第229回(10月16日)急げ防衛計画大綱 尖閣の失態回復を
 政府が9月10日に発表した10年版防衛白書は、日本近海で活動を活発化させている中国軍に対し、「国防政策の不透明性や軍事力の動向は、地域・国際社会にとっての懸念事項であり、慎重に分析する必要がある」と明確に「懸念」を表明した。中国は南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島とパラセル(西沙)諸島の海底資源確保を目指し、自国の漁船保護を名目に艦船を派遣し、台湾やベトナム、フィリピンなど東南アジア諸国との摩擦が増大している。今春には中国海軍の駆逐艦など10隻が沖ノ鳥島西方まで進出し、艦載ヘリが海上自衛隊の護衛艦に異常接近する示威的行動を繰り返した。揚げ句には前号で取り上げたように、尖閣諸島沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件で対日圧力を相次いで強化、東シナ海のガス田共同開発でも日本との条約交渉を延期し、中国「東洋艦隊」の駆逐艦を「白樺」周辺に派遣し軍事的威圧を掛けようとするなど、海洋権益確保を目指している。中国は潜水艦の建造を急いでおり、国防費は過去10年で約4倍、米韓両国も2倍以上になったのに、日本だけが防衛予算を5%削って子ども手当以下に抑えつつある。

基盤的防衛力構想見直し提言
 政府の安保懇・「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(首相の諮問機関、座長=佐藤茂雄京阪電鉄最高経営責任者)は8月27日に報告書を提出。「基盤的防衛力構想」の見直しを提言した。それによると、冷戦時代以降、自衛隊を全国に均衡配備する根拠となってきた同構想は、現在の安全保障環境にそぐわないとして撤廃を求め、朝鮮半島や台湾海峡の限定的で小規模な侵略などの有事に「能動的、複合的」に対処できるよう「機動的、弾力的、実効的な防衛力整備」を提起している。また、世界の平和と安定に貢献する「平和創造国家」を目指すべきだとし、国連平和維持活動や海賊対処、災害救援活動に積極参加できる整備を促進するよう提言。集団的自衛権は、米国に向かうミサイルの迎撃を可能とするよう憲法解釈を見直すべきだとの過去の議論を踏まえ、自衛隊が想定演習を行えるような態勢の整備を促している。武器輸出3原則は、装備品の国際共同開発・生産への開発コスト削減や他国との安保協力の深化に繋がるとして、早期緩和を求めている。

金正恩氏後継で先軍政治強化
 日米同盟は、日本の安保戦略や地域の安定に極めて重要であるとし、戦略的にも沖縄の米軍基地の安定運用に向け、基地の日米共同使用の推進などを提言している。安保懇は2月に新発足し議論を重ねてきたが、自公政権下の前安保懇が昨年8月にまとめた報告書と現状認識を共有している。報告書は政権交代で策定が1年遅れた「防衛計画の大綱」のたたき台になるものだ。管政権が提言をどれだけ取り入れるか注視しなければならない。9月28日の朝鮮労働党代表者会で、党の組織と機能を強化した北朝鮮は、金正日総書記(68)の三男・金正恩氏(27)を後継者としてデビューさせ、大将の位を与え、党軍事委員会で金総書記に次ぐ副委員長に任命した。権力継承期の「先軍政治」はさらに強化されよう。日本全土を射程に置くノドン100基の配備を終えた北朝鮮は核・新ミサイルの開発に狂奔。金親子政権は10日の朝鮮労働党創建65周年の軍事パレードを閲兵したが、旧ソ連の潜水艦発射弾道ミサイルを改良した「ムスダン」や旧ソ連製迎撃ミサイルが登場した。中国も海軍を中心に急速な軍拡を進め、北東アジアの緊張は日増しに高まっている。

ホルムズ海峡でテロ攻撃確認
 オーマン領海内のホルムズ海峡では7月末、商船三井の大型原油タンカー「M・STAR」(16万トン)が航行中に右則後方を損傷。アラブ首長国連邦(UAE)当局による調査の結果、手製の爆発物の残骸が見つかり、同国通信は「テロ攻撃が確認された」と報じた。爆発物を積んだ小型ボートが接近して爆発したと見られるが、国際テロ組織アル・カイーダ系の「アブドウラ・アザム旅団」は8月3日、「自爆攻撃を敢行した」との犯行声明を出したという。ペルシャ湾岸から世界の原油供給量の20%、我が国供給量の80%が通過するシーレーンの要衝である。インド洋と太平洋を結ぶシーレーンでは、記憶に残るものとして、2000年にイエメン・アデン湾で米駆逐艦を狙った爆破テロ、02年にイエメン沖で仏大型タンカーが爆発炎上、05年にマラッカ海峡で日本船籍タグボートの船長ら3人が海賊に拉致、08年にイエメン沖で日本郵船大型タンカーが小型不審船からの銃撃、09年にソマリア沖で商船三井の自動車運搬船が小型海賊船からの銃撃――などテロの脅威にさらされているが、ホルムズ海峡で攻撃されたのは初めてのケース。

テロ組織が原油市場不定化狙う
 ソマリア海賊対策のために海賊対処法が昨年7月に成立して1年が経ち、海自の護衛艦が哨戒機P3Cとともに24時間体制で海と空からアデン湾を航行する民間船舶の護衛に当たっている。だが、09年にはソマリア海域で217件の襲撃事件が発生、08年の111件から倍増した。原油市場を不安定化させ、世界経済を揺るがすのがテロ組織の狙いのようだ。自民党は海上自衛隊によるインド洋での給油活動を再開するための「テロ・海賊対策支援活動特別措置法案」(仮称)を今国会に提出する。同法案は、今年1月に期限が切れた新テロ対策特措法で行っていた給油活動などを再開させるとともに、対象をアフリカ・ソマリア沖で海賊対策に取り組む各国艦船にも拡大する内容。活動期限は2年間とし、閣議決定する実施計画の変更により2年以内の延長も可能とした。しかも、国会承認は不要で、実施計画の決定時や活動終了時に国会に報告するとし、法運用の自由裁量を認めている。

具体的安保観持たない菅首相
 外交・安保“音痴”の鳩山前首相は、自衛官とNGO組織の医師を連携させた「友愛ボート」と名付ける海自の輸送艦を東南アジアに派遣するなど人道支援活動ではしゃいでいたが、「現実路線」の外交を掲げる菅首相も尖閣諸島問題で失態を演じたように具体的な安保観は持っていない。民主党内には日米同盟の積極支持派や旧社会党系の同盟批判派、小沢氏のような日米同盟よりも国連を重視する右派などが混在していて政策にまとまりがない。前号で述べたことを繰り返すが、最大の欠陥は、保革寄り合い所帯の民主党には依然として党の綱領がなく、国の根幹である外交・安全保障について明確な指針がないことだ。尖閣の漁船事件以降、中国には舐められっ放しだが、日本の弱腰外交は東南アジア諸国の信頼も失いつつある。政権担当の資格を欠いた民主党に対し、自民党は今国会で外交・安保問題を厳しく追及しているが、国際社会でも中国の不条理を強く訴え、せめて発言力強化のため、我が国の悲願である国連安保理事会の常任理事国入りを果たさねばならない。