第228回(10月1日)菅政権の外交・安保政策を斬る(下)尖閣諸島で許せぬ中国の横暴
 尖閣諸島(中国名・釣魚島)沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件は日増しに日中関係を悪化させている。中国は船長逮捕に5回も抗議、最終回は副総理級の国務委員が異例にも休日深夜に丹羽宇一郎駐中国大使を呼び出して恫喝するなど高飛車に出た。その後も全人代副委員長の訪日中止、東シナ海ガス田共同開発の条約交渉・閣僚級交流の停止、航空路線増便協議の中止――など経済、軍事、外交の各分野において対日圧力を続々と繰り出し、北京の日本大使館や上海、広州の総領事館などにも抗議デモが押し掛けた。経済面では、中国の健康食品メーカー「宝健日用品有限公司」が10月上旬に計画していた社員1万人規模の訪日団体旅行を中止した。買い物など経済効果が数億円に上ると見られていただけに関係者はショックだ。逆に上海万博に招待された日本の若者1000人の青年交流も万博の混乱が懸念されて中止、10月に予定したSMAPの上海公演と武漢での長崎県にゆかりある「孫文と梅屋」展も延期された。訪日中国人が秋葉原などで購入する高級炊飯器や化粧品などの平均支出額は約13万7千円。政府は中国富裕層に限定していた個人向け観光ビザの発給要件を大幅に緩和、消費拡大に繋がると期待したが、裏目に出た。

経済・軍事・外交で報復措置
 中国は菅改造内閣で「対中強硬派」「知米派」の前原誠司氏が外相に就任したことに警戒感を強めている。前原氏は05年末、北京の外交学院で講演し、「中国は軍事的脅威」と発言。中国軍幹部との会談でも、中国の軍事増強について激しい応酬を繰り広げた。今回も「逮捕した中国漁船船長の処分は国内法に則り、粛々と行う」方針を言明した。胡錦濤政権は中国人船長の10日間拘置延長が決まったことに反発し、報復措置を検討。経済面では、旅行社の訪問ツアー自粛、国家観光局による訪日渡航の自粛を勧告したり、東シナ海のガス田「白樺」(中国名・春暁)に掘削用らしきドリルを搬入し、単独開発を推進する構えを見せた。また、「東海艦隊」駆逐艦数隻を白樺周辺に派遣し、軍事的威圧を掛ける案も検討中だ。外交面では9月末の国連総会に続き、10月の東南アジア諸国連合(ASEAN)など一連の首脳会議での日中首脳会談を拒否。11月に横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議へ胡国家主席は欠席し、代理出席なども検討している。温家宝首相はニューヨークの国連総会に出席した21日、在米中国人会合で演説し、逮捕された船長の即時無条件釈放を求め、「日本が独断専行で(司法手続きを)進めるなら、中国は一層の行動をとる」と述べ、ついに中国NO3の首脳までが外交戦を宣言した。

日中改善事業の4社員まで拘束
 報復・対抗措置としては直ちに、河北省石家荘市の国家安全局が23日、同省内の軍事管理区域に進入し「不法に軍事目標をビデオ撮影した」として、中堅ゼネコン「フジタ」(東京)の日本人4人を拘束したと発表。さらに、中国政府が同日、日本の商社に対し省エネ家電やハイブリット車の部品に不可欠なレアアース(希土類)の輸出を停止したと公表した。「フジタ」は旧日本軍の遺棄化学兵器処理事業に携わる企業。同社は「戦争の負の遺産を清算しようと進めてきた事業なのに」と衝撃を受けている。日中関係の改善事業に従事する社員を拘束するとは言語道断な仕打ちだ。読売は18日のコラム「とれんど」で、浜本良一論説委員が「一連の対応を見ていると、中国軍が最近、強調している『三戦』を忠実に実行しているなと感じさせられる」と述べ、①メディアやネットに自国に有利な情報を流し世論を誘導する「世論戦」②偽情報を流したり威圧して相手の意思をくじく「心理戦」③先手を取ってルールを作り、法解釈を自国に有利になるように進める「法律戦」――など古代中国の「孫子」の兵法を挙げ、「中国メディアに対し、巡視船が中国漁船に衝突したという主客転倒の偽情報を流した『世論戦』。日本大使を連日呼び出し対日強硬姿勢で威圧した『心理戦』。尖閣は中国領土と主張する『法律戦』の三戦だ」と解説した。

