第234回(1月1日)機動性重視の防衛大綱 島嶼防衛巡り論戦も
 政府は12月17日、防衛力のあり方や中長期の運用指針を示す「防衛計画の大綱」と11年度から5年間の「次期中期防衛力整備計画」を閣議決定した。政権交代で鳩山前政権が策定を1年見送ったため、6年ぶりの改定である。大綱は今後10年程度の防衛力整備の基本となるもので、中国の急速な軍拡と日本周辺海域での活動活発化を「地域や国際社会の懸念事項」と指摘し、「南西諸島の防衛態勢の強化」を柱としている。特に自衛隊部隊を全国的に均等配分する冷戦型の「基盤的防衛力構想」を改め、機動性・即応性重視の「動的防衛力」の構築を打ち出している。具体的には陸上自衛隊の戦車数を約600両から400両に削減し、南西諸島の島嶼部に予算を充当するなど、主要装備を変更する。これら島嶼や北海道の陸自関連予算は、私が委員長を務める衆院沖縄北方問題特別委員会で審議される。焦点とされた武器輸出3原則の緩和は、菅政権が閣外協力など連携を模索する社民党に配慮して明記を避けたが、装備品の技術向上を図るうえでも3原則緩和は重要であり民主党内にも不満がある。通常国会は安保防衛を巡り激しい論戦が展開されよう。

南西諸島防衛に陸自戦力配備
 新大綱は「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(菅首相の諮問機関)が8月にまとめた報告書をほぼ踏襲。周辺事情について「中国は国防費を継続的に増加し、周辺海域で活動を拡大・活性化させている」としたうえ、「北朝鮮は喫緊かつ重大な不安定要因」と現大綱より表現を強めている。この認識のもとで、鹿児島、沖縄両県にまたがる南西諸島の防衛強化のために、自衛隊の空白地域である沖縄の宮古島以西を念頭に陸上自衛隊を配備するとし、巡航ミサイル対処を含めた防衛態勢の確立や海上輸送路の安全確保も明記した。また、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、ミサイル防衛機能を持つイージス艦の増強や、地対空迎撃ミサイル「PAC3」の全国展開も盛り込んでいる。動的防衛力に関しては、平時から情報収集・警戒監視・偵察活動を常時継続的に行うとし、「わが国の意思と高い防衛能力を明示する」と定義づけた。武器輸出3原則の緩和は明記しなかったものの、防衛装備品の国際共同開発・生産への参加が先進国で主流になっているとし、「国際的な環境変化に対応する方策を検討」との表現で、今後10年以内の緩和に含みを残した。部隊編成や主要装備の目標数を示す「別表」では、陸自の定員(編成定数)を現大綱より1千人削減して15万4千人、戦車を200両減らして約400両とした。また、自衛隊の階級・年齢構成の見直しや首相官邸に国家安全保障の新組織を設置する、などを挙げている。

中期防は火砲縮減、戦闘機増強
次期中期防衛力整備計画(中期防)は、アジア太平洋地域並びにグローバルな安全保障環境改善のため、即応態勢、統合運用、国際平和協力活動を迅速、積極的に実施するとともに、陸自は戦車と火砲の縮減を図り、5個師団、1個旅団の改編など基幹部隊の見直しを図る方針。総額は約23兆4900億円(調整費1千億円を含む)で、前中期防(05~09年度)より7500億円減だが、防衛予算が減少しつつある中で、単年度の単純平均では約4兆6980億円と、10年度予算額から微増の380億円増となっている。南西諸島防衛では、陸自の沿岸監視部隊新設や実働部隊の設置着手のほか、巡航ミサイル対処に向け、航空自衛隊那覇基地の戦闘機を現行の1・5倍となる36機に増強する方針を示した。早期警戒機E2Cの常時運用を可能にする基盤整備や移動警戒レーダーの展開も打ち出している。沿岸監視部隊は日本最西端の与那国島に約100人程度の配備を考えている。空自では、次期主力戦闘機FXの整備規模を12機と明記。米軍横田基地内に空自横田基地を新設し、東京・府中の航空隊司令を移し、日米間の相互運用性を向上させる。計画期間末の自衛官の定数は10年度末水準から約2千人削減、概ね24万6千人となる。

