第235回(1月16日)離島揺るがす問題(上)北方漁業で「裏金」
 昨年暮れから正月にかけ、北方領土、尖閣諸島に関する報道が紙面を賑わした。読売が取り上げた漁業4社がロシアに裏金5億円を漁獲超過の黙認料として提供したという記事と、朝日が報じた中国軍が南シナ海で離島上陸計画を立案中という記事がそれだ。露大統領の北方領土視察や尖閣諸島の中国漁船衝突事件は、沖縄普天間基地移設を巡る迷走で日米同盟がぎくしゃくする中、民主党政権の外交劣化の隙に乗じて中露に切り込まれたものだが、この2つの報道も北方領土を不法占拠しているロシアの横暴と、同様に尖閣諸島の実行支配を狙う中国の謀略が透けて見え、放置できない問題だ。超党派の「国家主権と国益を守る行動議連」は通常国会に「国境離島振興法案」を提出する準備を進めているが、同法案を扱うのは私が委員長を務める衆院沖縄・北方問題特別委員会になりそうだ。我が国の領土・主権と離島住民の生命・財産を守るために大いに議論を重ねたいと考えている。

漁業4社が露に賄賂5億円
 読売が12月26日に載せた記事は、北方領土周辺を含むロシアの排他的経済水域(EEZ)内でスケトウダラ漁を行う漁業会社4社が、09年までの3年間で、ロシア国境警備局係官などへ計約5億円を提供し、この経理処理を仮装・隠蔽していたとして、国税当局から所得隠しを指摘されていた、というもの。札幌、仙台両国税局から指摘されたのは、「稚内海洋」(北海道稚内市)、「金井漁業」(釧路市)、「開洋漁業」(青森県八戸市)、「佐藤漁業」(宮城県塩釜市)で重加算税を含む追徴税額は計約1億5千万円。佐藤漁業は赤字のため、重加算税を課せられなかった。4社は国税当局に対し、「日露漁業交渉の枠を越えた漁獲量を容認して貰うため」漁船に乗り込んでいるロシア国境警備局の係官に船内で現金を渡していたなどと説明した。同交渉では毎年、ロシアEEZ内などの漁獲量を定めているが、日本の漁獲枠は減少傾向にある。読売は外国公務員への賄賂提供という不透明な資金提供が明らかになったことで、今後の日露外交に影響が出そうだと指摘している。

スケトウダラにサケ・サンマ
 その後の読売の調べで、4社は裏金の一部を、04年に欧州連合に加盟するまでタックスヘイブン(租税回避地)とされていた地中海のキプロスなど、海外の金融機関に作られた法人の名義口座に送金していたことが分かった。また、サケ・サンマ漁を行う複数の漁業会社についても、関係者が読売の取材に対し、「ロシア国境警備局係官に、年間数十万円から300万円の現金を渡していた」と証言したことも明らかにされた。日露漁業交渉が本格的に始まったのは、旧ソ連との国交が回復した1956年で、ロシアEEZ内の漁獲枠を増やしたい日本と、水産資源保護を理由に枠を減らしたいロシアの構図で交渉が続いてきた。スケトウダラとサンマなどは日ソ地先沖合漁業協定で、サケ・マスは日ソ漁業協力協定に基づき、毎年の漁業枠が定まる。昨年の漁獲枠は92年に比べ、スケトウダラは8割減の約7700トンに、サンマは4割減の約3万5500トンに、サケ・マスは6割減の約8400トンにまで減少した。

拿捕され被害膨大よりはまし
 さらに、ロシアEEZ内で操業するに当たり、日本の漁業会社は交渉で決められた協力金や見返り金(入漁料)と呼ばれるカネをロシア側に支払う必要があり、昨年は地先協定に基づく負担額計約5億8000万円を支払った。それに加えて国境警備局の係官に賄賂を渡すのは、漁獲枠を超過して見つかれば拿捕され、漁獲した魚と共に漁船を曳航される。被害は膨大で、それなら、所得隠しなどで行政処分を受けても裏金で処理する方がましだ。読売はある漁業団体の幹部が「北方領土周辺海域は豊かな漁場で、返還されれば、多くの漁船がロシアEEZに行かなくてもよくなる。漁業交渉の枠組みも変わる」といい、北方領土の返還によって裏金のほか協力金などの負担も大きく減る可能性があると報じている。ところが昨年11月、メドベージェフ露大統領が国後島を視察後、露政権幹部の北方領土訪問が相次ぎ、道路、空港、学校、病院などのインフラ建設が急ピッチで進みつつある。

逆に「領土建設強化」の露政権
 12年の大統領選を睨み、プーチン首相との主導権争いを続けるメ大統領は、社会資本の拡充と観光地開発を謳った「クルリ(北方領土を含む)社会・経済発展計画2007~15年」の着実なる履行を目指し、1月中にも運輸や地域発展、教育科学担当の各閣僚が北方領土の訪問を予定している。同計画に直接関係ないセルジュコフ国防相の訪問予定について、読売は「露軍は近く、カムチャッカ半島の海軍基地に、戦略核搭載可能な新鋭のボレイ級原潜を配備する計画であり、現在、択捉島などに数千人規模の対空ミサイルや火砲部隊が駐留中とされる北方領土の配備が強化される可能性もある」と報じている。ロシアはこれまで平和条約締結の「日ソ宣言」(1956年)に「歯舞、色丹の2島引き渡し」が明記されたため、2島返還に固執してきた。日本は択捉、国後を加えた「4島の帰属問題を解決する」とした「東京宣言」(93年)を根拠に「4島一括返還」を主張してきた。

日本漁業締め出し水産資源輸出
 09年2月の日露首脳会談で、メ大統領は当時の麻生首相に「独創的なアプローチ」を模索すると言明した。それまで、北海道選出議員を中心に「2島先行返還論」もあったが、メ大統領発言をもとに麻生政権下では「2島返還」ではなく、歯舞、色丹、国後3島に択捉島の一部を加えた「面積2分の1返還」を密かに検討したことがある。ところが、メ大統領自身が上記のように、日ソ中立条約を破って不法占拠している北方領土を「領土建設」の名の下に「実行支配」を強化し、安全保障の面からも憂慮される事態が生じてきた。これには大統領選の思惑以上に、石油・天然ガス資源開発によってロシアが独自で自国の経済を急速に回復、北方領土返還の見返りに日本側に求めてきたシベリア開発などの経済協力の必要性が薄れてきたことも、メ政権を強気にさせた背景にはある。水産庁は「裏金」問題について調査を開始したが、読売の紙面では袴田茂樹青山学院大教授が「以前のロシアは日本に漁業枠を与えて対価を得る考えだったが、今は自国の漁業能力を向上させ、日本漁業者を閉め出して、自らで水産資源を輸出する、という形に変貌した」と解説している。このように北方領土と周辺に対するロシアの政策は大幅に変化しつつある。要注意だ。
朝日が12月30日に問題視した「中国軍の離島上陸計画」は次回に取り上げ解説したい。
                                                        (以下次号)