鴉を鷺の偽情報「盗人猛々しい」
 日本政府は明治時代の1895年、入念な現地調査で中国(当時は清国)の支配が及んでいないことを確認したうえ沖縄県に編入した。戦後は72年の沖縄返還まで米国の施政下に置かれたが、中国、台湾は異議を唱えず、60年代に中国や台湾で発行された地図にも日本領土として記載されていた。ところが、70年代以降、尖閣諸島周辺に石油、ガスなど海底資源が豊富にあることが分かり、中国は92年に制定した領海法で自国の領土と明記、台湾は99年に領土として領海の基準線を定めた。96年には台湾と香港の活動家が一時上陸し、中国旗などを立てたこともある。中国は清国以前の明国時代、沖縄の前身・琉球王国を属国視してきた経緯から、「中国の神聖な領土」(温家宝首相)と述べている。「盗人猛々しい」とはこのことで、まさに「カラスをサギ」と言いくるめる詐欺的な偽情報の発信だ。官邸には国民の抗議電話・ファクスが殺到したと言う。全国知事会は10月末に都内で開く予定の「日中知事交流・フォーラム」を延期したが、衆院議員時代、尖閣諸島上陸の計画を立てた石原慎太郎都知事は「強盗の手口だ」と怒りをぶちまけている。

那覇地検「政治的配慮」で釈放
 このように国民の不満が高じた矢先、那覇地検は24日、中国人船長を処分保留のまま釈放。中国は25日未明、チャータ-機を石垣空港に差し向けて船長を送還。中国外務省は「尖閣は中国固有の領土。中国人船長に対する日本側のいわゆる司法手続きは、全て違法で無効だ」と、勝ち誇るような副報道局長談話を発表した。柳田稔法相は船長釈放について、「指揮権を行使した事実はない」との談話を発表したが、菅首相は「超法規的措置は取れないか」と側近に苛立ちをぶっつけていたという。那覇地検の鈴木亨次席検事は記者会見で「故意に衝突させたのは明白だが、追跡逃れにとっさに取った行為で、計画性は認められない」としながらも、「我が国国民への影響や今後の日中関係も考慮すると、身柄を拘束して捜査を続けることは相当でない」と説明、福岡高検、最高検と協議し「政治的配慮」を加えたことを明らかにしており、首相の苦衷を察して釈放したことに間違いなさそうだ。司法の番人、「法」の下僕であるべき検察が「政治的配慮」をしたり「証拠隠滅事件」を起こすとは呆れ返る。前号で述べた通り、鳩山前首相が5月の全国知事会議で、尖閣の帰属問題が未解決であるかのような誤ったメッセージを伝えたことと、小沢一郎元幹事長が昨年末、財界人を含め約600人も引き連れ、民主党議員143人に胡錦濤国家主席との2ショット撮影をお願いした「朝貢的な訪中団」派遣が中国を強気にさせた背景にある。

政治的パフォーマンスばかり
 それに、胡政権は小沢氏を通じ、昨年12月の習近平・国家副主席と天皇陛下の会見を強引にセットさせたいきさつもあり、菅政権を揺さぶれば何とかなる「与し易い相手」と見なしてきた。時あたかも、民主党政権は辺野古の基地移設を巡って日米同盟関係を弱体化させている。中国は「対中強硬派」の前原外相を抑え込んで菅政権への圧力強化を狙うと同時に、中国内の反日世論も盛り上げ、したたかな外交で優位に立とうとしている。既成事実を積み重ね、一気に権益を拡大させるのは中国の常套手段だ。国連総会に出席した岡田克也外相にクリントン米国務長官は「尖閣には(日本への防衛義務を定めた)日米安保条約5条が適用される」と明言。菅首相とオバマ米大統領の日米首脳会談でも、「両国が関心を持って(中国の出方を)注視し、緊密に連携する」ことで意見が一致した。外交・安全保障政策に弱いのは鳩山、菅氏に共通している。鳩山前首相は哨戒艦事件を渡りに船とばかり、「沖縄の米海兵隊は核抑止力に重要」との認識を示し、迷走・膠着状態にあった普天間飛行場移設の決着に利用した。おまけに大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫・元工作員を軽井沢の別荘に招くレールを敷いた。死刑判決が確定後、特別赦免された金工作員は入管難民法上、テロ関与者で入国拒否の対象になるが、菅政権は「国民に憤りと関心を持って貰うため」(中井洽前拉致担当相)と、超法規的に鳩山提案を了承、横田滋夫妻らに軽井沢で面会させた。帰路はヘリで東京を見物させるという拉致問題PRの政治的パフォーマンスに役立てた。金賢姫招待の費用は1億円というが、北朝鮮は面白いはずがない。