安保政策重要性気づく菅政権
 民主党政権初の防衛大綱は、「動的防衛力」の新概念のもと、昨年度まで21年連続で2桁以上に国防費を伸ばしてきた中国に対処するため、旧ソ連の侵攻を想定した北方重視から南西諸島防衛にシフトし、これまで16隻の運用だった潜水艦を22隻に増やすなど、「尖閣諸島防衛は日米安保条約の適用対象」と米政府が認めた見解に応えた点は、一応評価できる。60年の日米安保改定から半世紀を経て、「日米同盟深化」が強く叫ばれている今日、鳩山前政権は、「対等な日米関係」を唱え、日米中を等距離に見る正三角形の「北東アジア共同体」構想を掲げていた。それが米軍普天間基地移設の迷走で日米関係がささくれだった中、新大綱で現実的な防衛政策を打ち出せたのは、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件や北朝鮮の韓国砲撃などで、菅政権が安保政策の重要性にようやく気づき始めた兆候と言えよう。旧社会、旧民社などの寄り合い所帯で意見の相違が大きかった安保政策で一定の見解を示せたのは救いだ。しかし、首相は12月6日、社民党との連携協議で福島瑞穂党首から武器輸出3原則の緩和を明記しないよう求められ、あっさり応じてしまった。

武器輸出3原則堅持迫る社民
  「日本製の武器が世界中の子ども達を殺すことを望むのか。日本が『死の商人』になるのは平和国家にそぐわない」――。福島氏は翌7日昼、市民団体の集会で興奮気味に熱弁を振るい、夕刻には福山哲郎官房副長官を訪ね、3原則の堅持を申し入れ、大綱の目玉「島嶼防衛」「動的抑止力」についても「問題だ」と注文を付けた。消費相当時も国会答弁で「抑止力は憲法9条」と“丸腰論”を言ってのけ失笑を買った。ところで、武器輸出3原則は、共産圏を対象に佐藤内閣が制定したものを三木内閣で厳格にしたため、日本の防衛産業が防衛装備品の国際共同開発・生産に参画できず、最新技術から立ち後れる結果になっている。安住淳防衛副大臣が4日後に巻き返し、「10年先を見通した大綱に書かなければ(緩和の)検討は出来なくなる」と直談判し、「方策を検討する」の記述を盛った。米国は「今後の防衛費の効率性アップにとって良かった」と歓迎。北沢俊美防衛相も大綱決定の安保会議で「3原則を緩和しなければ、世界の先端から取り残される」と力説、念を押した。

島嶼・北方防衛にスイング戦略
 韓国の排他的経済水域(EEZ)で昨年末、中国漁船が韓国海洋警察庁の警備艦にまたも体当たりし、警察官を鉄パイプで殴るなど暴行を働いた。尖閣諸島でも再発が予想される。大綱で即応性と機動力を重視する「動的防衛力」を打ち出したのに合わせ、防衛省は今年夏、九州・沖縄地域での実働演習に陸自第7師団(北海道千歳市)を派遣する。第7師団は機甲科(戦車)と普通科(歩兵)、飛行隊などで構成された陸自唯一の機動部隊。北海道駐屯の基幹部隊で冷戦時代は対ソ抑止の中軸を担ってきた最強師団だ。陸自は今後の緊急事態に備え、北方など本州の部隊を沖縄・南西諸島に展開させるスイング戦略に重心を移す。89式装甲戦闘車12台や90式戦車を含め車両約25台と隊員約400人の部隊を参加させるが、米軍が保有するような大型の高速輸送船がないため、海自輸送艦と民間貨物船を借り上げ移動する。これら「動的防衛力」のスイング戦略が島嶼、北方の防衛に規模、装備、予算の面で適正かどうか。我が衆院沖縄北方問題特別委で論議する手筈だ。