第232回(12月1日)COP10の課題(下) 愛知ターゲット
 COP10が採択した「名古屋議定書」は、微生物や植物など生物遺伝資源を保有する途上国(保有国)とそれを医薬品に技術開発した先進国との「利益配分」のルールを策定したが、「愛知ターゲット」は生態系保全の世界共通目標を定めたものだ。要旨は「2020年までに健全な生態系を確保し、人間の豊かな生活が保障され、貧困根絶に繋がるよう、生物多様性の損失を止めるための効果的な緊急行動を起こす」とし、農水産業維持発展の将来目標を立てている。個別目標は①国や地方の開発、貧困削減戦略の策定では生物多様性の価値観が生まれるようにする②生物多様性の悪影響をもたらす補助金などの仕組みは最少に止めるため、廃止もしくは改革する③政府や企業は持続可能な生産、消費の計画を達成し、自然を回復不能にならない範囲で利用する④森林を含む全ての動植物の生息域の損失速度を可能ならゼロに近づけ、少なくとも半減し、劣化や破壊を大幅に減らす⑤全ての魚類と無脊椎動物資源、水生植物の管理・収穫について乱獲を防ぎ、激減した種の回復計画を進め、漁業によって絶滅の危険がある種や傷つきやすい生態系が大きく損なわれないよう持続的、合法的で生態系に配慮した方法を採る⑥16年までに珊瑚礁や気候変動、海洋の酸性化によって傷つく生態系に対する人為的な圧力を最小限にする――などだ。

48年に海洋資源枯渇の恐れ
 NHKは10月連休に「Save the future」(未来を救え)と題する生物資源問題を7時間番組で放送した。その中では、異常気象による干ばつや洪水、砂漠化による農地の縮小と食料生産の悪影響。地球温暖化による北極や氷河の溶解で白熊の滅亡など食物連鎖の崩壊と微生物の突然変異・変化。森林資源の乱開発によるオランウータンや猛獣などの個体数激減。バイオ燃料需要のためのトウモロコシなど燃料用作物の作付面積増加による食料生産の圧迫――などを余すところなく取り上げ、見所ある充実した内容だった。FAO(国連食糧農業機関)によると、2050年の世界人口は09年に比べ23億人増の91億人に達し、その人口を養うためには、食料生産量を現在よりも70%引き上げる必要があると試算している。今夏、100年ぶりの猛暑に見舞われたロシアでは、記録的な干ばつで穀物の作付面積の約2割に当たる1000万ヘクタールが壊滅状態となり、小麦などの輸出を禁止した結果、中東、アフリカ諸国などでは食糧不足の懸念が強まっている。08年には食料不足や価格高騰により世界各地で暴動が頻発したが、今年の世界の穀物在庫率は20%程度あって心配ないが、世界では約9億人が飢えに苦しんでいる。一部報道では、48年には海洋資源が枯渇し魚の味を知らない層が増えるとされている。

日本近海は生物多様性高い海
 読売新聞もCOP10では連日のように特集を載せたが、10月6日は海洋生物にスポットをあてた。それによると、かつては毛皮や脂、食用に狩猟され、1940年代に1500頭を越えていた銭形アザラシが70年代に600~900頭に激減。環境省が91年に絶滅危惧種に指定した結果、大幅に回復。アザラシ好物のニシンやスケトウダラが減ったため、北海道の襟裳岬沖で「秋サケ」最盛期に定置網を引き揚げると銭形アザラシに頭を食いちぎられたり、体が痛んだサケが網に残るという。他の漁種の減少とは裏腹に、シロザケは人工孵化技術の向上で70年代半ばから急増してきたが、温暖化が急激に進行した場合、約90年後に北海道ではサケの遡上が出来なくなるようだ。読売の特集では、世界80カ国、2700人の研究者が10年かけて「国際海洋生物センサス」をまとめた結果、日本近海は「世界でも有数の生物多様性が高い海」とされた。バクテリアからクジラなど哺乳類までの記録は3万3600種、世界で知られている全海洋生物の約15%にも上った。さらに約12万2000種も見つかると予想される。もっとも多かったのはイカやタコなどの軟体動物で約8700種、エビやカニなどの節足動物が約6400種だった。

クロマグロ絶滅阻止のモナコ
 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)にはモナコ公国の元首・アルベール2世公(52)も出席した。レーニエ3世公と米女優だったグレース・ケリー前公妃の長男で、ボブスレーで冬季5輪に5度出場し柔道初段でもあり、来年7月にシドニー5輪出場の南アフリカ元水泳選手シャーリン・ウイットストックさん(32)と結婚する。モナコは今春のワシントン条約締約国会議で、地中海産を含む大西洋クロマグロの国際商業取引禁止を提案、日本などの反対で否決された。読売のインタビューによると、モナコ公室は代々、海洋資源保護に熱心で、アルベール2世公は自ら南北両極を訪れ、環境保護をアピールしたほか、モナコと環境保護団体との緊密な協力関係を取ってきており、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の規制では不十分と認識している。アルベール2世公は「クロマグロが絶滅すれば、地中海の生態系はもちろん、漁民にも多大な影響を及ぼす。何としてでも防がなければならない」と訴え、「来年は漁獲量をさらに5割以上削減すべきだ」と強調、これが実現しない限り、次回会議でも禁輸措置を再度提案する構えだ。
 次号はパリで開かれたICCAT年次総会のクロマグロ問題を取り上げたい。(課題=完)