第230回(11月1日)COP10の課題(上)先進・途上国闘争
 「国連地球生きもの会議」と呼ばれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が10月18日から名古屋市で開かれ、29日に閉幕した。氷河期以来3500万種もあった生物は、地球の温暖化に加え森林の乱開発、魚類の乱獲などで毎年4万種が絶滅の危機にあるという。環境省によると、世界では毎年520万ヘクタール(九州と四国を足した面積)の森林が乱開発で失われ、魚の揺りかご・珊瑚礁の2割は既に絶滅し、今後20年でさらに2割が消滅の危機にあるという。COP10は持続可能な開発を念頭に生物多様性の保全と利用、生物遺伝資源の利用から生じる公正な利益配分などを検討し、①生物多様性保全の世界共通目標②医薬品などの原料になる生物から得られる利益を原産国と利用国で配分するルール――などを討議した。食料、医薬と様々に利用されてきた多様性生物は、遺伝子情報を駆使するバイオ技術で巨額の利益を得る先進国と薬草・根など生物遺伝資源を提供する原産国・途上国の間で利益争奪戦が続いており今回の会合でも明解な解決策は見出せなかった。先進国と途上国の攻防は11,12月にメキシコで開く気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)に引き継がれる。これらの会議は当然、農林水産業の将来に大きな関わりを持つ。自民党の水産部会長を2度務めた私は、多大な関心を持ってCOP10と16の推移を見守ってきた。今回のCOP10を検証してみよう。

「名古屋議定書」の採択不発
 COP10は議長国日本(議長=松本龍環境相)が主催し、世界で進む野生動植物の絶滅をどう食い止めるかが主たるテーマ。微生物など生物遺伝資源を利用した医薬品などの利益配分ルールを盛り込んだ「名古屋議定書」の採択、「多様性保全の世界共通目標作り」の両作業部会で、約10日間協議したが、各国の隔たりは大きく、利益配分の対象を巡って先進国と途上国が激しく対立した。途上国で採れた生物資源と同様の物を人工合成で作り、医薬品などに生かした場合、人工合成した「派生物」も利益配分対象に含めるよう求める途上国に対し、先進国は生物資源そのものに限るべきだと反対し、会期末までもつれ込んだ。人工合成技術は進歩しており、抗生物質ペニシリンも当初は青かびで作ったが、今は大量生産の製法が確立。「薬の王者」アスピリンは、インドや中国で古くから使ったヤナギの樹皮エキスが原料。インフルエンザ治療薬「タミフル」は、中華料理に用いられるハッカクの遺伝子情報を基に作られている。COP10には、11日からの関連会議を含め約160カ国・地域から約1万人が参加、13年前に開かれた地球温暖化防止京都会議以来の大規模場な環境会議だ。2大テーマのほか、海洋、陸上の生態系保全策など25の議題があり、作業部会で討議した。100人以上の各国環境担当閣僚会議も開かれた。

LMOの補足議定書は採択
 COP10に先立つ11~15日、関連会議の「カルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)」では、遺伝子組み換え生物(LMO)に関する「名古屋・クアラルンプール補足議定書」を採択、1つの成果を上げた。LMOは収量増を目的に、除草剤にも強く特定の害虫を殺す遺伝子を組み込んだトウモロコシや大豆、綿、菜種など、世界20カ国以上で生産されている。日本では食料、飼料用ともLMOは生産されていない。補足議定書は、輸入したLMOが在来種を駆逐するなど、生態系に被害を与えた場合の対応を定めたもので21条の構成。締約国は、LMOの開発企業、輸送業者など被害を起こした事業者に対し、現状回復などの対応を求めることが出来、生態系破壊に補償請求権の国際的ルールが確立された。補足議定書の対象となるLMOは、加工食品や調味料、油など手を加えた物は含まず、LMOそのものによる被害に限定した。日本は既に国内法でLMOの生体系被害が出た場合には事業者が必要な対応をとるよう義務付けており、議定書採択による影響はない。締約国の中には国内法が未整備の途上国もあり、補足議定書が出来たことで法整備が急がれる。関連会議では、LMOが生態系に悪影響を及ぼした場合の賠償問題で輸出国と輸入国が対立したが、COP10の本格討議でもバイオ技術で巨額の利益を得る先進国と、生物遺伝資源を提供する途上国の間で利益配分を巡り激しく対立した。
 COP10は結局、29日夜から翌30日未明にかけた全体会合で、議長の松本環境相が提示した「名古屋議定書」と「愛知ターゲット」を正式に採択して閉幕した。名古屋議定書は、最大の焦点となっていた生物遺伝資源の利用に伴う利益配分の国際ルールで、微生物や植物などの生物遺伝資源を使って医薬品などを開発した場合、その利益を遺伝資源の原産国にも配分するためのルール。愛知ターゲットは生態系保全のための世界共通目標だ。名古屋議定書は、来年2月以降に各国の署名手続きが行われ、50番目の国・地域が批准した後、90日たつと発行する。(以下次号)