の設置で合意した。しかし、南クリル管区のオレグ・グセフ区長は15日、国後島の地元業者が2月初め、中国の水産業者を同島に招き、ナマコやホタテ養殖の合弁事業を協議、覚え書きに署名したことを明らかにした。露連邦漁業庁も同日、中国との合弁計画を認めたほか、「韓国とは択捉、国後両島の水産加工施設改良に向け、投資を受ける交渉が進んでいる」ことを明示した。ロシアは日本の政権交代以降、民主党政権の拙劣外交を見透かすように、北方領土の取り組み姿勢を変えている。露政府は昨年、日本が65年前に連合国への降伏文書に署名した9月2日を第2次世界大戦終結の日として、新たに国の記念日に指定した。次いで尖閣諸島事件が起きた直後の9月27日にはメ大統領と中国の胡錦濤国家主席が北京で会談し、「第2次大戦終結65周年に関する共同声明」を発表した。メ大統領はさらに11月1日、ソ連時代を含め最高指導者として初めて国後島を訪問し、ロシアが北方領土を戦後一貫して「実行支配」している状況を国際社会に誇示した。

北方開発に8百億円投資計画
 その後は12月13日、シュワロフ第1副首相が国後、択捉両党を訪問。メ大統領の依頼で、インフラ整備の現状を視察。同月24日にはメ大統領がテレビ対談で北方領土について「我々の土地だ。しかし、自由貿易ゾーンなど共同経済開発の用意がある」と発言。今年に入ってからも1月20~21日、ブルガコフ国防次官が国後、択捉両島を訪問。同31~2月1日、バサルギン地域発展相をトップとする各省庁代表団が同じく両島を訪問、インフラ整備状況を点検した。朝日によると、2月9日に大統領と会談したバサルギン発展相は、北方領土開発に約180億ルーブル(約500億円)を見込む「クリル諸島社会経済発展計画(2007~15年)」について、さらに130億ルーブル(約360億円)の追加投資が必要だと指摘。空港や道路整備、発電や通信、住宅建設、水産振興を優先課題に挙げた、という。1月16日号のHPで紹介した通り、これらの視察はメ大統領の肝煎りで始めた、社会資本拡充と観光地開発を謳った「クリル計画」の着実な履行を目指し、インフラ建設を促進しようとするものだ。(以下次号)