自民、戦後補償の再燃を懸念
 菅首相の外交姿勢にも同じ甘さがある。菅首相は8月11日、日韓併合100年に合わせ「韓国の人々の意に反した植民地支配だった。痛切な反省と心からのお詫びを表明する」との「首相談話」を発表した。戦後50年の村山首相談話を踏襲したが、未来志向の関係構築に向けサハリン残留韓国人らへの人道支援、植民地時代に入手した朝鮮王朝ゆかりの図書を引き渡す方針も盛り込んだ。王朝ゆかりの図書引き渡しが賠償問題の蒸し返しに繋がるとの懸念に対し、首相は記者会見で「お渡しするとの表現を使った」と説明。返還ではなく日本の国有財産を譲渡する形を取ると指摘し、対日請求権問題は日韓基本条約の付属協定「請求権・経済協力協定」で解決済みであることを強調した。しかし、民主党内では、政府が首相談話決定を党側に伝えたのは8月8日夜で、「党内論議が出来ず、党が軽視された」との不満が強く、小沢Gの松原仁衆院議員は「内閣が代わる度にこうした談話を出すなら、永久的に自虐的な国家から脱却できない」と述べ、首相談話に批判的な中堅・若手議員15人と同月12日、東京のホテルで勉強会「日本国研究会」を設置して抗議文を作成、代表選で一致した行動を目指すことを確認した。

韓国側と事前打ち合わせた談話
 尖閣諸島を上陸視察したことがある西村真吾前民主党衆院議員(弁護士)は、10月号の雑誌「WiLL」に「歴史を捏造した菅談話」と題して投稿。「菅談話は村山談話とそっくりの植民地支配への謝罪と断罪で15年の時空を経た見事な捏造の合作だ。8月15日に李明博韓国大統領が『光復節』で演説する内容に菅談話を入れる必要上、事前に密かに韓国側と打ち合わせた。菅氏や与党幹部は自社連立の村山内閣時代に与党議員として権力の臭いを嗅いだ左翼として成長してきた」との趣旨で、こっぴどく批判した。ジャーナリストの桜井よし子氏も同誌で、「菅談話を貫く思想はまさに旧社会党の発想だ」とし、光復節の李大統領談話で「日本政府は初めて植民地支配を反省し、韓国人に謝罪した。しかし、解決すべき課題がまだ残っている。両国は具体的実践を通じ、新しい百年を作って行かねばならない」と述べた点を取り上げ、謝罪・補償要求が定型化すると批判した。

愚か首相と軽率無知な官房長官
 産経新聞も社説などで同様厳しく批判している。これに対し、公明、社民両党は首相談話を評価したが、自民党の谷垣禎一総裁は「未来志向の外交関係に妨げとなったと強く懸念する。(内容が)後ろ向きだ」と批判、外交部会を開いて臨時国会で追求する方針を固めた。安倍晋三元首相も下関市で、戦後補償問題の再燃に懸念を表明し「愚かな首相、軽率で歴史に無知な官房長官だ」と酷評した。このように、菅政権は金工作員の招待や「首相談話」など、軽率な外交姿勢として波紋を描いているが、最大の欠陥は、保革寄り合い所帯の民主党には依然として党の綱領がなく、国の根幹である外交・安全保障について明確な指針がないことだ。「首相談話」や尖閣諸島衝突事件の対応は、元々外交・安全保障に何ら定見を持たず、国民にポーズだけ見せる菅政権の本質を暴露したものだ。尖閣諸島問題で外交的敗北を喫した菅政権を見て、韓国も補償問題再燃に加え、竹島(韓国名・独島)の領有権主張を強化するに違いない。衆院沖縄・北方問題特別委員長として、領土問題、離党防衛などの舵取りをする私の使命は重いが、精一杯頑張りたいと決意している。(完)